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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第八幕  動き出した者達
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六十七・紅葉、なんとか堪え忍ぶ

六十七・紅葉、なんとか堪え忍ぶ



「早くしてよぉ! ほらぁ、それ! こっちに運んでっつーの!」

「・・・・・・わかり・・・・・・ました・・・・・・(自分で運べってんだよ!)」

「そっちじゃねーよぉ! こっちだって! 何やってんだよ、バイト!」

「・・・・・・はぁい・・・・・・(いま、そっちだって言ったろうが!)」

「ねーぇ? 日本語わかるぅ? これは、そっちの場所だっての!」

「失礼・・・・・・しました・・・・・・(うるっせぇ! 上から目線女軍団め!)」


 紅葉は、トチベリー25の楽屋で、意味不明な小間使いをさせられていた。


「・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・。終わったよ!」

「はぁ? 終わったよ? 何その口の利き方!! 終わりました、野上さん・・・・・・だろっ!」


 息を切らせて汗だくの紅葉を見て、野上が紅葉のスタッフIDカードを奪い、放り投げた。


「「「「「 きゃっははははははは! 野上さぁん? また、辞めちゃうよぉ? 」」」」」


 他のメンバーは、野上の顔色を窺い、誰も紅葉に対しての行為に異を唱える者はいない。


「(く・・・・・・くっそぉぉ! なんっでアタシが、こんなバカ女どもにー・・・・・・)」


 IDカードを拾う紅葉。ぷるぷると拳を震わせ、野上の方へ振り向いた。


「なぁにぃ、その目? あら。グーを握って、何する気ぃ?」

「・・・・・・。・・・・・・ガブーンバイパー社が直々にお抱えのアイドルって、表ではあんな笑顔してるくせに、裏はこんなかよ!」

「裏? 何を言ってるのぉ? あなたが仕事できなくて鈍いだけでしょぉ?」

「な、なんだと、このやろぉー・・・・・・」


 さすがの紅葉も怒ったのか、語気を強める。野上は、表情を変えることなく衣装のポケットから、小さな銀色の機械を取り出した。


「・・・・・・なんだ?」

「「「「「 クスクスクスクス! キャハハハハハハ! 」」」」」


 こそこそと笑い声を出す他のメンバーたち。野上はその機械を、紅葉の目の前に突き出す。


「・・・・・・あなたの態度や声は、これのスイッチを入れれば、すべて一之瀬専務に筒抜けよ」

「な! 遠隔式ボイスレコーダー・・・・・・ってやつかよ。きったねぇな・・・・・・」

「この仕事、ストレス多いのよね。くだらねー踊りや歌で、きもちわりー男たちに崇め奉られてさ? 明日なんか、握手会もあるんだって。やってらんないよねー」

「・・・・・・わかった。それで、警備とか言って次々とバイトを雇って、憂さ晴らしの相手にしてるってことかよ。・・・・・・陰湿なやつらだな。なにがアイドルだ、ばかやろう!」

「いーい? 私たちが、少しでも機嫌を損ねたら、あんたはクビ。金なんか一切入らないってのだけ覚えときなよね? バイトの分際で、生意気なことやるんじゃないよ?」


 紅葉を見下し、蔭のある笑みを見せる野上。他メンバーも、どこか曇った目で、紅葉をじろっと見ている。


「(き、気にくわねぇーっ! ま、待て。落ち着けアタシ! ・・・・・・我慢だ、我慢するんだアタシ。・・・・・・でも、むっかつくなぁ!)」

「・・・・・・まだ開演まで時間があるわねぇ? さーて、何しようかしら・・・・・・」

「野上さん、そろそろ『一服』しません?」


 メンバーの一人が、野上に向かって手を挙げた。


「一服? ・・・・・・そうね。どーせ、わかんないだろうしね! やるか! キメてからステージに上がった方が、ちょうどいいもんな!」


 野上は、紅葉に背を向け、メンバーたちとバッグから、紙に巻かれた小さなタバコのようなものを取り出した。


「な! お、おい! タバコなんかやめろっての! 信じらんねーな。吸うならアタシ、部屋の外に出させてもらうかんな!」

「タバコぉ? あーぁ・・・・・・どぉぞ? ご勝手に。私たちも、その方が都合良いしぃー?」


 野上はにやりと笑い、それを唇で咥え、小さなライターで火を点けた。他メンバーもみな、同じように小さいライターで火を点け、一服。

 香水と花の匂いが充満した楽屋に、白い煙が立ち上る。それはトチベリー25のメンバーから、まるで狼煙のようにぷかりと浮かび上がる。


「じょ、冗談じゃねーっての! 普通、公演前のアイドルがタバコなんか吸うかよ! なんなんだよこれ! ・・・・・・ん? 甘いような青臭いような、変な臭いのタバコだな。まぁ、何でもいいや。アタシはダメだ、タバコはーっ!」


 紅葉は、楽屋から飛び出し、ドアを思い切り閉めた。

 部屋の中からは、キャハハと甲高い笑い声が響いている。


「(くっそぉー。早くこんなイベント、終わっちまえ!)」


 ずるずると床に座り込む紅葉。


「あーぁ・・・・・・。アタシ、いっつもこうだよ。ママの言いつけ守らず、後悔すんだよな」


 紅葉は、眉をハの字にさせ、両手を頬に当てて、下を向いている。スマートフォンで時間を確認すると、開演まであと一時間を切った。


「・・・・・・どーせ、あいつらに小間使いされんだろうな。始まる前に、トイレ行っとくか」


 紅葉はトチベリー25の楽屋に向かって、声を出さずに「ばかやろう!」と叫び、お手洗いへ向かった。


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