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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第八幕  動き出した者達
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六十四・アイドルたちの裏の顔

六十四・アイドルたちの裏の顔



 一之瀬、紅葉、十六夜の順で廊下を進む。


「常盤紅葉さん、まずはここの中で挨拶をしなさい。今日と明日、彼女たちに付くんだ」

「は? ここって・・・・・・楽屋?」


 トチベリー25様と書かれた紙が貼ってある楽屋前。紅葉は、ノックをして一之瀬たちとその部屋に入った。


「・・・・・・失礼します・・・・・・」


 おそるおそる中へ入る、Tシャツ姿の紅葉。一之瀬と十六夜も、高級スーツ姿で、共に入る。


「(うぐ。・・・・・・うぇー・・・・・・香水くせぇー・・・・・・。アタシの嫌いな部屋だな、こりゃ)」

「「「「「 きゃああぁーっ! 一之瀬専務に十六夜部長! お疲れさまでぇす! 」」」」」


 甲高く黄色い声が、ステレオサウンドのように響く。フリルのようなものがついた衣装を着た少女たちが七人、一之瀬と十六夜の二人に駆け寄る。


「(きゃーきゃー、うるっせぇな・・・・・・。あー、めんどくせぇ。こいつら、こりゃーアタシが友達になれないタイプだなー・・・・・・)」


 耳に響くたくさんの高い声に、紅葉は辟易している。その中でひとり、ひときわ背の高い少女が、紅葉に近づく。


「ねぇ、一之瀬専務? 誰、この子。新入りですか?」


 紅葉の顎をぐいっと掴み、見下した目線でじっと見据える少女。


「こらこら、野上(のがみ)! やめなさい。こちらはね、今日と明日の二日間、きみたちトチベリーの警備役等を務める、常盤紅葉さんだ。・・・・・・お互い、自己紹介してくれたまえ?」


 一之瀬が間に入って、少女と紅葉を引き離す。


「警備ぃっ? まぁた、使い捨てバイト雇ったんですかぁ? かわいそぉー」

「(つ、使い捨てだと? ・・・・・・こっ、この女ぁ!)」


 目尻をぴくぴくと引きつらせる紅葉は、奥歯をぎりっと噛み締めたまま作り笑顔をする。野上というリーダー格の少女は、紅葉をずっと見下した目で見ている。


「ほら、常盤紅葉さん。彼女たちに、挨拶をしなさい? 初顔合わせなんだしね」

「・・・・・・と、常盤紅葉・・・・・・です。二日間、よ・・・・・・よろしく・・・・・・お願いします・・・・・・」

「はっ! 声、小っさぁ! さえない子! だっさ! ・・・・・・私、リーダーの野上アン。覚えておきなさいよね!」


 その後、続いてトチベリー25のメンバーが、愛想無く紅葉に挨拶した。


「ふぅむ。まぁ、二日間、よろしく頼むよ。常盤紅葉さん、イベント中は、ずっとこの子たちに付き、警備を頼むよ?」

「(なんっなんだよ、こいつらっ!! 気に入らねーけど、お金のためだ。・・・・・・我慢だ、アタシ!)」


 紅葉は、ぴくぴくと引きつる目尻を押さえ、ずっと頭を下げたまま。


「何かあったら、ぜぇーんぶ、この子の責任でしょぉ? あーぁ、かわいそぉーに!」

「「「「「 きゃはははははぁ! 野上さん、かわいそーって言っちゃダメぇ! 」」」」」


 リーダーの野上を中心に、大声で笑うトチベリーのメンバーたち。

 紅葉は、何度も深呼吸をし、気持ちを落ち着かせている。


「さぁ、もういいかな? では、常盤紅葉さん。次はゲストの人たちへ挨拶を」

「ふんふふーん。トチベリー25、今日も、冴えてんな? また、褒美をやるからね」

「「「「「 きゃああぁ! 素敵ですぅ、十六夜部長ーっ! おねがいしまーす! 」」」」」


 一之瀬と十六夜が、紅葉を部屋から出し、メンバー全員に軽く手を振った。


「(はぁぁ。なんだったんだ、あの部屋の匂い。・・・・・・香水の他に、花だらけでもあったし)」


 部屋から出た紅葉は、トチベリー25の楽屋に、微かな違和感を抱いていた。眉をひそめ、首を傾げている。


「なぁ。アイドルの楽屋ってのは、いっつもあんなに花や香水の匂いが強いんかよ?」

「・・・・・・ふふーん。・・・・・・ま、女の子だから、しょうがないんじゃないのかな?」

「アタシも女だけど、あそこまで香水がドギツイのは、普通、嫌んなっけどな?」


 口を尖らせ、十六夜に対してぼそっと呟く紅葉。十六夜は、そんな紅葉をちらりと見て、また鼻歌を歌いながら廊下を歩く。

 一之瀬は、両手を後ろに組み、靴の音を響かせながら、ゆっくりと歩いてゆく。


「(・・・・・・あんな女たちと、二日間もいるようなんかよ。あぁー、めんっどくせぇ!)」


 紅葉は既に、表情に疲労が見え始めていた。


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