九十三・イベント会場に飛び交う炎
九十三・イベント会場に飛び交う炎
「「「「「 ありがとぉございましたーぁ! はぁい! ありがとぉー 」」」」」
「「「「「 しばらく海外活動になりますが、応援してくださいねー 」」」」」
わいわいわいわいわいわいわいわい わいわいわいわいわいわいわいわい
「(アタシには理解不能だ。たかが女と握手すんのに、なんでこんな賑わいに・・・・・・)」
トチベリー25のメンバーは、お客さん一人一人と、にこやかに握手をしている。紅葉は、あくびをしながら、会場の隅でぷらぷらとさぼっている。
「きゅーんきゅーん! の、野上アンちゃんだぁ! ファンです! きゅーん!」
太った男が、野上と何度も握手を交わす。
「はぁい、ありがとね! これからも応援して下さい! ねっ?」
「わぁお! きゅーんきゅーん! ウ、ウインクしてくれたぁ! きっと俺を好きだ!」
「(んなわけねーだろ、キモオタデブが! とっとと消えろ!)」
野上は、キラキラした笑顔で、心の内を一切見せることなくファンと握手している。
「(野上アン・・・・・・。さすが、裏表が激しい女だ。・・・・・・プ、プロだな・・・・・・)」
紅葉はそんな野上を、呆れたような顔で引き気味に見つめている。
がやがやがやがや がやがやがやがや がやがやがやがや
「「「「「 はぁい! ありがとうございましたぁーっ! 」」」」」
次々と、トチベリー25のメンバーと握手する客たち。熱狂的なファンはまた並び直そうとするが、スタッフに「一回だけです」と言われ、文句を言って渋々と会場を出て行く。
・・・・・・ずちゃり
・・・・・・ずちゃり
・・・・・・ずちゃり
「あーぁ。早く終わんねーかなぁ。バイト代もらって、早く帰りたいよ・・・・・・」
背伸びをして、ぷらぷらと歩き回る紅葉。
・・・・・・ずちゃり
・・・・・・ずちゃり
・・・・・・ずちゃり
一歩ずつ、トチベリー25のメンバーに忍び寄る足音。
その遙か後方には、会場に入ってきた小紅と優太の姿も見える。
「あ! ねぇ、紅葉いたよ! あんなところで、暇そうにしちゃって。こっち、気づくかなぁ? あたしたちの方、向かないかなぁ」
「手を振ってみようか? 気づくと良いんだけど」
小紅と優太が、紅葉に向かって大きく手を振る。紅葉はぷらりぷらりとしながら、そっちにふと目を向けると、その動きに気づいた。
「え! ママに、パパじゃん! ・・・・・・なんだよ。昨日は優璃たちも来てるし・・・・・・」
紅葉が目を向けている方とは逆の方から、鳥嶋が一歩ずつ近寄ってくる。
・・・・・・ずちゃり
・・・・・・ずちゃり
ずちゃぁ・・・・・・
「「「「「 はぁい! ありがとうございました! また応援してね! 」」」」」
握手を続けるトチベリー25。そして、ついに、鳥嶋が動いた。
がばあっ! ばばばばっ!
「「「「「 ! きゃああああああああ! 」」」」」
「な、なんだ? 悲鳴? ・・・・・・え! ・・・・・・あ、あいつはっ!」
紅葉は悲鳴に驚き、トチベリー25の方へ目を向けた。そこには、靴下に隠し入れていたスプレー缶とライターを両手に持った鳥嶋が。
「はひひ! ひ、久しぶりだぁーっ! ト、トチベリー25! ミ、ミーを覚えてるかにゃ? ふひひふひ! 鳥嶋やっちゃんだよぉ。・・・・・・今日はもう、拒否れない! ミーは、鳥嶋やっちゃんさ! はひひひ!」
客が一気に、会場の外へ逃げてゆく。
ワアアアアアアアアアアア ワアアアアアアアアアアーッ!
「あぁ、もう! 押さないでよ! あたしの娘があそこにいるのよ! ・・・・・・く、紅葉ぁ! 逃げなさい! だめ! 危険よ! 紅葉ーっ!」
小紅と優太は、その人波に押され、会場の外まで押し出されてしまった。
「なんだお前は! こら! やめなさい!」
「はひひ。じゃまじゃままー。・・・・・・うるとらふぁいやーっ!」
シュボアッ ズボオオオワアアアアアアアア!
「「 ぐあああーっ! 」」
捕り押さえようと駆けつけた警備員たちは、鳥嶋の火炎放射で焼かれ、その場に呻きながら転がった。鳥嶋は、その倒れた二人へ、さらに追い討ちのように火炎放射。
「にゃらぴっぴー。ミーは、鳥嶋やっちゃん! ミーは、鳥嶋やっちゃん! にゅわあ!」
シュボアッ ズボオオオワアアアアアアアア!
「け、警備員が! おい、やめろーっ! お前だよ、お前!」
紅葉が鳥嶋に向かって叫ぶ。トチベリー25のメンバーは、ぶるぶると震えている。
「あの脅迫文の犯人は、鳥嶋安男だったのか!? 常盤紅葉! はやくそいつを何とかしろ」
十六夜が、紅葉に叫ぶ。紅葉は「わかってんだよ」と語気を強め、鳥嶋と向かい合う。
「お前、覚えてる。・・・・・・こんがりこんがり! おにくだチャーシュー。うにゃにゃぴー。今日は、まけない。・・・・・・ミーは、鳥嶋やっちゃん。さいきょうなのだぁー。うぴゅっ」
「やかましいんだよ、眼鏡ファイヤー野郎! 真夏に暑苦しいパーカー着てさ。さらに炎なんかぶちまけやがって! ・・・・・・退屈してたんだ。アタシがぶっとばしてやるよ!」
「けひひひ。ふひふひは。・・・・・・おんなのまるやき、ぴっぴらぴぃ! 鳥嶋やっちゃん、おれ、さいきょうー。・・・・・・しんでしまえ、トチベリー25!」
騒ぎを聞きつけ、一之瀬も舞台袖から顔を出した。観客が逃げ、のたうち回る警備員二人とその周囲の焦げた様子を見て、驚きを隠せない一之瀬。
十六夜は、一之瀬に状況を説明。トチベリー25たちは、恐怖で動けない。
入口付近には、再び中に入ってきた小紅と優太、そして、苺の姿が。
「や、やっぱりあいつ、怪しいヤツだったんだ! 小紅、あれ、紅葉ちゃん?」
「そうよ。・・・・・・ここからじゃ、あそこまで行くのにだいぶ距離がある。走っていくまでに、あのパーカーの男に気づかれちゃうな。紅葉を何とかして助けたいけど・・・・・・」
「ぼく、警察に連絡するよ!」
優太はスマートフォンを取り出し、警察に電話をする。小紅と苺は、鳥嶋と向かい合う紅葉の姿を見つめている。
「・・・・・・二十数年ぶりだ、こんな場は。・・・・・・苺。あたし、娘を助けてくる!」
「あ! ・・・・・・待って、小紅! ウチもやるから! 待って!」
娘を助けに、走る母。紅葉は、鳥嶋の様子を窺いながら、ぎゅっと拳を握った。




