七十九・仲良し夫婦
七十九・仲良し夫婦
「・・・・・・うちのやつが、ご迷惑を・・・・・・。本当にすみませんでした・・・・・・」
「いいんですよー。いつものことですから! でも、今日はちょっとハイペースでハイテンションだったかな、水穂は・・・・・・。あたしが知る限りでは、ですけどね?」
良太は居酒屋の前に車を停め、水穂を小紅たちから引き渡され、そのまま抱えて後部座席に押し込んだ。
「・・・・・・ここんとこ、仕事が大変だったみたいですから。ストレスによるものかと・・・・・・」
「水穂でもストレス抱えるって、大変な業務ですね。でも、これがいい息抜きになれば、と思います!」
澪が、眼鏡を指でくいっと上げ、良太の車を見つめる。
「自分が酒を飲めないものですから、妻も家では飲まないので。・・・・・・実は、妻が勤める保育園で職員が一人辞めてしまって。その分を妻がカバーして、兼務をしてまして・・・・・・」
「そうだったんですか。・・・・・・水穂も、大変だな。あたし、気づかなかったなー」
「みっちゃ・・・・・・いえ。・・・・・・妻がこんなに潰れるほど飲んでも、みなさんみたいな友人がいるだけで・・・・・・救われます。・・・・・・今後も、見捨てずに、お願いします」
良太は三人に深く頭を下げる。小紅と澪は、ちょっと間を置いてから「捨てたくても捨てられない腐れ縁ですから」と言って、笑っていた。
「渡良瀬先生。今度、もし良かったら、我が家にも家族みんなで遊びに来て下さい」
「そうね! それもいいわね。さすがにうちでなら、水穂が潰れるほどの酒の量はないからねー? 穂花ちゃんや、えーと、みなき君も連れて、ぜひ、いらしてください」
優太と小紅は、良太へにこやかに微笑む。良太も、クールな表情を緩め、軽く頭を下げて車に乗り込んだ。
運転席の窓を開け、良太は三人へ頭を再び下げ、車を発進させた。
「水穂が、けっこう溜め込んでたなんて。わたし、今日一日、ずっと水穂と一緒に飲んでても気づきませんでしたよ」
「あたしも気づかなかった。仕事でけっこう、みんないろいろ溜まってんのねー。ねぇ?」
「う、うん。そーだね。まぁ、ぼくも・・・・・・。でも、さっき、水崎さんって若い人から電話があってさ? もしかすると、ネジ、うまくいくかもしれないんだ!」
「水崎? 若い人・・・・・・って、まさか・・・・・・」
「電話で聞いた話だと宇河工業の生徒らしいけど。お父さんがネジの職人なんだってさ!」
「やっぱり! 紅葉が言ってたよ。・・・・・・紅葉、その町工場を救うだかで、危ないバイトまで契約しちゃったんだよ。・・・・・・はぁー、どーしてこんな絡みになるかなぁー・・・・・・」
「ええ? 救う・・・・・・って?」
「工場が潰れる一歩手前なほどに、危機的状況らしいよ? だいじなのかなぁ・・・・・・」
「ええ! だって、電話じゃ、特殊サイズのネジは楽勝だ、って・・・・・・」
「ばっかねぇー。・・・・・・なんでそんなの、簡単に信じてんのよ。どーせ、高校生が勢いで話してたんでしょ? 話半分で聞いてなよー。あとでショック受けるのは嫌でしょ?」
「だ、だけどさぁ! ぼ、ぼくだって、いま、本当に切羽詰まってて・・・・・・」
「あ・・・・・・。ごめん。うん。・・・・・・まぁ、そうなったからにはもう、玄桐くんちを信じるしかないのか・・・・・・」
「ぼくにとっては、渡りに船のような話だったんだから! 話半分でなんて思えないよ!」
「わかったってば。ごめんっ! 言い方が悪かったよ。そんな怒らなくてもいいじゃん!」
店の前で軽い言い争いをする優太と小紅。その横で、澪はそっと手を挙げた。
「あのー・・・・・・。夫婦で取り込み中ごめんなさい。わたしもそろそろ、これで・・・・・・」
「「 ・・・・・・あ! 」」
「ご、ごっめぇん! 澪、ごめんね。また、飲もうね!」
「はい! 今日は、ありがとうございました! では、またそのうちに」
「うん。澪ちゃんも気をつけて。今日は急だったのにありがとね!」
澪は、優太と小紅にぺこりと頭を下げ、大通りの方へひとり歩いていった。
小紅は、優太に再び「ごめんね?」と言い、腕を組んでバス停の方へ向かっていった。




