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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第七幕  父一人、娘二人に、母一人
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五十九・常盤家の団欒

五十九・常盤家の団欒



「ほらほら、パパは座っててー? 今日は、パパが主賓なんだよ? はい、ここね!」


 優璃が、キッチンチェアに優太を座らせる。


「えー? でも、ぼくも何か手伝わなきゃ、悪いよー」

「いいの。パパは富山から帰ってきたばかりで、疲れてるんだから。あたしたちに任せて」


 キッチンから、小紅がにこやかに表情を緩め、優太と話す。


「ずっと家のこと、ママに任せっきりだったのになぁ。なんだか、悪いなぁ?」


 立ち上がろうとした腰を、再び下ろす優太。


   ・・・・・・すた!  すた!  すた!

   ・・・・・・ごんっ!


「・・・・・・はい。ビール! 栓抜きは、そこっ!」

「あ、ありがとう紅葉。・・・・・・ど、どうしたのかなぁ?」


 不機嫌そうに、ドイツビールのビンをテーブルに置く紅葉。


「・・・・・・紅葉。あたし、スープの仕上げするから、それやっといて?」

「・・・・・・。・・・・・・。ちっ!」

「返事は? わかったの、紅葉!」

「・・・・・・わかったってば・・・・・・」


 小紅が目をきらっと光らせ、紅葉に声を大きく飛ばす。紅葉はぷいっと小紅から目を外し、冷蔵庫から料理を取り出した。


「ねぇ、紅葉? ・・・・・・ぼく、ジョッキかグラスがほしいん・・・・・・」


   ・・・・・・ばん! がしっ!

   すた!  すた!  すた!

   ・・・・・・どごんっ!


「・・・・・・中ジョッキ! 置いとく!」

「あ、ありがとう・・・・・・」


 苦笑いの優太。紅葉は、そのままキッチンにいる小紅の真横に立ち、手作りのミートローフとコンソメゼリーで固めたクリスタルサラダを、一気にどばっと洋皿に盛りつけた。


「・・・・・・ちょっと。紅葉! それ、そんな雑にやらないでよ。形が崩れるじゃない!」

「はぁ? ちゃんとやってるし! だったら、自分でやればいーじゃん!」

「あたしは、こっちが手一杯なの。あんたねぇ、今日はパパの帰宅パーティーなのよ?」

「わかってんだってば、そんなことは! ママがいちいち突っかかってくるからだろ?」

「さっきから何をイラついてんのあんたは? きっと、生理前で気が立ってるんでしょ?」

「んなわけねーだろ。まだ先だよ! ママこそ、何をアタシにイラついてんのさ?」

「「 あぁー、もぉーっ! 」」


 声を揃えて、背中合わせでキッチンに立ち並ぶ母と娘。それでも、手際よく小紅は料理を準備していた。


「あーぁ。お姉ちゃんもママも、始まるとなかなか激しいんだからー」


 優璃はキッチンチェアに座り、優太と一緒に、一足先に乾杯。中身は、ぶどうジュースだ。


「・・・・・・優璃。アタシとママが終わるまで待ってろよ。・・・・・・乾杯はみんなでやんだよ!」


 そう言って、ちらりと小紅の方を見る紅葉。


「そーかぁ。・・・・・・じゃあ、パパ。今のは、ゆりとの『乾杯練習』ね? 本番は、四人でね」

「・・・・・・そうね。せっかくだもの、みんなで乾杯しようね。パパ、もうちょっと待って?」

「・・・・・・だろ? みんなでやんなきゃ。・・・・・・アタシ、缶チューハイ。・・・・・・ママは?」

「アタシはビールがいいな・・・・・・って、紅葉はお酒なんかダメよ! 何言ってんの!」

「何でよ! アタシだって、たまには飲みたい日が・・・・・・」

「まだ早いでしょう! え・・・・・・もしかしてあんた、普段、あたしがいない時にも!?」

「・・・・・・冷蔵庫にあるんだもん、そりゃ飲むよ?」

「だ、だーめだってばぁ! あー、もぉ。・・・・・・ねぇ、パパ? あたしと紅葉、ずっと最近こんな感じ・・・・・・。どーしましょうね?」


 小紅は、ふらふらと歩き、中ジョッキと瓶ビールをもう一本持ってきた。


「・・・・・・ねぇ、アタシのやつは?」

「だから、あんたは優璃と同じやつか、お茶にでもしな?」

「なんだよ! パパの帰宅パーティーだろ? 固いこと言わないでよ!」


 口を尖らせる紅葉。優太は、ぽかんとして固まっている。


「・・・・・・紅葉? そのー・・・・・・。このお料理なら、缶チューハイは合わないかもよ?」

「パパ! そうじゃないでしょ! 紅葉は年齢的にまだ飲んじゃダメ! そこが問題なんだってば! ・・・・・・あー、あたし、頭痛いかも・・・・・・」

「え! ご、ごめん。ぼく、何か、ズレてたみたいだー・・・・・・」

「はい、ママ。お水飲んで?」


 優璃が、小紅に冷水を差し出した。小紅は「ありがと」と言って、一気に水を飲み干す。


「あー、もう! なんでもいいや! パパ、おかえり! さぁみんな、乾杯するよ!」

「なんか吹っ切れやがったな、ママ? アタシはこの隙にチューハイを・・・・・・」


 半ばヤケになったように、小紅は優太のジョッキに並々とビールを注ぐ。優璃も一緒に、小紅とビールを注ぐ。お返しとばかりに、優太は笑顔で小紅のジョッキをビールで満たす。

 紅葉は、クォーターパンツのポケットにブドウ味の缶チューハイを一本隠し、飄々とした顔で優璃のグラスへぶどうジュースを注いだ。優璃は、紅葉のグラスにぶどうジュースを注いだが、乾杯直前で、なぜかそれはシュワシュワと泡立っていた。


「「「「 いただきまーす! かんぱーい! 」」」」


 久々に常盤家の食卓は四席埋まり、男性の声が家の中に響いていた。

 小紅は、紅葉と口喧嘩しながらも、乾杯してからは終始にこにこしている。その横で、紅葉が、こそこそとグラスの飲み物を飲んでいる。

 それを完全にわかっていたのか、横から、小紅が笑顔で紅葉にゲンコツをした。「いってぇ」と喚く紅葉。その隙に、ぶどう色の飲み物は、小紅が一気に飲み干してしまった。

 優璃と優太は、その様子に大笑い。紅葉は「アタシの隠し酒が」と最後まで嘆いていた。


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