五十七・久々に帰った、父 優太
五十七・久々に帰った、父 優太
「・・・・・・ただいま! 久々に帰ったよ! あれ? おーい、ママ? いないのかなぁ?」
ネクタイをくいっと緩め、にこやかに玄関からリビングに向かう優太。
「・・・・・・おかえりーっ、パパーっ! 待ってたよぉーっ!」
「うわっ! びっくりしたぁ! 優璃、ここにいたのかぁ!」
目を丸くして驚く優太。優璃が、リビングの戸を開けた優太に駆け寄って飛びついた。革製の鞄を優太から受け取った優璃は、にこにこしながら鳥かごの前へ。
優太は、ふっと微笑んで、洗面所へ向かった。
「ぴーちゃん? 久々にパパが帰ってきたよー? よかったねー」
「ピキュル♪ ピョル♪ ピーチャン! ピーチャン!」
優璃は、かごの隙間から人差し指を入れて、インコの頭を撫でている。
優太は、洗面所から戻り、冷蔵庫から缶ビールを一本取り出し、ソファーに座る。
「・・・・・・優璃、ママや紅葉は?」
「二人でお買い物に行ってるよ? パパ、もうちょっと遅く帰ってくると思ったー」
「そっかぁ。悪いことしちゃったかな?」
「いいんだってー。逆に、ママとお姉ちゃんを驚かせちゃえば?」
「車があるのに、バレバレじゃないか。ぼくが帰ってるって、すぐわかるよ」
「あ。それもそうだね?」
くすくすと笑う優璃。
「・・・・・・そう言えば、紅葉もママと一緒に買い物って言ったね? 最近にしちゃ、珍しいじゃないか! びっくりだよー」
ぷしゅりとプルタブを開け、ごくりごくりとビールを飲む優太。
「お姉ちゃんね、最近、ちょっとずつママと喧嘩せずに過ごすようになってるよ? でも、まーだ、ぶつかるときはぶつかるけどね?」
「そうなんだ。・・・・・・ぼくが単身赴任中、いろいろ何かあった?」
「えー? ・・・・・・あ! あー、でもぉ・・・・・・。うーん。でもなぁー・・・・・・」
腕組みをして、神妙な面持ちで考え込む優璃。
優太はきょとんとして、首を傾げて娘の顔を見つめている。
「なに? どうしたんだい、優璃?」
「(お姉ちゃん。このタイミングで、ゆり、言ってもいいものなのかなぁ?)」
「・・・・・・パパー、ゆりさぁ・・・・・・。実はね・・・・・・。うーんと、ね・・・・・・」
頬を赤らめ、優太のバッグで顔半分を隠し、もじもじする優璃。
「ん? なにかな? あ! 欲しいオモチャがあるとか?」
「もぉ! 違うよ! オモチャって・・・・・・ゆり、もうそういう年齢じゃないんだけどね」
「あ。ご、ごめん! 何か、欲しいものがあるのかと思ってさー」
「・・・・・・やっぱり、いいや。特に何もなかったかな。そういえばね、お姉ちゃんが、簿記検定ってやつを受けるって言ってた」
「え! そうかぁ。紅葉が、資格取得をねー。それはぼくも、嬉しいなぁ!」
「そうだね。最近、お姉ちゃん、ちょこっとずつ変わってきたかんじだよー」
「そうかそうか。ぼくも家を離れてたからさ、そういう話は、嬉しいよ。優璃は、志望校は決まったかい? ・・・・・・富山にいる間、特に返事とかはなかったみたいだけど」
優太は、テーブルにビールの缶を置き、優璃に微笑んで優しく話しかける。
「・・・・・・柏沼、にするの。ゆり、だから今、たくさん必死に頑張ってるんだ!」
「柏沼東じゃなくて、柏沼がいいんだね? レベルが上がるけど、いいんだね?」
「うん! ゆり、もう、志望校変えないから。ママは、『柏沼東のがいいんじゃない?』って感じだけど、頑張るからって言ったら、応援してくれたよ!」
「そうかぁ。・・・・・・じゃあ、頑張るんだよ? パパも応援するよ。優璃が決めた道だしさ」
「うんっ! ・・・・・・そうだ、パパ。英語でわかんない文があってー・・・・・・」
「どれどれ? 見せてごらん?」
優璃は、優太の前に英語の問題集を持ってきた。
ぴょこんと揺れる優璃の結い髪。その根元に光る髪留めを見つめ、優太はふっと微笑んだ。




