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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第九幕  救世主、あらわる?
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七十八・玄桐くん、がんばりました

七十八・玄桐くん、がんばりました



「・・・・・・お待たせいたしました。こちら、スズキの洗いに、茶碗蒸しでございます」

「・・・・・・どうも」


 黒い漆塗りの卓上へ、涼やかな器に盛られたスズキの洗いと、絶妙な蒸し加減で作られた茶碗蒸しが運ばれてきた。

 紅葉は、その茶碗蒸しの器をそっと手で寄せ、蓋をとって、小さなスプーンで茶碗蒸しを食べている。


「そ、それでぇ? ・・・・・・そのあと、どーなったんだぁ?」


 玄桐は、口から寿司飯を飛ばしながら、叫ぶ。


「きったねぇな、玄桐! 飲み込んでから喋れっての! あー、もう!」

「わ、わりぃー。・・・・・・。・・・・・・で、でもさ、まさかトチベリー25が、そんな連中だったなんて、おいらも知らなかったぜ!」

「しっ! ばか! 声が大きいんだよ。・・・・・・アタシだって、あんなの、夢にも思わなかったよ。・・・・・・くっそぉ。ガブーンバイパー社め・・・・・・」

「でも紅葉? おいら、あの時言ったじゃんかぁ! 契約書、よく見た方がいいってさ?」

「うぐ・・・・・・。ま、まぁ。それは、アタシも、悪かったよ・・・・・・」

「まぁ、それでも、明日が過ぎれば終わりだろ? しかも今日は、よくわかんねーけどボーナスみてーな五十万円まで手に入れて! 紅葉サマサマだぜぃ!」


 イクラの軍艦巻きを箸で掴み、満面の笑みではしゃぐ玄桐。


「みっともねーからやめな、玄桐。・・・・・・ほら。イクラ、箸から落っことすぞ?」

「え? うおお・・・・・・。おー・・・・・・。あっぶねぇ。へへっ!」

「・・・・・・アタシ、ちょっとばっかし許せねーな。あの一之瀬って野郎、トチベリー25が大麻を吸ってようと、黙認だよ。平然としやがってさ。しかもアタシのバイト料は、その口止め料込みだとさ! ・・・・・・ふっざけやがって! ろくでなしどもだよ!」


