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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第十幕  常盤紅葉と野上アンの明暗
89/211

八十九・野上アンの親は・・・・・・

八十九・野上アンの親は・・・・・・



「ふんふふーん。そういうわけで、歌が全部終わったら、そこで野上が発表するんだ」

「いいね、野上? まぁ、これが終われば、君たちは来月から海外だ。今日のステージ、しっかり頼むね?」

「きゃはははは! 心配ないでぇす、一之瀬専務ぅ! 海外の仕事、楽しみ!」


 一之瀬と十六夜は、トチベリー25のメンバーと楽屋で打ち合わせをしている。紅葉は部屋の隅で、その様子をじっと見ている。


「(あーあ。早く終わんねーかな・・・・・・。こんなヤバいやつらとはアタシ、とっとと縁切りしたいよ・・・・・・。はぁ・・・・・・)」

「・・・・・・じゃ、今日もみんな、頑張りたまえ。よろしく頼んだよ」

「ふふーん。オレたちは本部にいるから、何かあったら常盤紅葉に頼むといい。じゃ!」

「「「「「 きゃあはははぁ! わかりましたぁ、一之瀬専務。十六夜部長! 」」」」」


 トチベリー25のメンバーは、声を揃えて一之瀬と十六夜に頭を下げる。


「では、そういうことで。常盤紅葉さん、今日も、よろしくね? くれぐれも、余計なことはしないようにね?」


 一之瀬は、腕組みをして壁に寄りかかる紅葉の肩をぽんと叩き、笑って十六夜と部屋を出て行った。


「・・・・・・おい! ブスバイト! おい!」


 野上が、紅葉に向かって叫ぶ。


「・・・・・・。」


 紅葉は、返事をしない。


「おい! こら! 聞こえねーのかよ、ブスバイト!」

「「「「「 野上さんに返事しろ、ブスバイト! 」」」」」

「・・・・・・。お前ら、いい加減にしろよ? アタシには、親がつけた常盤紅葉っていう名前がきちんとあるんだかんな?」


 ポニーテールをさっと靡かせ、紅色の髪留めがきらりと光る。

 紅葉は、野上を中心に据えたトチベリー25の七人に詰め寄った。


「ちっ! ・・・・・・クソ生意気に! このブスバイトが!」

「昨日から、ブスブスうるせーっての! ・・・・・・で? 何だよ!?」

「お前、今朝、ここまで車で来たのかよ? あれ、母親かぁ?」

「「「「「 きゃっははは! だっさ! 親に送ってもらってんのぉー? 」」」」」


 野上が紅葉を睨みつけ、他のメンバーは甲高く笑って後押しする。


「ママだよ。・・・・・・それがどーしたんだよ」

「とんだ甘ったれだな、ブスバイトが! 親に送って貰えるようなぬるま湯暮らしのおめーには、お仕置きとトレーニングが必要よねぇ!?」

「は? 何言ってんだお前・・・・・・」


   ・・・・・・がしいっ!  がしいっ!


 野上が、メンバーたちにさっと手を挙げてサインを出す。数名が、紅葉を後ろから羽交い締めにし、両手足をぎゅっと押さえつけた。


「な、何すんだよ! おい、このやろう・・・・・・っ」


   シュッ  バチインッ!

   シュッ  バチインッ!  バチインッ!


「つ! ・・・・・・っ! いってぇな・・・・・・」


 野上は、紅葉の両頬を思いっきり平手で叩きつける。何度も、何度も、力を込めて紅葉を平手で叩く。


「甘ったれてんじゃねーぞ、クソが! なめんじゃねぇッ、ブスバイト!!」

「(いってぇ! な、何なんだよこいつら。おかしいんじゃねーのか・・・・・・)」


 目を血走らせて紅葉を叩く、野上。他のメンバーも、紅葉をまるで仇でもあるかのような目で見つめ、睨んでいる。


「親がつけた名前だぁ? 親に送ってもらうだぁ? それが当たり前のような顔して、私の前に立ってんじゃねぇよ!」


   シュッ  バチインッ!  シュッ  バチインッ!


