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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第十幕  常盤紅葉と野上アンの明暗
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九十六・使い捨ての紅葉

九十六・使い捨ての紅葉



「ふっざけんなよ! どういうことだよ!」


 楽屋に、紅葉の怒声が響く。


「ふんふふーん。だから、いま、言った通りだよ。常盤紅葉の職務は、警備だろ?」


 十六夜が、飄々として紅葉と話している。


「そりゃ、わかってんだよ! だからって、なんで今日の金は払わない話になるんだよ!」

「ふふーん。だって、あの男にあれほどされて、イベントは台無しじゃないかぁ」

「だからって、なんでアタシのせいなんだよ! あの眼鏡ファイヤー野郎は、ちゃんと警察に捕まって、終わったじゃんかよ!」


 紅葉は十六夜に掴みかかる。その手をぱしっと振り払う十六夜。


「おいおいー。乱暴するなよ。・・・・・・実際に、鳥嶋安男を倒したのは、キミの母親だったじゃないか。キミは契約の『トチベリー25の警備』は全うできなかったって判断だねー」

「おい、ブスバイトの常盤紅葉! 私たち、危うく死ぬところだったわ。お前が手抜き警備するから、やばかったんだぞ!」

「「「「「 あー、こわぁい! 死ぬところだったぁー 」」」」」


 トチベリー25のメンバーも、野上の後ろで声を揃えて喋る。


「く・・・・・・っ! アタシは、ちゃんとやったよ! それにしても、金を一円たりとも払わないなんて、詐欺じゃんか! 昨日はくれたくせに、何でだよ。アタシはちゃんと、所定の位置について、警備したっての!」

「おい、常盤紅葉! お前、私に、親父と同じだとか何だとか、散々言ってくれたよな?」


 野上とトチベリー25のメンバーが、紅葉に詰め寄る。


「なんだよ? だって、お前の昔話聞いたら、そーじゃ・・・・・・」


   パアァンッ!


「い、いってぇー・・・・・・っ! お前、アタシを何発ひっぱたけば・・・・・・」

「うるせーんだよ、ブス! ・・・・・・お前。そんなヤンキー風な感じだけどよ、さっき、母親に抱きしめられてた時のあの顔、何よ? 気にいらねーんだよ、甘ったれが!」

「な、なにーっ?」


 トチベリー25たちに羽交い締めにされ、また、紅葉は野上の平手打ちを受ける。


「よしなさい、野上。・・・・・・あー、常盤紅葉さん。契約書にも書いてあるんだ。『雇用者は、契約者が警備の職務を怠り、警備対象者およびイベントに危険が及んだ場合、職務遂行できなかったと見なすことができる』とね? もちろん、きみのサインもされているよ?」


 一ノ瀬が、紅葉にぺらりと労働契約書の写しを見せた。


「・・・・・・あ、あのよー。・・・・・・その契約書、アタシ、写しをもらってねーんだよ。悪いんだけど、くれねーかなぁ? 今日で終わりでも、家でもう一度、じっくり読んでみてーし」

「うん? ・・・・・・写し、渡してませんでしたかね。わかりました。いいでしょう」


 一之瀬は、セカンドバッグから厳封された茶封筒を取り出し、紅葉に渡した。


「(家に帰ったら、この契約書をまずママとパパに見せて、後日、こいつらの不正を暴いてやる! ふっざけやがってぇー・・・・・・)」

「情け無いわね、常盤紅葉。ま、当然よね? 私たちの警備が仕事なのに、イベントは台無しで、七人とも危険な目に遭ったんだからね! そんな手抜きバイトに払う金は、ガブーンバイパー社には、ないわぁー? きゃはは!」


 野上が、紅葉を見下して、高笑いしている。


「私たちは、今日で国内公演は終わり。世界に羽ばたくの! きゃは。お前みたいな、こき使われるだけの汗臭いバイトとは、違うのよ! 自力で、華々しくのし上がってやるわ!」

「う、うるせーっての、野上アン。・・・・・・お前ら、ヤバいぞ! 大麻だの、やべーことに手を染めてまで、こんな世界にいたいんかよ! 捕まる前に辞めた方がいいんじゃねーの?」


 野上と紅葉のやりとりを、一之瀬と十六夜は「やれやれ」と眺めている。


「ふんふふーん。トチベリー25のみんな、とりあえず、二日間お疲れ様だったね」

「そんなことないですぅ、十六夜部長。それで、詳しい海外公演のお話はぁ?」


 野上は、紅葉に見せていたきつい表情を一転させ、にこやかに十六夜へ縋り寄る。


「ふふふーん。・・・・・・まずは、アジアだね? 東南アジアあたり、どうかな?」

「「「「「 きゃああー。いいですねぇーっ! 」」」」」


 甲高い声を上げてはしゃぐ、トチベリー25のメンバーたち。


「東南アジア! シンガポール? マレーシア? 最初は、どこですかぁー?」

「焦らないでくれよ、野上。・・・・・・ふふーん。まずは、ベトナムかなぁ?」

「ベトナムですかぁ。わぁ! 楽しみです! めいっぱい頑張りますよぉ!」

「ふんふふーん。そうかぁ、じゃあ、めいっぱい頑張ってくれよなぁー」


 十六夜は、前髪をさっとかき上げ、ふふっと笑っている。

 一之瀬は、十六夜の横で目を閉じ、口元をくいっと上げて少しだけ笑った。


「みんな! 世界に羽ばたくのよ、私たちは! いいね? きゃはははぁ!」

「「「「「 野上さん、最高でぇす! がんばりましょー 」」」」」


 紅葉は、トチベリー25たちに背を向け、ドアノブに手を掛けていた。


「うん? 常盤紅葉さん。どうしたんだね? 部屋を出るのかい?」

「うるさい! アタシはもう、帰る。バイト代も出ねーんじゃ、ここにいてもしゃーない」

「ふぅぅ・・・・・・。困ったもんだ。・・・・・・まぁ、待ちなさい。今日のことは残念だったが、どうだろう? もっと、働いてみる気は無いかね? お金が必要なんだろう?」


 一之瀬は紅葉に近寄り、話を持ちかける。紅葉は、一之瀬の顔を上目遣いで睨んでいた。


「いくら金が必要でも、こんなとこは、もうごめんだね! 帰るよ! じゃあな!」


 そう言い切り、紅葉は部屋を出て行った。一之瀬は溜め息をつき、十六夜に目で合図した。


「わかりました、専務。ちょっくら、話をしてきますよ。ふんふふーん」


 紅葉を追って十六夜も部屋を出る。一之瀬はその後、楽屋の椅子にゆっくりと腰掛けた。


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