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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第八幕  動き出した者達
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六十九・なんだか危険な取引相手

六十九・なんだか危険な取引相手



   キャアアアアアアアァ  ワアアアアアアアアアアアアアアアー


「「「「「 いっちごーの♪ かっわいーい♪ おーだんごあたまー♪ 」」」」」

「「「「「 すっきなーの♪ いっちごーの♪ みーるくおーれー♪ 」」」」」

「「「「「 みーんなーでー♪ いちごいちご♪ へいへい♪ べりべりー♪ 」」」」」


   ウオオオオオオオオオオオ  キャアアアアアアアァ

   わいわいわいわいわいわいわいわい  わいわいわいわいわいわいわいわい


 ステージ上で七色のスポットライトを浴び、トチベリー25のメンバーが歌って踊る。

 五千人の観客は、大熱狂。小太りの男たちが、額に巻いたバンダナに「アンちゃん」や「ペコちゃん」などの字が書かれた団扇を差し、ペンライトをものすごい勢いで振っている。


   キャアアアアアアアァ  キャアアアアアアアァ  ワアアアアアアアアア


「「「「「 みっんなーで♪ おーどれおどれ♪ いっちごーいっちごー♪ 」」」」」

「「「「「 すっきなーの♪ いっちごーの♪ みーるくおーれー♪ 」」」」」

「「「「「 いえいいえい♪ いちごいちご♪ へいへい♪ べりべりー♪ 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「みんなぁーっ! ラビューッ! イエエイッ! ラビュラビューッ! へい!」


 センターの野上が、凄まじいハイテンションで、マイクパフォーマンスを決めている。

 ひらひら、くるくる、ふわふわと衣装を靡かせ、スカートの下に履いたアンダースコートをファンに見せつけながら踊るメンバーたち。


「・・・・・・く、くっだらねぇー。これだからアタシ、アイドル大っ嫌いなんだよ・・・・・・」


 紅葉は、会場の隅で全体を見張りながら、冷ややかな目でちょこちょことステージを見ている。辟易しきって憔悴した顔で、げんなりしたオーラを醸し出していた。

 隣にいる人の声が聞こえないほどに、会場は大歓声と大音声に包み込まれていた。


   ・・・・・・ちょん  ちょん  ちょん・・・・・・


「ん? ・・・・・・何だ?」


 紅葉の肩を、舞台袖のほうから誰かがつついた。

 振り返ると、そこには、背が低く目つきの悪い男が、厳封された小包を持って立っている。


「(な、なんだこいつ? 怪しいヤツか! ぶっとばしちまうか!)」

「・・・・・・取引をする警備係の常盤紅葉って、お前か?」


 ぼそぼそと喋る男。紅葉は、会場全体を気にしつつも、男の問いかけに、ゆっくり頷く。


「・・・・・・誰だよ、お前?」

三田(みた)(ひかる)だ。・・・・・・ガブーンバイパー社から聞いた。お前が代理契約すんだろ? おぉ!?」

「契約? ・・・・・・ああ! そんなこと言ってたな、十六夜岳のやつ。何の契約だよ?」

「お前は内容を知らなくていいんだ。変に探ると、消されるぜ?」

「け、消される? なんだそれ。やべーやつじゃないんかよ?」

「うるせぇよ。お前は、この取引を受けりゃ良いだけだ。早く、『OK』とサインしろ」

「(わっけわかんねぇことが次々と。な、何なんだよ・・・・・・)」


 紅葉は、ものすごく怪訝な顔をして、三田の顔をじっと見て、ペンを受け取る。


「・・・・・・いいか? こいつの中身は、トチベリー25に渡せ。未開封でな。そして、必ずこう伝えろ? 『四日市副社長からの差し入れです』とな!」

「よ、四日市ぃ? 誰だよそいつ。副社長? ・・・・・・何なんだよ、いったい?」

「つべこべ言うな。必ず未開封で、四日市副社長の差し入れだと言え。・・・・・・いいな!」


 三田は、声に凄味をつけて、ぎろっと紅葉を鋭い目で睨みつける。紅葉は「気に入らねーな」と言い、その目力を押し返すかのように、三田を睨み返す。


「・・・・・・トチベリーのバカ女たちといい、お前といい、ガブーンバイパー社絡みのヤツらってのはアタシを何だと思ってやがんだ! ・・・・・・嫌だといったら、どーすん・・・・・・」


   ・・・・・・すちゃ  かちり


「え・・・・・・っ?」


 紅葉の下腹部に、掌サイズの小さな金属が突きつけられた。それは、小型の拳銃。しかも、発砲音を消すためのサイレンサー付き小銃だ。


「・・・・・・この騒ぎだ。音も聞こえねぇぞ? 断るなら、俺が今、お前を消しても良いぜ?」

「お、おい・・・・・・。オモチャだろ、これ?」


 三田は、かちりと引き金に指を掛ける。


「わっ・・・・・・わかったよ。サインすっから。副社長からだって言って、渡しゃいいんだろ?」

「・・・・・・ふん。ハナっから、素直に取引すりゃいいんだよ、バカが。・・・・・・頼むぜ」

「(くっそぉ、ほんっとにヤバい! 何が起きてんだよ、このイベントの裏で!)」

「ああ、そうだ・・・・・・忘れてたぜ。・・・・・・これをお前に渡さねーと、さすがに取引にはなんねーからな・・・・・・」


   ・・・・・・ぐいっ!  ぐいいっ!


「ちょ、ちょっと! このエロやろう! アタシに何を・・・・・・」


 三田は紅葉の腰元を引っ張り、札束を紅葉のジーンズと下着との間に突っ込んだ。


「取引額は五十万って言われたんでな。・・・・・・俺はこれで、トンズラさせてもらうぜ」

「・・・・・・は、はぁ? ちょっと待て、お前! ・・・・・・この金、いったい・・・・・・」


 そのまま、紅葉に小包を渡し、舞台袖の陰に三田は消えていった。

 会場内は未だに観客が熱狂していて、興奮冷めやらぬ空気。ものすごい盛り上がりだ。優璃もその中で、穂花や海原と一緒に、トチベリー25と同じ振り付けを踊っている。


「(な、何なんだよ。・・・・・・小包? 副社長? わっけわかんねぇー・・・・・・)」


 紅葉は、ジーンズに突っ込まれた札束をもぞもぞと取り出し、さっと畳んでお尻のポケットに入れた。そしてそのまま、何事も無かったかのように警備役を続ける。


「(・・・・・・これ・・・・・・アタシが思っていた以上に、とんでもなくヤバイ世界に足を入れちまったかも・・・・・・)」


 心音が高鳴る紅葉。つうっと頬に、一滴の汗が筋を描いて滑り落ちる。

 トチベリー25のステージは、いつの間にか、初日のクライマックスに迫っていた。


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