六十五・裏を探る業界人たち
六十五・裏を探る業界人たち
コンコンッ! ・・・・・・ガチャリ
「失礼します。ガブーンバイパー社の、一之瀬です」
「同じく、十六夜です。本日は、お疲れさまです」
「・・・・・・常盤紅葉です。・・・・・・よろしくお願いします」
次に入った大きな楽屋には、艶やかな長い黒髪を靡かせた女性と、くるくると巻かれた金髪が目立つ西洋風の女性がいた。
紅葉は、目を丸くした。黒髪の女性は、女優の三島華蓮。金髪の女性は、タレントのミランダ野沢シーナだった。
「オホホホホ! アハハハァ! 楽しそうなイベントですわぁん! 期待してるわぁん」
「これはこれは、ミランダさん。まさか、出ていただけるとは思っていませんでしたよ」
「ガブーンバイパー社から、ワタクシの会社へオファーが来た時、この商品のPRにもなるかと思いましたからねぇん? ウフフゥ。アハハハァ。快く、オッケーしましたわぁん」
一之瀬は、ミランダと握手し、にこやかな顔を見せる。
「(め、目の前で見るとすげーな。ミランダ野沢シーナ・・・・・・。濃いキャラだなぁー)」
紅葉は、ミランダと一之瀬の握手を、真顔で見つめている。
「ふんふふーん。常盤紅葉。こちらはゲストの一人で、本県出身の女優、三島華蓮さんだ」
十六夜が、ミランダと一之瀬をよそに、紅葉を華蓮に紹介する。
「・・・・・・ガブーンバイパーの十六夜さん? わたくし、この子、知っていますのよ?」
「え? なぜに?」
にこっと微笑む華蓮を、十六夜は不思議そうな顔で見つめる。
「え? ええ?? ・・・・・・なんで、アタシのことを?」
「ふふっ。よーく知ってるわ。・・・・・・大きくなったね! あなたのお母さんにそっくり!」
「え! 三島華蓮さんは、この常盤紅葉の母親、早乙女小紅をご存じで? な、なぜ!」
十六夜が、驚いて慌てふためく。
「は!? おい、十六夜岳? なんで、ママの旧姓が早乙女ってのまで知ってんだよ?」
「あ! いや、それは採用時の資料で、きちんとデータ化されてるだろ? それで・・・・・・」
「ふーん・・・・・・。まぁいいや。あの、華蓮さん。アタシ、ママから聞いています。高校生の頃に知り合ったって。ラーメン食べたり、家に泊まったりもしたって・・・・・・」
「そんなこともあったね。懐かしい! 紅葉チャン、ほんと、昔の小紅チャンと目の前で話してるような感じ。・・・・・・わたくしとミランダさんは、今日だけのゲストなのよ。どうぞよろしくね?」
「はい! ・・・・・・アタシも、お目にかかれて嬉しいです!」
紅葉は、目を輝かせて華蓮と話す。ちょっと緊張しているようだが、スター女優を前に、自然と目がキラキラしている。
「オホホホォ! アハハァ! アナタが今日のイベント警備をするという、クレハ・トキワさんね? ワタクシはミランダ野沢シーナ。我が社のラベンダー製品、使ってねぇん?」
ミランダは、紅葉にラベンダー色の石鹸を手渡した。
「ど、どうも・・・・・・。・・・・・・あ、良い香り・・・・・・」
「化学的な香料は無添加の、天然ラベンダー成分よぉん? お肌にいいし、リラックス効果もあるから、オススメするわぁん! ウフフフゥ。アハハハァ!」
「一之瀬さん。十六夜さん。ちょっと、紅葉チャンとお話ししたいから、十分ほどお借りしてもいいかしら? わたくし、懐かしい気持ちで一杯なのでー・・・・・・」
「ああ、どうぞ。構いませんよ。では、常盤紅葉さん。十分後、トチベリーの部屋に」
「・・・・・・わかったよ。十分後、戻るから」
二人は華蓮とミランダにぺこりと会釈し、楽屋から出て行った。廊下に二つの靴音が響いてゆく。
「ミランダさん、どう。たぶん・・・・・・完全に行ったわね?」
「行きましたわぁん。もう、大丈夫!」
華蓮とミランダが、去ってゆく一之瀬たちの足音を確認し、紅葉を楽屋の奥へ座らせる。
「うわ! え! な、何ですか!?」
何が何だかわからないという表情の紅葉。
「クレハ・トキワさん! ガブーンバイパー社に雇われて、変なことはないかしらぁん?」
ミランダが、目をかっと見開いて、紅葉に問いかける。
「紅葉チャン! 雇われてから、なにか、変なことや怪しいことはなかった?」
