七十一・野上アンの本名
七十一・野上アンの本名
きゅきゅ きゅきゅ きゅきゅ・・・・・・
銀色のモデルガンを、サテン生地で拭く、厳つい手。手首には黄金色の腕時計、指にはトパーズをあしらった指輪が光る。
ガラス張りの窓から差し込む光で、それらが一気にきらりと輝く。
「んぬっふっふっふ! ・・・・・・二瓶君。初日の客入りはほぼ予想どおりのようだねぇ?」
「はい。・・・・・・一之瀬専務と十六夜部長が現場におりますが、全て、予定どおりに進んでいるとのことです。トチベリー25もステージを終え、今は、ゲストインタビューの時間とのこと・・・・・・」
「ぬっふっふ。・・・・・・予定どおり、ね・・・・・・」
「野上アンから、また、報酬を上げて欲しいとの声もあるようですが、いかがいたしましょうか? ・・・・・・経理部長はもう、無理な引き上げはできないと申しておりましたが」
「・・・・・・報酬上げ? ・・・・・・まったく。ワガママに育ててしまったようだねぇ、野上アン。あの子はもう、二十四歳だっけ? 他のメンバーがまだ十代というのは知ってるけどね」
「いえ。野上は二十五歳になりました。先月ですね・・・・・・」
二瓶がタブレットをタッチし、野上の情報ページを確認している。
「ふぅむー。・・・・・・アイドルの旬も過ぎてるし、『野上アン』なんて芸名で可愛らしく売るのも、そろそろ終わりか。ワシも、飽きてきたしねぇ? ・・・・・・入れ替えを検討するか」
「野上・・・・・・いえ、本名『馬元安奈』。彼女はトチベリー25の中心ですが、最近、目に余る行為も増えてますね。二十三年前から施設育ち・・・・・・か。親はいないのですかね?」
「二瓶君。ワシは、野上アンの父親をよく知っているよ。我が社を立ち上げて間もない頃、スポーツタレントとして、我が社に契約社員という形で所属しておった。元は優秀な、陸上競技の選手だったな。地元番組では『俺と、遊ぼう!』が有名なセリフになってね?」
「あら、そうだったのですね。その番組、幼少期に私、見てたかもしれませんね?」
「そうか。ま、自己管理が甘くて薬物に手を出し、人生を台無しにした男だったがね」
「ふぅー。それはどうしようもありませんね。・・・・・・で、野上の件はどうします、社長?」
「んぬっふっふ。また、若い子を活躍させようではないか。新しい子など、雑草の芽のように、抜こうが捨てようが踏もうが、次々とどうにでもなるものだ。ぬっふふふふ・・・・・・。野上たちは・・・・・・トチベリー25を、『卒業』でいいだろうねぇ・・・・・・」
「はい。・・・・・・では、そのように」
「それも、副社長にやっていただこうかね? んぬっふっふっふ。ワシではなく、副社長の意志で全て、動いてるんだろぉ? なぁ、二瓶君? 副社長がやっていることだよな?」
「はぁい。それはもう。・・・・・・既に、十六夜部長にも動いてもらっていますのでね」
ガブーンバイパー社の社長室で、五所ヶ原が二瓶と不敵な笑みを浮かべている。
五所ヶ原はくるりと振り向き、窓から遠くに見えるトチノキプラザを笑って見つめていた。