 紅葉は、珍しく料理を慎ましやかに食べているが、口調はいつも通りだった。


「紅葉らしくねーじゃん! いつもなら、そこまでされたら、ぶっとばすだろぉ?」

「だって、しょーがねぇだろ! 玄桐んちへ渡す金がもらえねーんじゃ、元も子もねーし」

「・・・・・・へへっ! 実は紅葉さぁ、それなんだけどよー・・・・・・」

「ん? 何だよ?」


 玄桐は、指で鼻の下を擦り、得意気な顔でにやっと紅葉に対して笑顔を見せた。


「もしかすっとだけど、おいらんち、何とかなるかもしんねーんだ! いーい人らが、今日の会場にいてよぉ!」

「え! どういうことだよ!」

「太平洋商事って会社で、何か大量にネジが必要なんだとさ?」

「いや、それだけじゃわかんねーし。・・・・・・てか、そこ、パパが勤めてる会社だぞ!」

「へへっ! そうらしいね? 紅葉の父ちゃんとも電話した。おいらもびっくりだぜぇ!」

「え?」


 玄桐は紅葉に、経緯を話し始めた。


 ―――。


「・・・・・・え、えーと? 何でしょうか、あなたは?」

「なぁ! なぁなぁ! い、今の話くわしく! おいらんち、ネジ作れる町工場っす!」

「え! そ、そうなんですか? えーと・・・・・・。ただのネジじゃないみたいですけど?」

「だいじっすよ! おいらの親父、どんなネジだって、作っちまいますから!」

「いや、君ね・・・・・・。いきなりそんなこと言われても・・・・・・」

「おいら、宇河工業高校の三年、水崎玄桐っす! 実家は、南宇河宮で、有限会社ミズサキっていう鉄鋼業の町工場をやってんすよ!」

「・・・・・・そ、そうですか。覚えておきましょう」

「いやいやいやいや! 覚えておくだけじゃなくて、ご検討をー。ネジ、何本っすか?」

「我々に言われても、ちょっとね。担当者は我々じゃないんだが・・・・・・」

「まぁ、待て。・・・・・・水崎さんと言ったね? 何か、おたくで作っているネジのサンプルなどはないのかな? または、カタログやウェブページなどでもあれば・・・・・・」

「へ? サンプル? カタログ? ウェブ?」

「ないのかな?」

「ありませんっ!」

「じゃあ、この話もここまでで・・・・・・」

「いやいやいやいやいや! まてまてまて! どうっすかねー? おいらが直々にその担当者って人に、サンプルのネジを渡すってのは? 連絡先、教えてくださいよー」

「「 うーん・・・・・・ 」」

「ど、どうっすかね! 担当の人に、ぜひ聞いてみて下さいよ?」

「じゃあ、待ってて? ちょっと、電話して確認取ってみるから」

「お願いしますよぉー? へへっ!」

「あ。すみません、休日のところ。・・・・・・常盤さん、今、大丈夫ですか? 実は・・・・・・」


 ―――。


「〔モリブデン鋼で、そのサイズができるんですか? 本当ですか!〕」

「まっかせてください! できますよ! うちの親父なら、そんなネジ楽勝っすよ!」

「〔じゃ、じゃあ、ちょっと早急にサンプルを作ってください! 取りに伺います!〕」

「やりぃ! わかりやしたっ! 今夜、親父に話しますんで!」

「〔ありがとうございます。なにとぞ、よろしくお願いいたします!〕」

「話変わりますけど、常盤さんて、宇河商業の三年に、紅葉さんって娘さんいません?」

「〔え? え、ええ。おりますが・・・・・・。紅葉のことをご存じで?〕」


 ―――。


「え! パパが今、そんな状況になってんの? アタシ、知んなかったぞ!」

「まぁー、いろいろ大変らしいぜ?」

「それより、パパとそんな約束してだいじなんかよ、玄桐!」

「なーに、うちの親父にまかせとけって! サイズも聞いたし、十本程度作ればいいんだからよぉー。楽勝だぜぃ、きっと!」


 玄桐はホタテの寿司を頬張りながら、勝ち誇ったかのような笑顔。

 紅葉は茶碗蒸しのミツバを口に入れ、今ひとつ浮かない表情で玄桐を見つめていた。


「まぁ、まーかせとけって! もしこれがうまくいけばさー、うちは、太平洋商事のプロジェクトだかに関われて、一気に立ち直るかもしんねーぜぃ!」

「まぁ、そーだけどよ・・・・・・」

「紅葉だって、ガブーンバイパー社なんかとすぐに手を切れるんだぜぇ?」

「それも、そーだけどよ・・・・・・」

「あとは、ちゃちゃっと親父に作ってもらって、紅葉の父ちゃんに渡しちまうから!」

「・・・・・・そうだ。ほらよ、玄桐。・・・・・・この百五十万で、家の工場にある機械だのを直したりできるんか? まぁ、約束どおり全額渡すから、使えよー・・・・・・」


 紅葉はバッグから、一之瀬に手渡された札束を玄桐に渡した。

 玄桐はその金を見て、「一回くらいホテルに」と紅葉に呟いたが、その場で紅葉にひっぱたかれ、右頬には真っ赤なモミジ模様がついていた。


「・・・・・・まったく、どこまでふざけてんだ、お前は・・・・・・」

「い、いってぇー。本気で叩くことないだろぉー、紅葉ぁー・・・・・・」


 紅葉は黙々と寿司を食べ、茶碗蒸しを平らげ、お茶をすすっていた。


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