四十九・がんばれ玄桐くん
四十九・がんばれ玄桐くん
バチイイィンッ! ドシャアアッ!
肌を打つ乾いた音が、路地裏に響く。
「い、いってぇーっ! ・・・・・・こ、こいつ、つえー」
「いい加減にしろよ。まともな喧嘩もできない、ポンコツの不良じゃないか」
「うるっせぇー。おいらは、紅葉に助けてもらってんだ! おまえがおいらと紅葉のこと、どうこう言える立場じゃねーだろがーっ!」
ぶんっ ぶんっ ぶんっ ぶんっ
「ぬぉ! あ、あたんねー。紅葉ならいつも喧嘩で、こうやって当たってるはずなのに」
・・・・・・シュンッ バチイイィィンッ!
玄桐の拳は、空を切る。楢崎の拳は、高速で玄桐の顔面を捉える。
「いてぇーっ! く、くっそやろぉー」
「諦めろよ。・・・・・・お前じゃ、俺に触れることすらできないんだからな」
「だまれ、ぼっちゃん! おいらはな。・・・・・・おいらは、紅葉じゃなきゃ、だめなんだよ」
「なんだそれ? お前、常盤に惚れてるってことか。・・・・・・ますます気に入らないな」
「うるせーよ。おまえこそ、何なんだよ。紅葉の何がわかるってんだ!」
「常盤は、お前みたいな不良と一緒になんか、いたくないはずだ。今の常盤は、俺の知る常盤じゃない。以前はもっと、真面目で清楚で、学年でも人気のある人だったんだ」
楢崎は、学生服のポケットに両手を突っ込み、倒れた玄桐を見下ろしている。
「へへっ! なんだよ。おまえこそ、紅葉に惚れてるような言い方じゃねーかよ? 紅葉が、根は真面目なんだろうなんて、おいらだってわかってたぜ? でも、紅葉はそんな自分の殻をぶっ壊してまでも、不良になりきれず、モヤモヤしたまま突っ張ってんだよ。そこまで、おまえ、わかってたか?」
「・・・・・・うるさいな。他校生の不良の分際で。・・・・・・とにかく、学級委員長として、常盤は俺が元に戻させる。お前みたいなやつとの関わりは・・・・・・」
「うるっせぇーっ!」
・・・・・・ダダダダダッ がしいっ どさあっ!
玄桐は、起き上がって猛ダッシュし、楢崎の胴体にしがみついて薙ぎ倒した。
「・・・・・・つっ! 何しやがる!」
ぽこぉ! ぽこん! ぽこん!
楢崎の顔を両手で殴る玄桐。パワーはないが、男の意地を乗せた拳で、叩く。
「おいらにとって、紅葉は、愛だの恋だのじゃねーんだ。安っぽいこと、言うな!」
・・・・・・ドガアッ!
足で玄桐を撥ね飛ばす楢崎。二人は立ち上がり、息を切らせながら睨み合っている。
そんなことを知る由もない紅葉は、二人の教師と、まだ話を続けていた。




