八十四・五所ヶ原の過去と、ある男
八十四・五所ヶ原の過去と、ある男
同時刻、副社長室には、十六夜が入っていた。
「・・・・・・十六夜君。・・・・・・いったいこれは、どういうことなのだ! 信じられんことが書いてあるではないか! それに、あれはいったい・・・・・・」
四日市は、机に両手を強く叩きつけ、数枚の書類を吹き飛ばした。
「ふんふふーん。見ての通りですよ、四日市副社長?」
「大麻をトチベリー25のメンバーに与えた? こ、こんなことが世間に漏れたら・・・・・・」
「それは、事実ですからね。まぁ、その次のページをご覧下さい? ふふふーん」
書類を捲る四日市。するとそこには、イベント初日の報告書の裏に、多くの人物名が書かれた謎のリストが記してあった。
「な! ・・・・・・いったい、これは・・・・・・」
「ふんふふーん。副社長。それが何だか、わかりますかね? これまで、副社長は、様々なご指示を出されたことになってます。裏取引等をしたとされる相手のリストですよ?」
「なっ、なんだと! 十六夜君。私はこんなものは知らんよ! なぜ・・・・・・」
四日市は、十六夜の顔を見て、再び書類に目を向けた。そして、ぎりっと歯を鳴らす。
「いったい、なぜ私の名がこのリストに・・・・・・。まったく身に覚えがないことだらけだ!」
「もちろん、五所ヶ原社長ですよ? 全て、副社長の指示で違法なことが行われていることにしろと、ね。このままでは、四日市副社長は社会から抹殺されますね。ふんふふーん」
「・・・・・・私がこの会社の不正を全てクリーンにして、一から立て直したいからなのか?」
「副社長。ガブーンバイパー社は、社長の五所ヶ原旭によるワンマン経営。その裏は、違法な労働契約に人身売買、さらには麻薬の取引までしている。収支決算書などの経理は二重帳簿でごまかし、税務署の目を逃れている。・・・・・・この会社は、闇に染まっていますよ。・・・・・・仲間だと思わせといて、あっけなく切り捨てるのは常套手段ですからね?」
十六夜は、飄々とした態度で、四日市に対して笑いながら話す。
「・・・・・・五所ヶ原社長とは、我が社を立ち上げる前からの仲だ。一緒に勤めていた前の会社から独立して、たった数名の社員だけでこの会社を立ち上げたんだ。・・・・・・昔は、それこそきちんとやっていたが、どうして・・・・・・。いつから、こんなことになったのだ・・・・・・」
「ふんふふーん。・・・・・・いつからなんでしょうかね。そういえば、副社長。オレは一之瀬専務から聞いたことがありますが、昔、社長は誰かを撃ったらしいじゃないですか。・・・・・・おそらくですが、この会社を立ち上げた頃から、五所ヶ原社長は裏で何かやっていたんじゃないでしょうかね?」
「十六夜君・・・・・・。いま、君の話を聞いて、私もふと思い出したことがあってね・・・・・・」
「ふふふーん? 何でしょうか?」
頭を抱えながら、四日市はゆっくりと十六夜に話す。
「・・・・・・社長は、モデルガンが趣味なのは知っているな?」
「んん? ええ。そりゃあもう。社内でも有名ですしね」
「・・・・・・昔・・・・・・。そうだな、今から二十五年以上前になるか? 社長のもとに、ある若い男が尋ねてきたことがあってね・・・・・・。これは、社長から聞いたことだが・・・・・・」
四日市は、十六夜に対し、昔話をし始めた。
―――。
「・・・・・・二千。三千。五千。・・・・・・うむ。契約額通りだ。今回も、良い仕事をした」
・・・・・・コンコン
「社長。・・・・・・ええと、お客様です。だいぶ若い方のようですが・・・・・・」
「ん? 誰だね、四日市君? 今日は、アポを取っている方はもういないはずだが」
「それが・・・・・・。アポ無しなので社長へ直々に商談のお話をしたい、と・・・・・・」
「んー? 商談とは、なにかなぁ? まぁいい。時間はあるから、通しなさい」
「はい。・・・・・・どうぞ? こちらが社長室です。では、私はこれで・・・・・・」
―――。
「おやおや。立派なお部屋ですねェ。初めまして。ガブーンバイパー社の五所ヶ原社長」
「んー? 一体、何の話ですかな? おたくは、お目にかかったことがないが・・・・・・」
「失礼。ボクは毒島仁英と申す者。・・・・・・社長。アナタは、隠し事があるようですね?」
「なに? ・・・・・・いきなり来て、無礼だな。何なんだね?」
「ほっほっほ。ボクは、仲間から聞いたんだよ。この会社が、闇取引に応じてるってね」
「・・・・・・・んぬっふっふ。・・・・・・何を言い出すかと思えば。とんでもない妄言だな!」
「おや? では、教えてさしあげましょうか。・・・・・・大麻密輸に、違法労働。あとはぁ、ベトナムでの人身売買にまで手を出してますね、アナタ?」
「・・・・・・知らんねぇ。小僧のくだらん戯言には、付き合ってられん。さぁ、帰りなさい」
「くっくっく。・・・・・・五所ヶ原社長・・・・・・。ボクは、アナタと取引をしたいんだよ」
「なに! ・・・・・・取引だと?」
「そうです。ボクはこの先、力を手にしたい。権力をも超えた、莫大な力をね?」
「小僧、何を言ってるんだ。・・・・・・望みはなんだ?」
「・・・・・・三億」
「さ、三億だと!」
「そうです。社長、アナタがやっていることを世間にバラされたくなければ、ボクと取引をして下さい? 三億いただいたら、もう、ボクはこのことを忘れましょう」
「忘れるだと。誰がそんなことを信じる。・・・・・・くそ。お前はどこでこの話を知った?」
「ほぉら! これはおかしいや! やっぱり、やっていたんですねェ!」
「ぬ・・・・・・っ! く、くそぉっ! 誘導尋問か! ふぬぬぅっ!」
「ほっほっほ。まぁいいでしょう。明日、取りに伺いますから、三億のご準備を。・・・・・・そぉだ! 前金として、そこにある金を今日はいただきましょうか!」
・・・・・・カチリ ・・・・・・カチ
・・・・・・ギュッ
「・・・・・・面白いアクセサリーですねぇ。これもいただきますよ? 星型のピアスですか。金は・・・・・・。おぉ! 五千万ですか。前金にしては、まぁ、こんなもんでしょう」
・・・・・・パァン・・・・・・ッ!
