九・母は学校に呼び出され・・・・・・
九・母は学校に呼び出され・・・・・・
「・・・・・・常盤さん。そういうことで、このままだと、紅葉さんの就職先すら、探すのが厳しくなってしまうんです・・・・・・。私も、彼女と話し合ってみようとしたのですが・・・・・・」
県立高校である宇河商業高校の進路指導室。
そこでは、紅葉の担任である笹塚玖美と、スクールカウンセラーの麦倉小笹が、テーブルの上に栗色のファイルと数枚のプリント資料を並べ、小紅へ、紅葉についての説明をしていた。
「いま、笹塚先生からあったとおりです。・・・・・・紅葉チャンのお母さん。ワタシや笹塚先生で、紅葉チャンがどういう思いでいるのか、何をこの先に考えているのか、話を聞こうとしたんですけど・・・・・・。学校を飛び出してしまいましてー・・・・・・」
麦倉先生は、笹塚先生と目をちらりと合わせてから、小紅の顔を見つめる。
「本当に、うちの紅葉が、申し訳ありません。笹塚先生や麦倉先生には、いつもご迷惑をかけてしまって・・・・・・。まったく、何考えてんのよ、あの子はーっ・・・・・・」
小紅は頭を抱え、二人に深々と頭を下げた。
「いえ、常盤さん、あまり悩まないで下さい? 私どもとしましても、紅葉さんにとって、この先、より良い進路が見つかるよう、しっかりと考えていきますのでー・・・・・・」
「ワタシもです。笹塚先生から、生徒指導記録や家庭環境調査票を見せて頂きましたが、しっかりしたご両親なので、環境は問題無いかと思ってます。ですから、一つずつ本人からのお話を聞き出しながら、フィードバックしていきますからー」
「はい・・・・・・。まったくもう、紅葉ったら・・・・・・」
小紅は目頭を指でぐりぐりと揉み、笹塚先生や麦倉先生と話を続けた。
「ところで、資料を見たときに気づいたんですが、紅葉チャンのお母さん、あの柏沼高校のご出身なんですねッ? ワタシの旦那と笹塚先生も、柏沼高校で同級生だったそうですよー? ワタシは別な高校を出ましたが、柏沼高校とは縁が深くてー」
麦倉先生は、笑顔を見せ、にこやかに小紅へ話しかける。小紅も、表情を緩めて話す。
「そうなんですか! うちは、夫婦で高校の同級というか、ずっと幼馴染みだったもので」
「私、常盤さんの後輩に当たりますね。麦倉先生のご主人とは高校の時、部活が一緒でして。世間って、狭いですね。・・・・・・そういえば、紅葉さんには妹さんもいますよね?」
「ええ。紅葉の下に中学三年の次女がいますが、柏沼に入れるかどうかのギリギリでー」
「受験生じゃ大変ですね。ワタシの息子はまだ三歳なんで、受験なんて遙か先でー・・・・・・」
それから小紅は、二人の職員と雑談を交え、夕暮れ時までずっと話し込んでいた。