八十二・玄桐の勇み足
八十二・玄桐の勇み足
「え! ええええぇぇ! なんでだよぉーっ!」
「ばーかこいてんじゃねぇべ! でれすけ(馬鹿者)が! 無理に決まってんべな!」
「だって、おやじぃ! 前に言ってたじゃんかよぉー。どんなネジでも楽勝だ、って!」
「あぁー? なんだぁそりゃ? ・・・・・・あー。花見んときじゃねーかや、それ?」
「そうだよ! 自治会の花見んとき、みんなに言ってたじゃんかー」
「ばかか玄桐! そりゃ、あれだ。花見の席での、『はなし』だんべな!」
「え、えええぇーー・・・・・・。う、うっそだろぉー。マジかよぉー・・・・・・」
玄桐は、自宅の茶の間で信治と何やらもめていた。
「だいたいな、玄桐? うちの工場の機械は、しばらく注文が無くて回してねーべ?」
「だからぁ。回せばいいじゃんかよぉ!」
「モリブデン鋼の針金をまず圧造するには、うちの旋盤機をメンテナンスしなきゃなんねぇべな! しかも、サイズも規格外。圧造して形は作っても、そっからは手作業だぞ?」
「だから、何とかなんねーんかよぉ! 紅葉にビシッと言っちまったしよぉ・・・・・・」
玄桐は、畳に転がりながらジタバタともがいている。
信治は、欠けた湯飲みでお茶をすすり、「やれやれ」と言って呆れている。
「だいたい、玄桐もわかんべ? 今日そんな話を聞いて、明日に渡すなんて無理だべよ!」
「だって、相手先はあの太平洋商事だぜぇ? これがうまくいきゃ、うちの工場だって、すげぇ発注が来るじゃんか! そうしたら、足園銀行の田村さんにだって・・・・・・」
「そりゃ、理屈じゃそーだべが、従業員もいねぇうちの工場で、おら一人でやるのは限度って言うもんがあんべよ!」
「・・・・・・だったら、おいらもやるよ! 旋盤は学んだし!」
「ふぅ・・・・・・。玄桐、やる気と思いは、わかった・・・・・・。だきっとも(けれども)、今この時間に機械を回すのは、ご近所にも迷惑になんべよ。仮に十本作るにせよ、メンテナンスだのを含めると、出来上がるのは二日後だなやー・・・・・・」
信治は、ジタバタしている玄桐の肩を掴み、諭した。しかし、玄桐は、まだ納得がいっていない感じだ。
「それじゃ、おせーんだよぉー。明日、朝からメンテナンスしてもらって、午後には十本作らねーと、紅葉の父ちゃんだって時間がねーみたいなんだよ」
「そんなこと言ったって、無理っちゅうもんだべ! ・・・・・・メンテナンスを頼むにしても、明日は日曜だぞ? 普通に他も休みなとこばかりだべよ」
「あ・・・・・・。そ、そうだった・・・・・・。やべぇー・・・・・・」
「・・・・・・。ふぅ・・・・・・。まぁ、とりあえず、ダメ元で電話して聞いてみっからな?」
「マ、マジか! ナイスだぜぇ、おやじぃ!」
信治は古ぼけた電話機のボタンを押し、機械の整備業者に電話をかけた。