どしゃあっ・・・・・・
―――。
「んぬっふっふっふ! ばかな小僧め。・・・・・・余計なことに首を突っ込んだようだな」
「け・・・・・・拳銃だとぉ! ぐうふっ! ・・・・・・ちくしょぉ! くううぅ・・・・・・」
「しぶとい小僧だ! 頭を撃ったのに、生きてるとはね。んぬっふっふふふふ!」
「おのれぇ、五所ヶ原。・・・・・・せめて、この金だけでも・・・・・っ!」
「ぬぅぅ! させるか! 小僧、この場で死んでおけ。その後は闇に消し去ってやるぞ」
・・・・・・パァンッ! ビスッ!
・・・・・・タタタタタタタタッ
「ちぃ! くそっ! 逃げられたか! くっ、五千万が・・・・・・。毒島仁英か。おのれぇ!」
―――。
四日市は、話を終えると、顔を上げてふっと息を吐いた。
「・・・・・・へぇ。毒島仁英ねぇー・・・・・・。社長にそこまでやったなんてね。ふんふふーん」
「・・・・・・まさか私も当時、社長が客へ発砲したなどとは言えないからね? ずーっと、社員には、社長が持っているものは全てモデルガンだと言ってきた・・・・・・」
「・・・・・・では、今あるものも、全て本物ですか? ふふふーん。大した人だな、社長は」
「私は、昔から社長の悪行を、止められなかった。しかし、副社長という座に着いた今、どうしてもそれをもう見過ごせん。・・・・・・我が社に、清い心で入社した社員に、どう説明する? 我が社を信用してくれた方々へ、どう説明する? 我が社がそんな闇に染まった組織だと知ったら、どうなる? だから私は、ここで会社を一新させたいんだ!」
「ふんふふーん。オレにそう言われてもねー。大変ですねぇ、副社長も。その思いは素晴らしいとオレも思いますよ? でも、あの五所ヶ原社長が相手では、ね・・・・・・」
十六夜は、両手を挙げて、ふふっと笑う。
四日市は、窓の外に見える宇河宮市街の夜景を見つめながら、目を瞑って黙っている。
「・・・・・・何を考えている、十六夜君。私に、あの地下室に隠された、社長の三十五億円の話を教えて、こんなことをわざわざ話しに来たのは、どういうことなんだね?」
「まぁー、焦らないで下さい。・・・・・・ふんふふーん。きっと、オレと副社長が、あの部屋に近づいたことを、社長たちは気づいていると思うんですよね? ・・・・・・良い会社ですよここは。あの金をあれほど厳重に守ってくれている。そこで、オレと取引しませんか?」
「と、取引だと! ・・・・・・十六夜君。・・・・・・私と、いったい何を取引すると言うんだ!」
四日市は、目をかっと見開いて、十六夜に詰め寄る。
「ふんふふーん! 副社長がこの会社を一新させたいならば、社会的に抹殺されては困るでしょう? そこで、あの地下に眠る三十五億円です。オレは、あの金を手に入れたら、ここを辞めて、国から出させてもらいます。副社長が、あの金を何とか奪って下さいよ」
「な、なんだと! しかも、なぜ君は、あの部屋にそんな金があることを知っていたんだ? 社長の隠し金など、私も詳しく知らなかったことだが・・・・・・」
「ふんふふーん。ま、ちょっとだけ、二瓶秘書のアカウントに入り込み、いろいろと隠しファイルを見させてもらったんです。そしたら、三十五億円の隠し場所まで、ね・・・・・・」
「・・・・・・本当に、あの金を奪って君に渡せば、私の希望は果たせるのか?」
「もちろん。オレがこの会社を去った後、社長の不正をマスコミにでも流しますよ。全て五所ヶ原社長の指示だったとね。まぁ、それまではオレは社長の味方。でも、金が手に入ったら、あとは勝手にします。・・・・・・ふんふふーん」
四日市は、それを聞いてしばらく考え込んでから、十六夜に向かって無言で頷いた。
「ふふふーん。取引成立ですね、四日市副社長。・・・・・・使い捨ての駒なら用意しますから、遠慮無く仰って下さい? ガブーンバイパー社には、人材はたくさんいますからね?」
「私は、社長だけでなく、君も恐ろしいと思うよ、十六夜君・・・・・・。ふぅ・・・・・・」
十六夜は、不適に笑う。そしてスーツの襟を正し、ぺこりと頭を下げ、部屋から出て行った。




