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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第八幕  動き出した者達
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七十四・危険な世界に入ってしまった

七十四・危険な世界に入ってしまった



   ドガッシャアアァン  がらがらがらがら・・・・・・


「・・・・・・い、いってぇなぁー・・・・・・っ!」

「うるっせぇよ、ブスバイト! お前見てると、むかつくんだよ。そこで黙って寝てろよ! キャハハハハハッ! ・・・・・・よくも、ヤク中なんて言いがかりつけやがったな?」

「「「「「 キャハハハハハッ! キャハハハハハッ! 」」」」」


 野上は紅葉を蹴っ飛ばし、衣装の入ったダンボール箱が積まれたところへ吹っ飛ばした。


「これ。やめなさい、野上! 常盤紅葉さんに、ケガを負わせるのはいけないことだ!」


 一之瀬が、野上の前に手を差し出し、止める。


「ところでぇ、一之瀬専務? 報酬の引き上げは、まだなんですかぁー? 一人頭、あと五万は上げてもらわないとぉー」

「その件だがね・・・・・・野上。・・・・・・さっき副社長から私と十六夜に連絡があってね。トチベリー25のメンバーは、この栃木では狭すぎる。ぜひここで、海外公演をしてみないかという提案だそうだ? ・・・・・・そこでの人気を見て、報酬を上げようではないか、とね」


 一之瀬は、指を左右に振って、野上へ笑顔を見せる。


「海外! 全国でなく、いきなり海外ですかぁ! キャハハハッ! すごぉい! いつその詳細は、教えてもらえるのぉ?」


 メンバーたちも、野上の後ろに駆け寄り、一之瀬を上目遣いで見上げる。


「ははは! まぁ、まだ明日もイベントは続く。その話は、十六夜から後ほど詳しくあるだろうから、楽しみに待つといい。・・・・・・今日は、解散したら、各自休みなさい。・・・・・・ああ、それと・・・・・・。『一服』は、ほどほどに? 社外の人間もいるんだからね?」


 一之瀬は、野上たちへ諭すように言いながら、紅葉の方を見つめる。


「(・・・・・・と、とんでもねーな。ガブーンバイパー社の裏は・・・・・・)」


 紅葉は起き上がり、肩や腕のホコリを払って、首に掛けたIDカードのズレを直す。


「明日もまた、今日の時間に集合だ。よろしく頼むよ。・・・・・・常盤紅葉さんもね?」


 トチベリー25のメンバーは、私服に着替え、解散準備。

 紅葉は、黙ってその様子を見ている。メンバーたちは、まったく紅葉を気にも留めず、まるで空気か石ころのような扱いだ。


「・・・・・・ひでーな。アタシ、まだ我慢してる方だかんな? 明日は、大爆発すっかもな!」

「まぁまぁ。申し訳ない。そう言わず、明日も頼むよ。・・・・・・あぁ、忘れるところだった。はいこれ。今日の報酬、取っといてくれたまえ。現金だから、明細書は出さないよ?」


 どさりと、百五十万円がそのまま札束で紅葉の手に渡された。グレーの髪を指で直し、ふっと微笑む一之瀬は「口止め料込みでな」と言って、笑いながら部屋から出て行った。


「(そういう金かよ、やっぱり! 気に入らねーな! ガブーンバイパー社のやり口は!)」


 全員出て行ったあとの楽屋で、紅葉はひとり目を光らせ、奥歯をぎりっと噛み締めていた。


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