六十・水崎家の団欒・・・・・・?
六十・水崎家の団欒・・・・・・?
がたがたん・・・・・・
ごとごとごと・・・・・・
がたたたたたん・・・・・・
生ぬるい夜風が吹き、家のあちこちが音を立てる。
「おーい、おやじぃ! ほれ、食うべよ?」
「・・・・・・なーんだ? メシ、用意してくれたんけ? 悪ぃなぁ、玄桐!」
「大したもんじゃねーけどよぉ? いいもの食わねぇと、身体に毒だぜぇ?」
脚が曲がって歪んだちゃぶ台に、玄桐がずらりと料理を並べた。近くのスーパーで買ってきた生野菜サラダ、焼き鳥五本、豚足、煮豚、ほっけの塩焼き、ゆで卵、チキンカレーだ。
「なんだか、しっちゃかめっちゃかなメシだなや?」
「文句言うなよ。稼いだ金の全額を返済用にしてから、マジでギリギリなんだよぉー?」
グレーのタンクトップシャツに、ステテコパンツ姿の玄桐。信治も、肌着に甚平姿で、茶の間に座る。玄桐は、オレンジ色の裸電球を、くいっと回してスイッチを入れた。
薄暗い茶の間で、男二人は、小さなテレビを見ながら夕食をとる。
「・・・・・・彼女とは、うまくやってんのけ? ほんと、申し訳ねーなや・・・・・・」
ゆで卵を頬張る信治が、唐突に問う。
「・・・・・・ま、まぁな。紅葉、かわいいだろぉ? おいらにゃ、もったいねーくらいだぜぃ」
「・・・・・・ふーん。ほーか。・・・・・・無理させたくねーなぁ、あの子には・・・・・・」
「・・・・・・おやじぃ。おいら、明日と明後日、紅葉がやるバイトの付き人で、行ってくらぁ」
「なんで、付き人が必要なんだや? ・・・・・・まぁ、気ぃつけて行ってこぉや・・・・・・」
「おうよ! おいらが、紅葉のマネージャー役だぜぇ! おやじぃ、安心しろって!」
「ばっかやろー。・・・・・・まったく! ・・・・・・おらんちにも、仕事さえ入りゃ、お前らにこんなことさせねーでも済むんだが・・・・・・。おらはもう、時代遅れの人間だべや・・・・・・」
信治は、ゆで卵の次に豚足をかじる。練りからしを塗りすぎたのか、咽せている。
「・・・・・・なーに、そのうち、全世界がおやじの腕を必要にする時代が、きっと来るぜぇ!」
カレーを鼻につけ、ガツガツと食べる玄桐。信治は、「バカ言ってんじゃねぇべ」と言い、ワンカップ酒をぐいっと飲み、また豚足をかじっている。玄桐は、サラダも一気食い。
電球のところに、大きなアブがぶうんと入ってきて、音を立てて回りながら飛んでいる。
「うるせぇアブだなや! ・・・・・・あ! 玄桐! 網戸が・・・・・・」
「あーあーあー・・・・・・。もう、だめだなこりゃ。ぶっこわれちまってるよぉー」
大きく裂けた網戸は、歪んで隙間だらけだった。
「かつてはおらも、県内じゃ、鉄鋼の職人組合でも名が通ってたんだけどな・・・・・・」
焼き鳥と煮豚を頬張る玄桐を見つめ、ほろ酔いの信治はほっけを箸でつつきながら呟く。
「・・・・・・玄桐。あの子が本当にお前の彼女なら、おらも嬉しーんだけどなー・・・・・・」
煮豚を口いっぱいに頬張ったまま「え?」という玄桐。
信治の呟きと同時に、すきま風の音が、茶の間にひゅるりと大きく鳴り響いていた。




