八十五・送ってってやるから
八十五・送ってってやるから
・・・・・・チチュチュン チュンチュチュチュン・・・・・・
庭に植えてあるレモンの木には、朝露が輝き、葉先からいくつも雫が落ちる。
白い柵には、カタツムリがゆっくりと這っている。
「・・・・・・おっせーなぁ、玄桐! ・・・・・・なんだよー。どーしちまったんだ?」
玄関前で、紅葉は腕組みをして玄桐の迎えを待っていた。
「メッセージも返ってこねーし、遅れっちまうじゃん! やばいなぁ・・・・・・」
その後ろで、ガチャッとドアが開く。
「・・・・・・なぁに朝っぱらからわめいてんのよ? バイト行くんでしょ?」
「ママ! まったく。玄桐が来ねーんだよ! ・・・・・・あー。アタシも原付免許くらい取っとくんだったなー。・・・・・・」
「まだ七時よ? ・・・・・・何時までにどこへ行くの?」
「七時半までに、トチノキプラザ」
「えぇー? 間に合わないでしょうよ」
「だから焦ってんだっての! あー、もぉ! 何してんだよ玄桐!」
「・・・・・・玄桐くん、パパと約束もしたみたいだよね? ネジでも作ってんじゃないの?」
「だったら、何かしらの連絡がフツーあんじゃん!」
紅葉は焦りを隠せず、きょろきょろと道路の方を見渡している。
「まったくもう、あんたは。・・・・・・ちょっと待ってなさいよ・・・・・・」
小紅は一度家の中へ戻り、車のリモコンキーと免許証入りの財布を持ってきた。
「玄桐くんにメッセージ入れておきな。・・・・・・しょうがないから、あたしが送ってくから」
「マジか、ママ! 助かるーっ!」
「これっきりだかんね! 自分のバイトなんだから、本来は自力で行くのが筋よ?」
「・・・・・・。・・・・・・悪い。ごめん!」
「あ! ちょっと、パパと優璃に言ってくるから。まだ二人とも寝てるんだけどさー」
また家の中に小紅が戻ると、紅葉はポケットからスマートフォンを取り出し、玄桐にメッセージを打った。
――― くれは 《 何してんだよ玄桐! ママに送ってもらう。先行ってるぞ 》
「・・・・・・ったく。肝心な時にー・・・・・・。あーぁ。また今日もあいつらと一日過ごすのか」
溜め息をついて、その場にしゃがみ込む紅葉。顔は、浮かない表情だ。
「お待たせ紅葉。パパたちには、紅葉をバイト先へ送ってくるって伝えたから。乗って!」
紅葉は小紅の車に乗り込み、トチノキプラザへと向かった。