「教えてやるよ、ブスバイト! 私の親がどんなだったかなぁーっ!」


 紅葉の口から、少量の赤い飛沫が飛ぶ。野上は鬼のような形相で、さらに手を振り上げた。


 ―――。


   《テレビの前のみんな、集まったかな? 今日も、俺と、遊ぼうっ!》


「ぱぱだー。ままー。ぱぱが、てれびー」

「そうだね、安奈。ほーら、陸上のお兄さんとして、パパ、頑張ってるよー」


   《はい、一、二の、三! 一緒に、マネして! ほわ、ほわ、ふうぅー》


「ほわほわ、ふー。・・・・・・ままー、ぱぱと、いっしょにおどるのー」

「じょうず、じょうず! 安奈は、パパに似て、運動神経いいのねー」

「ほわ、ほわ、ふぅー。ほわ、ほわ、ふぅ。おれと、あそぼうー。きゃははは」


 ―――。


「・・・・・・最近、仕事の疲れが抜けないなぁ。もっと鍛えなくては。ふぅ・・・・・・」

「馬元さん。この薬あげるよ。社長が、これで疲れが抜けるから、使ってみろってさ」

「え? 社長が、わざわざ? いやー、ちょっと、薬というのは抵抗が・・・・・・」

「なーに、心配ないよ。一回試してみて、合わなかったら、やめりゃいいんだよ」

「うーん。・・・・・・まぁ、お試しの一回でなら、いいか。仕事の疲れも抜けるなら」


 ―――。


「はは! こいつはすごい! 疲れを感じない! すごい薬だなこれは! はははぁ!!!!」

「あなた、いったいどうしたのよ。・・・・・・ちょっと変よ? 何なの、その薬?」

「ふぅははは! なぁに、心配いらない! ガブーンバイパー社は、すごい会社だな!」


 ―――。


「ごめんね、安奈。・・・・・・今日から、ここの人たちと、暮らしてね」

「え? なんで? ぱぱは?」

「・・・・・・パパは、お薬でおかしくなって、もう一緒にいられないの。お別れするのよ?」

「おわかれ? なんで? おくすりって、かぜー?」

「・・・・・・三歳の安奈には、わかんないよね。・・・・・・すみません。よろしくお願いします」

「まま? あんなもままといきたいよー」

「さぁ、安奈ちゃん。おばちゃんたちと、遊ぼうね。お友達もいっぱいいるからねー」

「ままは、おしごと?・・・・・・おむかえきたら、また、てれびみようね!」

「・・・・・・。・・・・・・では、お願いします。私はもう、行きますので・・・・・・」

「・・・・・・子供は引き渡し終えた? そろそろ行こうか。もう部屋は契約してあるんだ」

「素敵だわ。行きましょう。・・・・・・ごめんね、安奈。幸せに暮らしてね・・・・・・」


 ―――。


「おめでとう、みんな! 嬉しいわ! 芸能事務所にスカウトされるなんて」

「ありがとうございます、野上施設長。・・・・・・私たち、いよいよ独り立ちします」

「ここを出て行くのは寂しいけどね。頑張ってね!」

「・・・・・・はい。・・・・・・」


 ―――。


「(結局、最後まで、誰も迎えに来なかった。私は捨てられたんだから、当然か・・・・・・。施設で、何となく話は聞いた。私の父は、覚醒剤に手を出した男。母は、私を捨てて別な男との幸せを選んだ女。・・・・・・なにが親だ。私はそんな親からもらった名前なんか、捨ててやる! 真っ二つに、切り裂いてやる! 馬元なんて名字も、いらない! こんな世の中なんて、何も信じてたまるかよ!)」


 ―――。


「・・・・・・ふざけやがって! おめーはよっぽど、めでてーヤツだな、ブスバイト!」


 野上はさらに平手から拳に握り替え、紅葉の鼻先を狙って一気に腕を振り下ろした。


   ・・・・・・ぐういっ ばばっ!  ばばっ!


「「 あ! 」」


 紅葉は両腕に力を込め、メンバーたちが押さえつけていた両手を振り解いた。


   ・・・・・・ばしいっ!


「な! ・・・・・・こ、このっ!」


 野上の拳を、紅葉は掌を重ねて寸前で受け止めた。そして、ぎゅっとその拳を掴み、ぎりっと捻りあげる。


「・・・・・・ぷひゅぅっ!」


 斜め下に、血飛沫を吐き捨てる紅葉。その床の一部が、まるでスパッタリングをかけたかのように、紅色に染まる。


「・・・・・・よくも、アタシをここまでぶっとばしやがったな! 野上アン!」

「・・・・・・もっと叩いてやりてーくらいだよ! おめーみたいな甘ちゃんは、私、ほんとにムカついてしゃーねーんだよ! 気に入らないんだよ、おめーが!」


   ・・・・・・ぐういっ!  ぐんっ!


「「 きゃあ! きゃっ! 」」


 大きく足を振り回し、両足を押さえつけていたメンバーも振り解いた紅葉。

 野上を下から睨み上げ、細い眉をぴくんと動かし、紅葉の口が開く。


「何がトチベリー25のリーダーだ。・・・・・・こんな楽屋の陰でアタシをいじめて、そんなに楽しいかよ! お前・・・・・・親への恨みを八つ当たりしてるだけじゃねーかよ! そんなひねくれた姿で、しかも、大麻にまで手を出してさ。お前の親父と一緒じゃねーか!」

「ふっざけやがってぇ! 一番言われたくないことを!」

「アタシはバカだったね。・・・・・・お前の話を聞いたら、親に反抗して突っ張ってた自分が、本当にバカだったと思うよ。・・・・・・お前も同じくらいバカだけどな、野上アン!」

「こ、このブスバイトが!」

「親に捨てられたお前は、表向きには良い子を演じ、アイドルをやり・・・・・・。逆に、普通の両親がいるアタシは、表向きではワルぶって突っ張って。・・・・・・おもしれーわ!」


   ・・・・・・ぎりりっ  ・・・・・・ぎりりっ


 野上の歯が軋む音と、紅葉が掴んだ拳の捻る音が、楽屋内に響く。


「「「「「 野上さん! もっとやっちゃいましょう!! 」」」」」


 他のメンバーが、灰皿やモップを持って紅葉に向かって飛びかかろうとする。


「やめときな! ・・・・・・絶対に許さねーぞ、ブスバイト・・・・・・いや、常盤紅葉! ちっ! そろそろ、始まる。衣装の準備をしないと・・・・・・」

「気にくわねーけど、アタシが自分で請け負った仕事だし、今日は最後まで警備してやる。お前がぶっ飛ばした、これ。今は黙ってっから。・・・・・・だけど、終わったら覚えてろよ」

「うるせーよ。お前こそ覚えてろよ? 私のことをバカだと言ったこと、思い知らせてやるからな!」


 トチベリー25のメンバーは、紅葉から離れ、ステージ衣装に着替え始めた。


「(野上アン、そんな過去だったんか。・・・・・・まぁ、アタシには関係ねーけど!!)」


 紅葉と野上は、距離を置き、しばらく黙って睨み合っていた。


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