五十・横っ面に、紅いモミジ
五十・横っ面に、紅いモミジ
「いい加減にしないか! 今日はもう、帰れって・・・・・・」
「う、うるせー。・・・・・・おいらは、紅葉を迎えに来たんだ。おまえに邪魔されたからって、おめおめと、帰れるわけねーじゃんか・・・・・・。はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
玄桐は、楢崎と取っ組み合ってボロボロのヨレヨレになっていた。
「だいたい水崎、お前、他校生だろう? 常盤をこれ以上変なことに巻き込むようなら、学校同士の問題にもなりかねないぞ?」
「う、うるせーってんだ。・・・・・・おまえこそ、おいらをこんなにぶん殴って・・・・・・」
「ここへ誘ってきたのはお前だし、先に手を出したのもお前だからな?」
「絡んできたのは、おまえじゃんかよー・・・・・・。はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
路地裏に、生温かい風が吹き込む。
玄桐は、楢崎の目を見たまま、乱れた髪をしゅっと両手で直す。
「へへっ! こいつぁ、おいらのトレードマークだかんな! めちゃくちゃなまま、バカ狩りなんざ、行けねーぜ・・・・・・」
「バカ狩り? なんだそりゃ? ・・・・・・不良の考えることは、わからないな」
「紅葉はよーく、わかってくれるぜぇ?」
「く・・・・・・っ! さっきから、耳障りだな。もういい。終わりにしよう!」
楢崎は、玄桐へ向かって一気にダッシュ。踏み込んで左拳を思い切り振るった。
・・・・・・シュウンッ ・・・・・・バシイイィィッ!
「あっ!? なっ! 俺の正拳が? ・・・・・・え?」
玄桐に放たれた拳は、五指を開いた掌によって、止められていた。
「・・・・・・なぁにやってんだ? 玄桐に、楢崎? ・・・・・・どういうことだよ・・・・・・」
楢崎の拳を止めていたのは、紅葉の手だった。思わず楢崎は、ぱっとその拳を引く。
「と、常盤! す、すまない。・・・・・・これは」
しどろもどろな楢崎を、じろっと睨む紅葉。そして、ヨレヨレになった玄桐を見てから、楢崎へ向かって近寄る。
「く、紅葉ぁ? もういいから、いこうぜ!」
・・・・・・グイッ!
「!」
楢崎の胸ぐらを掴み、紅葉は下から睨み上げた。
「おい、楢崎! こいつはな、アタシの友達なんだよ! 何してくれてんだ、お前!」
「と、友達だと! い、いいか常盤。お前は、こんなやつとつるんでては・・・・・・」
「はぁ? アンタにそんなこと、言われる筋合いないね。何様なんだよ!」
「い、いや。俺は、お前のことを想ってだな・・・・・・。その、きちんとしたやつと・・・・・・」
「お前だって、空手やってるくせに玄桐をボコボコにして! きちんとしてねーじゃん!」
「そ、それは・・・・・・」
・・・・・・グッ バチイイィィンッ!
紅葉の平手が、楢崎の横っ面を張った。呆気にとられ、その場で固まる玄桐と楢崎。
「・・・・・・玄桐、お前、楢崎と面識あったのか?」
「い、いや。おいら、こいつと絡むのは、さっきが初めてだなー・・・・・・」
「楢崎! お前、初対面のヤツに、しかも、こんな弱っちいのを相手にして、何様だよ? ふざけんなっての! ・・・・・・アタシは、自分の判断でこいつと関わってんだから、お前にどうこう言われたくないんだよ!」
目を吊り上げて怒る紅葉。楢崎は、黙ったままだった。
「・・・・・・行こう、玄桐! 今日は最後のバカ狩り。アタシの引退試合だなっ!」
「あ、ああ。・・・・・・スクーター、むこうだからよ。・・・・・・じゃあ、行こうぜ・・・・・・」
うなだれて座り込む楢崎をほったらかしにして、紅葉は玄桐と正門の方へ向かっていった。
玄桐は、何度かちらりと振り返り、楢崎の様子を窺っている。
「ほっとけっての! あいつが悪いんだからさ!」
「で、でもよぉ。・・・・・・あんなに強烈なビンタしちゃってさぁ・・・・・・」
「いーんだよ。あいつ、アタシに対して、いっつもめんどくさい絡み方だからさ!」
「い、いや。それはよぉー・・・・・・。あー、さすがにこれは、男同士として、言えねー」
「何をさっきから、ジタバタしてんだよ玄桐。うっとぉしーなぁっ!」
頭を抱えて、悶える玄桐。紅葉はきょとんとして、それを見つめていた。
「(楢崎よぉ・・・・・・。おまえ、こんな紅葉だもん、どうこうできねーって・・・・・・)」
玄桐は、遠くでぽつんと座り込んでいる楢崎に向かって、ぱんっと両手を合わせて、深く頭を下げた。