華蓮も、紅葉の肩をがしっと掴み、真剣な眼差しで問いかける。
「ちょ、ちょっと待って下さいってば。アタシ、今日がガブーンバイパーでの初バイトなんですよ? ・・・・・・な、何なんですか?」
「わたくしの事務所でも、こちらのミランダさんの会社でも、ガブーンバイパー社の評判はあまりよくないの。わたくしたちみたいなゲストへの待遇やギャラはいいけど、自社所属の人材には、良い噂がないの。・・・・・・紅葉チャン、今日、何か変なことがあったら、こっそりわたくしに教えてくれないかしら?」
「え、ええ? 変なこと・・・・・・変なこと・・・・・・。何だろう? ってか、既に会社名からして変なんだよな・・・・・・」
「なんでもいいですわぁん。ワタクシの会社も、今後、それによってはガブーンバイパー社との取引を切るかもしれませんの。違法なことに手をつけでもしてたら、付き合いがあるというだけで我が社も痛手を追いかねませんもの・・・・・・」
ミランダは、紅葉と目を合わせる華蓮を見て、扇子でパタパタと自分を煽いでいる。
「あ!」
「「 何? 」」
「そういえば・・・・・・。さっき、トチベリー25の楽屋が、やたらめったら香水臭くて、花もいっぱいあって、アタシ、鼻がおかしくなりそうだったな・・・・・・」
「え? 香水に、花? そんなにきつい香りだったの?」
「そりゃあもう! ほんっと、死にそうなくらいキツくて。よくあれでアイドルイベントなんかに出て、みんな平気だなーってくらい・・・・・・」
紅葉は、笑いながら華蓮に話す。華蓮とミランダは、真顔で二人とも無言で頷いている。
「・・・・・・カレン・ミシマさん! この業界、あのグループに裏の噂があったけど・・・・・・」
「怪しいわね。・・・・・・あの噂が本当だとしたら大事件よ。警察が一気に動くわね」
「は? え? け、警察ぅ? ・・・・・・い、いったい、何が・・・・・・」
きょろきょろする紅葉。二人は、そっとしゃがみ込み、何かを小声で紅葉に伝えた。
それを聞いた紅葉は、目を大きく見開いて、驚愕の表情を見せる。
「(・・・・・・マ、マジかよ! やべぇじゃん! ガブーンバイパー社って、一体・・・・・・)」
「紅葉チャン。悪いことは言わないわ。ガブーンバイパー社に雇われているのなら、このイベントを最後に、縁を切った方が良いよ!」
「ヘタな動きをすると怪しまれるから、気をつけてちょうだい? クレハ・トキワさん。こちらのカレン・ミシマさんは、ガブーンバイパー社の裏話をあちこちから得てる情報通。警察にも知り合いがいらっしゃるのよん。・・・・・・何かあったら、教えてあげてねぇん?」
「わたくしの所属する事務所でも、ガブーンバイパー社と絡む仕事で、さんざんな目に遭った人もいるの。・・・・・・ヘッドハンティングされて事務所移籍した若手女優が、行方不明になって、事件が迷宮入りしたこともあるの・・・・・・」
「や、やっばいじゃん・・・・・・。な、なんだそれ・・・・・・」
「紅葉チャン。ガブーンバイパー社に使われること、小紅チャンは知ってるの?」
「あ・・・・・・。ママには、一応・・・・・・。どんなことやるかは、特に言ってませんけど」
紅葉は、ちょっと斜め下に視線を逸らし、華蓮から目を背けた。
「明日、終わったら、どんなだったか教えて下さる? わたくしの連絡先、教えるから」
華蓮は、大急ぎで紅葉に連絡先を伝えた。スマートフォンを操作し、紅葉は華蓮の連絡先を登録する。それは、女優と連絡先交換して嬉しいという顔ではなく、ただ、困惑した顔で。
「カレン・ミシマさん。そろそろ十分経ちますわ。クレハ・トキワさんをむこうの楽屋に返さないと・・・・・・。あとは、ワタクシたちでも今日、いくつか探ってみましょう」
ミランダが、楽屋内の鳩時計を見つめる。
「そうですね。じゃ・・・・・・無理はしないでね、紅葉チャン! 十分に気をつけて・・・・・・」
「・・・・・・はい。やれるだけ、やってみます。・・・・・・アタシ、やばいとこに入っちゃったんだなぁ・・・・・・」
紅葉は冷や汗を垂らし、華蓮たちの楽屋を出て、トチベリー25の楽屋へ戻った。




