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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第一幕  早く帰ってこい! 不良娘!
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六・母と娘

六・母と娘



   かちり  こちり  かちり

   こちり  かちり  こちり・・・・・・


 和室の振り子時計の音が、ゆっくり響く。


   チッ  チッ  チッ  チッ

   チッ  チッ  チッ・・・・・・


 壁に掛けられた電波時計も、針音を静かに出し続ける。


   かちり  こちり  かちり

   こちり  かちり  こちり・・・・・・

   チッ  チッ  チッ  チッ

   チッ  チッ  チッ・・・・・・


   バルルルン・・・・・・

   バルル  バルル

   ・・・・・・バルン バルルルルゥーッ


「(・・・・・・!)」


   ・・・・・・かっ  かっ  かっ

   かかっ  ・・・・・・ガチャリ


「(・・・・・・。)」


   すた・・・・・・  すたり

   すたりすたりすたり

   すたたたたた!

   がちゃん・・・・・・

   ぼすっ  ぼすっ  ぽんっ・・・・・・

   ・・・・・・すたんっ ぴたり!

   ぺたり・・・・・・

   ぴたっ!


 暗い玄関でブーツを乱雑に脱ぎ捨てて、菫色の玄関マットに一歩踏み出した紅葉は、足を止めた。ぴくりと片眉を上げ、一点から視線を動かさない。


「紅葉ぁっ! ・・・・・・あんた、こんな時間まで、今日もどこで何してたのよぉっ!」


 そこには、目を吊り上げて腕を組み、厳しい表情で仁王立ちする母、小紅の姿があった。


「ちっ・・・・・・。なんだよ・・・・・・。もう寝てたと思ったのに・・・・・・」

「寝られるわけないでしょ! あたしが、どれだけ心配して待ってたと思ってんのよ!」

「知らない。アタシが何しようと、ママには関係ねーじゃん。心配してとも頼んでないし」

「ふざけんじゃないわよ! 毎日毎晩、あんたは、危なっかしいことばかりしてさ!」

「危なくないし」

「危ないって言ってんの!」

「なんで? ママには関係ねーじゃんっ。アタシは、危ないと思ってないからな?」

「あんた、いい加減にしなさいよ? 受験生の優璃にだって、影響あるでしょう!」

「関係ねーって言ってんの! なんでアタシのことに、いちいち優璃が出てくんだよっ!」

「あんたね・・・・・・っ! 時期を考えなさいよ。優璃は受験生よ? あんただって中三のとき、優璃にたくさん気遣いされてたんだよ? それなのに、何をしてんのあんたは!」

「・・・・・・。別に? それは優璃が勝手にしてただけじゃん! 頼んでねーっての!」

「ふざけんじゃないっての! あんた、姉として恥ずかしくないの? いい歳して、わけもわかんない夜遊びして、突っ張って、中途半端にワルぶってさ! 情けなさすぎよ!」

「アタシのことわかろうともしねーで、頭ごなしに言いまくっからママは嫌いなんだよ!」


 小紅と紅葉は、目を合わせたまま瞬きもせずに口論し、凄まじい火花を散らせている。

 緑色をした双葉型の髪留めが、さらりとした小紅の黒髪の中できらりと光る。

 紅色の丸い髪留めも、紅葉のポニーテールの付け根で、きらりと光る。


「優璃が言ってた。あんた、粋がってる感じの人を襲って、金を巻き上げてるらしいわね? バカね! だいたい、それ、あんたの主観でしょう! いい人かもしれないじゃない!」

「うるっさいんだよ、いちいち小言ばっか! だいたい、何なんだよ! 姉としてだの、二言目には、優璃って! もう、優璃だけ可愛がってろよ。アタシは邪魔なんだろ!」

「なんでそうなんのよ。あんたが毎日バカなことしてるから、あたしは怒ってんの!」

「バカ狩りのなにが悪いの? アタシに目ぇつけられるような、そんな粋がった格好してる野郎が悪いんだよ! どーせ、そんなやつが持ってる金、あぶく銭だろきっと!」


   ・・・・・・シュバアッ

   パァァァァンッ・・・・・・


 玄関先で、乾いた音が響く。小紅の掌が、紅葉の左頬を振り抜いていた。


「この・・・・・・大バカ娘! なんでそんなになっちゃったのよ!」

「なっ・・・・・・何すんだよ、このやろぉーっ! アタシをひっぱたきやがったなぁーっ!」


 紅葉は一瞬、小紅の平手打ちで、時を止められた。しかしすぐに、ぎりっと奥歯を強く噛み合わせ、さらに目を吊り上げて小紅に両手で掴みかかった。


「あまりにも・・・・・・言ってわからないからよ。あたしだってね、娘の頬を、ひっぱたきたくなんかないよ! ・・・・・・しっかりしなよ。あんた、根はそんな子じゃないでしょうっ!」

「うるさい! うるっさい! ママはアタシのこと、何もわかってない! このぉーっ!」


 小紅の胸ぐらを、紅葉は拳でぎゅっと掴んで搾り上げる。そして、右の掌を大きく振りかぶって、思いっきり小紅へ向かって振り回した。


   ・・・・・・ギュルンッ

   ダダァァンッ!


「・・・・・・ってぇ!」


 小紅は紅葉の腕を素速く捻り上げ、そのまま玄関の床にねじ伏せると、顔を曇らせた。


「母親に、握り拳まで振るうなんて・・・・・・っ。・・・・・・紅葉。ちょっと、じっくり話そう?」

「・・・・・・痛ぇって! 離せよ、ママ! これだから、家はイヤなんだ・・・・・・」


 紅葉は一滴、左の目尻から涙を流した。それは腕を捻られた痛みか、それとも別の理由か。

 同時に小紅も、静かに目を瞑り、紅葉を抑え込んだまま右の目尻から一滴の涙を流した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 紅葉もつえーけど、小紅にゃ太刀打ちできねーのかー。。。 戦闘力がちがうんだな。 [気になる点] てか、この小紅、何歳!? 紅葉がJKじゃ、もういい年齢なんじゃ。。。
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