五十六・父の失敗
五十六・父の失敗
「では、俺はここで大丈夫だ。土日はゆっくり休むといい。家族サービスも大切だからね」
「すみません。ありがとうございます! では、部長。また来週、よろしくお願いします」
「ああ。奥さんにもよろしくな、常盤君。それじゃ、また来週頑張ろう!」
優太は、弓板市にある長岡の自宅前で車を停め、門まで見送ってぺこりと頭を下げる。
その後、宇河宮市の北にある会社へ戻って社用車を返し、自分の車で家へと向かった。
ブロロロロロ・・・・・・ ブウウゥーーーンッ
「(ほんと、参ったな。・・・・・・こんな間際になって・・・・・・)」
片手で頭をがしがしと掻く、優太。信号待ちの間、ハンドルに突っ伏し、項垂れていた。
―――。
「ちょっと! 太平洋商事の常盤さん! 話が違うじゃないかっ! 困るよ、本当に!」
「え? ど、どういうことでしょう? 何か、トラブルでも・・・・・・」
「頼んだ部品じゃないよこれ! 規格が合わない! 打ち合わせで説明しましたよね?」
「え! ち、違うと言うことですか? ・・・・・・このネジではないのですか?」
「ほら。どこを見ても、このネジじゃ合わないでしょ! しかも、普通のネジより硬度の高いモリブデン鋼の強固なやつで、って言いましたよね? 何やってるんですか!」
「す、すみません! すぐに業者へ確認し、再度、今日中に部品取り寄せを・・・・・・」
「無理だよ! これ、特殊規格ネジだよ? 今日発注しても、どこも今、この規格ではすぐに作れませんよ! だから、早めに打ち合わせをして、発注を頼んだんですよ!」
「も、申し訳ありません! ・・・・・・か、完全にこれは、こちらの確認不足で・・・・・・」
「早く進めろだの、何だの言って・・・・・・。部品が無いんじゃ、こっちだって会場の設備をきちんと設置しようにも、できないじゃないか! 今月中に、何とかしてくれ!」
「も、申し訳ありませんっ! ・・・・・・何とか早急に、業者や職人を探して、滞りのないように、部品は仕入れますので!」
「ちゃんとしてくれよ! おたくの会社から請け負ったが、これじゃ、進めらんないよ」
―――。
「・・・・・・はぁ。ど、どうすればいいんだ・・・・・・」
「どうした、常盤君? 何があった? 営業部は順調に商談が進んでるらしいぞっ!」
「あ! な、長岡部長! 実は、この二十個あるブース設営を設計した際、特殊サイズのネジを発注したつもりが、規格違いのものになってしまい。部品が、ないんです・・・・・・」
「な、なんだと。・・・・・・もう、今月中には会場を完成させるようなのに・・・・・・」
「モリブデン鋼は、本社の工業部に聞いたところ、原料はあるそうですが・・・・・・。それを加工する機械や技術者がいないんです。古いタイプの型式らしく・・・・・・」
「そういうことか。・・・・・・俺も、そこを見落としてしまい、悪かった」
「請け負っていただいた建設会社も、カンカンで・・・・・・。本当に、すみません!」
「常盤君、これは一刻を争うぞ! 再来週まで毎日、富山県内や隣県の鉄鋼業者などを、しらみつぶしにあたろう! それでもだめなら、一旦、本社に戻って再検討だ!」
「え? し、しかし・・・・・・。現場との話も・・・・・・」
「ここにいま部品が無いんじゃ、現場もどうにもならないだろ? 作業員さんたちの調整は現場監督に任せて、俺たちスーツ組は、その部品を何とか調達して、すぐ契約しなきゃならん! さぁ、常盤君! 県内を隅々までいくぞ!」
―――。
ブロロロロロ・・・・・・ きいっ バタン・・・・・・
優太は、ドアノブに触れる前に浮かない表情を振り飛ばし、笑顔で自宅の玄関を開けた。




