八十六・キツネとタヌキの化かし合い
八十六・キツネとタヌキの化かし合い
・・・・・・こつ こつ こつ こつ
こんこん!
「・・・・・・はい」
「十六夜です」
「入りたまえ」
一之瀬の部屋に、十六夜が呼ばれた。
「ふんふふーん。一之瀬専務、こんな朝早くに、何でしょうか?」
「あー。すまなかった。・・・・・・トチベリー25の件だがね、今日のステージのラストに、野上から『海外活動』のことを、伝えさせなさい。国内活動はしばらく休む、とね?」
「ほぉー。そこでもう公表させて良いのですか。電撃発表ですね」
「その方が、逆にインパクトがあると思わないかね? 社長も、そのサプライズに賛成との意見だ」
「ふんふふーん。そうですか。・・・・・・副社長へはどうします?」
一之瀬の片眉がぴくりと上がる。十六夜は、首を傾けて、にこりと笑う。
「副社長は、今日は兵庫の方へ出張だろう? 後日、私から報告しておくよ」
「そうですか。わかりました。では、トチベリー25には、オレからそのように伝えます」
「・・・・・・十六夜がスカウトしてきた彼女たち七人だが、どうしてあのメンバーを?」
「ふんふふーん。まぁ、いろいろと『ラク』だからですよ」
「楽?」
「親のいない施設育ちの七人。それが一気にアイドルになったということから、話題性も抜群でしたからね。・・・・・・それに、施設を出て独立したとなれば、手駒として使いやすくなるじゃありませんか?」
「・・・・・・まったく。優しい顔を見せてそんな考えとは、悪どい男だな、十六夜岳は」
「褒め言葉として受け取っておきますよ。ふふんふーん」
一之瀬は、ふっと笑って十六夜の目をじっと見る。
「ところで、だ」
「はい? まだ何か?」
「昨日、イベント中に社内へ戻ったみたいだが?」
「んー? ああ、ちょっと、資料の確認に。大したことじゃありませんよ」
「資料の確認ね・・・・・・。自分の執務室の他、どこかへ行かなかったか?」
「んー。ああ! 行きましたねー。・・・・・・もよおしたので、トイレにね」
「そうか。・・・・・・まぁ、それならいいんだがね。なるべく、イベントが終わるまでは持ち場を離れない方がいい。・・・・・・・今日も、いいイベントになるといいがね?」
「ふふーん。そうですね、専務。・・・・・・では、オレはそろそろ会場に向かいます」
十六夜は、一之瀬にぺこりと頭を下げ、部屋から出て行った。
「(ふふん。・・・・・・一之瀬専務、探ってるね? でもそう簡単に、オレは口を割らないよ)」
「(十六夜岳か。・・・・・・侮れんな。私が思ってた以上に、注意して見張らねばならんな)」
一之瀬は椅子から立ち上がり、車のキーを持って、しばらくしてから部屋を出た。




