七十三・玄桐の目は一気に光る
七十三・玄桐の目は一気に光る
がやがやがやがや がやがやがやがや
わいわいわいわいわいわい
初日のイベント行程が終了し、会場からは客がぞろぞろと出て行く。入口外には、今回のイベント主催者であるガブーンバイパー社ではない、別な会社が契約したお店のテントがいくつも立ち並んでいる。
そこには細長い木製の看板が立てかけられており、「お土産、物産ブース」とカラフルに書かれている。看板の端には、「ブース責任者 株式会社 太平洋商事」の文字も見える。
「あー・・・・・・。つまんねぇー・・・・・・。紅葉、まーだバイト終わるまで、かかるんかなー?」
玄桐は、あてもなく会場近辺をふらふらと歩いていた。早朝からずっと、トチノキプラザ周辺を歩いたり、ベンチで昼寝をしたり、パチンコ屋に入って追い出されたり、本屋で立ち読みをしたり、かなり暇だった様子。
「客が出てきてるから、イベントは終わったんだろーけど・・・・・・。紅葉、おせーなぁー」
きょろきょろと、物産ブースを見て回る玄桐。
「お兄ちゃん! 宮城県産のギンザケ、買ってきな! おまけするよ!」
「いらねーっすよ。持ってけねーし」
「おーい、兄ちゃん! トチベリー25のアイドル写真集、どうだい?」
「いらねーいらねー。そういう趣味じゃねーんだ、おいら」
「兄ちゃん兄ちゃん! 野上アンのグラビア写真集、どうだー?」
「いらねーいらねー。おいら、野上アンは好きになれねー顔でさ」
「兄ちゃんや、どうだ! マグロ五キロ、千円だ! 安いよ安いよ!」
「いらねー・・・・・・。って、意味わかんねー。なんでマグロ屋がアイドルイベントに・・・・・・」
「HEY! 兄チャン! 夜ノ御菓子、ドウダ! 買ッテ、ビンビンニナロウゼ!」
「・・・・・・。・・・・・・紅葉と、これで。・・・・・・いやいや。いらねーいらねー。買わねーよぉー」
次々と、ブース内の店舗から声をかけられる玄桐。人柄がよく見えるのか謎だが、どの店からも笑顔で声をかけられる。それを、次々と躱しながら、暇つぶしを続ける玄桐。
「だーめだこりゃー。あまりにも暇すぎて、退屈だぁ。やることもねーしなぁー」
西に傾いてゆく太陽を眺めながら、茂みの横にある芝生ゾーンに寝っ転がる玄桐。
「(紅葉、がんばってっかなー? あー。中、どうなってんだよー?)」
しばらくそこで玄桐が転がっていると、スーツ姿の男性が二人現れ、玄桐の数メートル先で缶コーヒーを飲んで休憩していた。太平洋商事の社員らしい。
「(ん! なんだ・・・・・・。ガブーンバイパー社のやつらじゃねーのか・・・・・・)」
一度首を起こした玄桐は、また、どさりと寝転がる。
「・・・・・・しかし、大変ですよね。チーフ、聞きました? 常盤さんの話・・・・・・」
「(え! ん!? ときわ?)」
部下らしき男性の会話を聞いた玄桐は、ぱちりと目を開け、少しだけ身体を起こした。
「ああ。大変そうだよな。何でも、特殊サイズのものなんだろ?」
「そうらしいです。工業部も営業部も、その話で持ちきりのようで・・・・・・」
「俺たち企画部も、まさかそんなことはと思ったけどな。常盤さんのミスというよりも、これは、長岡部長が責任を免れないだろうな・・・・・・」
「我が社が推し進めてた大イベントなのに、やばいですよね・・・・・・」
「俺たち企画部も、営業部も、産業博覧会には関わってるが・・・・・・。まずは会場設営ができてないことには、商談を進めた店舗や企業も、スケジュールが狂ってしまうよなぁ」
缶コーヒーを片手に語り合う、男性二人。玄桐は、ぽかんとしてその話を聞いている。
「(大変そうだねー、サラリーマンも。おいらんちも、やべーけどなー・・・・・・)」
「太平洋商事としては、産業博覧会は一大PRにもなる場ですもんね」
「・・・・・・一応、俺も常盤さんは三つ上の先輩だし、部署は違うけど何とか助けたくてなぁ。工業部や、出先の工場長にもきいてみたけど、それ自体はとても今、作ってないんだと」
「古い型式らしいですよね。モリブデン鋼の特殊サイズネジなんて・・・・・・」
「今時、それだけを作ってくれる工場も見つからないらしいな。いま大変だな、商業部は」
「そうですね・・・・・・我が社の藤堂慎太郎社長も、困っていらっしゃるようですし・・・・・・」
「(なに! ・・・・・・モリブデン鋼の、特殊サイズネジっ? ・・・・・・何だ、この話?)」
・・・・・・がばりっ!
「「 んっ? 」」
玄桐は突然飛び起き、その男性二人の元にしゃかしゃかと詰め寄っていった。
太平洋商事の男性二人は、目をきらきらさせて寄ってきた玄桐に、困惑気味。
「・・・・・・え、えーと? 何でしょうか、あなたは?」
「なぁ! なぁなぁ! い、今の話、くわしく! おいらんち、ネジ作れる町工場っす!」
「え! そ、そうなんですか? えーと・・・・・・。ただのネジじゃないみたいですけど?」
「だいじっすよ! おいらの親父、どんなネジだって、作っちまいますから!」
テンションを上げて詰め寄る玄桐の勢いに押され、男性二名はその後、概要を説明した。
その話を聞き、玄桐の瞳の中は、きらきら輝いていた。




