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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第五幕  親と子 小紅と紅葉
45/211

四十五・ガブーンバイパー社の闇と・・・・・・

四十五・ガブーンバイパー社の闇と・・・・・・



   ・・・・・・ぎしり  ぎしり  ぎしり


 椅子が揺れる。軋む音を立てながら。

 五所ヶ原は、社長室で秘書の二瓶と専務の一之瀬を前に、葉巻をふかしている。


「んぬっふっふっふ。一之瀬君。・・・・・・うまくいきそうかね?」

「はい、社長。・・・・・・今度のイベントを皮切りに、次々と手筈は整っておりますよ」

「ぬっふっふふふ。・・・・・・二瓶君。副社長は、これに気づいていないだろうな?」

「もちろんです。全ては、副社長の所行ということに、なっていくと思いますよ?」

「邪魔だからねぇ、あの副社長は。どうも、真面目すぎていかん。・・・・・・ワシにとっては、目の上のタンコブだ。・・・・・・一之瀬君。警察にも知られず、全てうまくやれよ?」

「所得隠し。違法雇用。人身売買。拳銃密輸。大麻密輸。・・・・・・全てを、副社長の罪にするおつもりで? ・・・・・・社長も、恐ろしいお人だ。我々では到底、考えられませんな」

「んぬっふっふ。副社長・・・・・・四日市(よっかいち)(くれる)。彼は、どうやら我が社を根本から洗い直したいようだからね。ここは、ワシの会社だ。消えてもらうためには、アイドルだのアルバイトだのを大いに利用し、たくさん罪をかぶってもらわねばね?」

「それで、雇った小娘たちを、トカゲの尻尾切りに使うわけですか。怖いお方だ・・・・・・」

「全ては、副社長の指示ということにすればいい。『あの金』は、守り抜くようだがね」


 五所ヶ原は、モデルガンを布で拭きながら、笑っている。

 秘書の二瓶が、口元をくいっと上げて、社長へ問う。


「『あの金』とは、二十三年前、宇河宮郊外にある大矢(おおや)採石場(さいせきじょう)(あと)から我が社が発見し、独自に隠しているという、あれですかぁ?」

「んぬぅっふっふ! まさに、そのとおりだ。しかし、あの小僧が、あれほどの大金を隠し持っていたとはねぇ。・・・・・・おかげで、我が社も大きな隠し予算を持てたものだね」

「確かに。・・・・・・所得計上もしていないゆえ、公には出来ませんが。もし知られた場合は、拾得物横領と、莫大な脱税の疑いを掛けられてしまうでしょうね。ははは!」


 一之瀬も、ふっと息を吐き、五所ヶ原と向かい合って笑う。


「・・・・・・我が社に匿名で届いた謎の情報だったが、まさか本当にあんな金があったとはな」

「三十五億円、ですね。・・・・・・デスアダーか。あんな暴力集団が、あれほどの金を持っていたとは。・・・・・・しかし副社長は、これまでの我々の不正を暴こうとしているわけですね」

「社長。手駒にした常盤紅葉の母親は、実質的にデスアダーを潰した人物。それが、デスアダーという組織ができるきっかけになってしまった、五所ヶ原社長のもとに加わっているとは、また何とも、皮肉な話じゃありませんかぁ? うふふっ!」


 二瓶は、口元を手で押さえ、堪えきれない感じで笑っている。


「社長、その常盤紅葉の父親は、あの太平洋商事の社員です。今回のイベントも、太平洋商事が一部に絡んでおりますが、間違ってもこの金の話が漏れることのないよう、細心の注意を払って事を進めますので・・・・・・」

「一之瀬君、頼んだよ? ・・・・・・なぁに。もしもの時は、副社長もろとも、みんな、消してしまえば良かろう? んぬっふっふっふ!」

「はっ! ・・・・・・お任せ下さい」

「社長。最近、所属しているタレントやアイドルたちから、賃金が低いだの仕事が多すぎだのと言った声も多数出ています。あまりにもうるさいようなら、切り捨てますか?」


 二瓶が、タブレットをタッチし、いくつかのデータ画面を見つめている。

 一之瀬も、その画面を見て、「ふぅむ」とうなる。


「・・・・・・二瓶君。その時は、うるさい小娘どもを、カンボジアかベトナムにでもまとめて、記憶を消して送り届けてしまえ。・・・・・・常盤紅葉も秘密を知った場合は、口封じだな」

「はい。それでは、やらせていただきます。我が社のイメージは汚さず、裏でキッチリと、いつもの『作業』をします。・・・・・・忠誠心の無い社員やアルバイトは、廃棄処分します」

「うるさい副社長に気づかれないようにな? あと、変に嗅ぎ回る者にも、遠慮することはない。隠密に消してしまえ。君たち、よろしく頼んだよ? んぬぅっふっふっふ!」


 五所ヶ原は、モデルガンの銃口を一之瀬に向け、ぺろりと舌なめずりをする。

 一之瀬は、一礼して、にやりと笑って社長室を出る。


「(五所ヶ原社長。まったく、恐ろしい人だ・・・・・・。表と裏の顔が、大違いだな)」


 ふうっと息を吐き、靴音を響かせて、一之瀬は自分の部屋へ戻っていった。


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