五十三・十六夜岳の過去
五十三・十六夜岳の過去
チッ チッ チッ チッ チッ・・・・・・
腕時計が、細かな音を立てている。ライトを反射させ、針がぴかりぴかりと輝く。
「ふんふふーん。・・・・・・ふんふふふーん・・・・・・」
十六夜はひとり、オフィスでデスクの上にノートパソコンを開き、コーヒーを飲みながら画面に映る何かを眺めている。
それは、資料用に保存されている、紅葉の写真だった。
「(・・・・・・常盤紅葉か。・・・・・・この顔立ち。この目つき。そしてあの強さ。・・・・・・ふふん。オレは忘れもしねーぜ、あの日のことは。・・・・・・そっくりだ、あの女に・・・・・・)」
チッ チッ チッ チッ チッ・・・・・・
―――。
「ひゃはは。ちょれぇ! 小紅だか何だか知んねーけど、女一人やりゃいいんだろ?」
「なぁ? 本当に、そんな女一人に、オレたちデスアダーが本気出していいのかぁ?」
「ひゃはは! ビビってんかよ、ガク! ブスジマさんが、一億五千万もくれんだぜ?」
「必ずここに来るらしい。マブい女だったら、犯そうぜ! ガクは、どうすんだ?」
「い、いや。ブスジマさんが、その小紅って女を殺れっていうなら、やるしかねーよな」
「ひゃはは。おめぇ、ビビりすぎだぜ! まぁ、入りたての下っ端じゃ、しゃーねぇか」
「おい、ガク! おめぇ、そっちずっと見張ってろや! 誰か来たら教えろよな!」
―――。
「あ? おい、なんだ、あの女?」
「おいおい! あいつじゃねぇか、一億五千万円ってのは!」
「ガン飛ばしてやがんぜ? 間違いねぇな。・・・・・・マブいぜ。犯してから、ブスジマさんのとこに連れて行こうぜ!」
「ひゃはは。いいじゃねーか。・・・・・・犯す一番手、オレな! 金ももらったぜ!」
・・・・・・ざあっ ざっ ざあっ ざっ ざっ
「(と、とりあえず、オレもこの女をぶっ倒せば、金がもらえるんだな! よ、よし!)」
「おいおい、おめー・・・・・・」
ダダダダダダダダッ ドバキャアッ
バキイッ ズドオォッ メキイッ
「「「 が・・・・・・ 」」」
シュバッ ドグシャアァッ ドッシャアンッ!
「誰だろうが、薄汚い心のデスアダーは許さない! このろくでなしどもめ!」
―――。
「・・・・・・うぐ。・・・・・・ぐはっ。立てねぇ・・・・・・。つ、強えし、痛ぇ・・・・・・。おい、おい? ダメだ。・・・・・・みんな、気を失ってやがる・・・・・・。オレだけかよ、意識あんの・・・・・・」
パパパパァン ドバシャアッ バキャアッ ドゴオッ ベキイッ
ワアアアアアアアアアアアアアアア ウオオオオオオオオオオオン
ドドドドドドッ ズガガガッ ダァンッ ヒュルンッ ズガガガガァッ
「「「「「 まだまだぁ! やっちめぇーっ! 」」」」」
チュッドォォンッ! ボォワァァッ! チュドォォンッ!
ボオオォワァァ・・・・・・ ゴオオオオォォォォ!
「な、なんだ! すげぇガソリンのにおいだ。・・・・・・ごほっ。・・・・・・くそ。あれが・・・・・・早乙女小紅の実力・・・・・・。おっかねぇ目してやがった・・・・・・。あっちの音や声・・・・・・。本気で、ブスジマさんと戦ってやがんのかよ・・・・・・。・・・・・・くそ・・・・・・。サイレンの音もする。警察も来そうだ。しばらく、倒れたふりだ。げほおっ・・・・・・。い、痛え・・・・・・」
―――。
「・・・・・・おい! 毒島! ・・・・・・お前、もうさすがに限界なんだよ! 諦めな! このまま警察におとなしく捕まれ! ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。あたしは、お前を絶対に許さない。だけど・・・・・・あたしはお前みたいに、命を奪うようなことはしないからね?」
「・・・・・・う、うるさいですよ、早乙女小紅。・・・・・・ぐう・・・・・・。このボクは、力で支配する国を、作るんだ・・・・・・。警察など、このボクが・・・・・・叩き伏せてくれるわぁっ!」
ズオオォォォ ボオオォォォ ブウゥオオオォッ
「な、なんてことだ! ・・・・・・毒島が、炎の中にっ・・・・・・」
「・・・・・・ほっほっほ・・・・・・。心地よい炎です・・・・・・。ボクは誰にも支配されないよ・・・・・・。・・・・・・ボクは、誰にも負けませんからねェ。・・・・・・ほぉーっほっほっほっほーっ・・・・・・」
ドワァァンッ! ゴオオォォ ズゴオォォオオオッ
「・・・・・・い、今のは・・・・・・ブスジマさんの声? ・・・・・・げほっ。・・・・・・もう、やべぇな。ちきしょう。警察に捕まったらやべぇ・・・・・・。オレは何としてでも逃げねーと・・・・・・」
ボオオオオオォォ ドワアアァンッ
ゴオオオ ボオオオオオオオオ
「はっ! そ、そうだ・・・・・・。確か、この採石場跡には、デスアダーが隠している財産が! いや・・・・・・ダメだ。きっと、警察が持ってっちまうよな・・・・・・。くそ・・・・・・隙を突いて・・・・・・逃げるしか・・・・・・。・・・・・・ん! い、いまだ! いける!」
・・・・・・ぐいっ! だだだだっ!
よろっ ヴォンヴォンヴォンーッ!
「あ! く、くそっ! 二斗刑事! 雑兵にひとり、逃げられました!」
「むうぅ! やむを得ん、すぐに検問をかけてとらえるんだ!」
「捕まってたまるか、くそっ! 早乙女小紅に、デスアダー。もう、最悪な記憶だぜ!」
ボボボボ! ヴォヴォーンッ!
ブオオオーーーーーンッ・・・・・・
―――。
チッ チッ チッ チッ チッ・・・・・・
「ふんふふーん。・・・・・・やっぱり。二瓶秘書が調べた資料を見て、確信が持てた・・・・・・。あの早乙女小紅の娘だったか、常盤紅葉。・・・・・・何の因果かな、こりゃ。・・・・・・ふん!」
十六夜は、パソコンに映った紅葉の画像を見て、鼻歌を歌いながら笑っている。
そして、それをしばらく眺めた後、ぱたんとパソコンを閉じた。
「(さて、どんな仕事っぷりを見せてくれることやら。・・・・・・しかし、あの脅迫文は、いったい誰が? 本当にイベントを壊すつもりなのか? 謎だぜ、まったくよぉ・・・・・・)」
宇河宮の夜景を見つめながら、十六夜はスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかける。
「・・・・・・もしもし。オレだよ。・・・・・・そう。常盤紅葉って女と、ちょっと、裏取引をしてほしい・・・・・・。日時は・・・・・・」
時計の音とともに、さらに夜は更けてゆく。




