三十九・タバコの煙は嫌いなんだよ
三十九・タバコの煙は嫌いなんだよ
「なんだ? ・・・・・・派手なおっさんだな。誰?」
「「 はっ! しゃ、社長! 」」
「はぁ!? 社長!? この、派手なおっさんが・・・・・・???」
部屋に入ってきたのは、社長の五所ヶ原旭と秘書の二瓶音羽だった。一之瀬と十六夜が、五所ヶ原に向かって深く一礼する。
・・・・・・かつり かつり かつり かつり
真っ白な革靴の音が、ホールに響く。五所ヶ原の両耳には、星型のイヤリングが光る。
「んぬっふっふっふ! ・・・・・・常盤紅葉。見せてもらったよ。確かに、素晴らしい腕前だ。男三人に襲いかかられても、動じずに薙ぎ倒す腕前。・・・・・・こっち側の人間に近いねぇ」
五所ヶ原は、眼鏡をくいっと上げ、紅葉をじっと見据える。二瓶は、横から葉巻を渡し、高級そうなライターで火を点ける。五所ヶ原の顔前に、煙がもわっと揺らめく。
「・・・・・・けほっ! けほっ! おい。アタシはタバコが大っ嫌いなんだよ!」
「んぬふふ! こいつは失礼。・・・・・・とにかく、君は合格だ。さっそく再来週のイベントから、我がガブーンバイパー社の契約員として、働いてもらおう」
紅葉を見下ろす、五所ヶ原。すると、二瓶がバッグから一枚の紙を取り出した。
「どうぞ。労働契約書です。もっとも、形としては、アルバイトとしての契約になります。正社員ではないので、お間違えのないように?」
「労働契約? まぁ、バイトだから、しゃーないか・・・・・・。ここに名前書けばいーの?」
二瓶は、くすっと笑って、紅葉にペンを渡す。
「く、紅葉ぁ? ほんとに、だいじかよぉ! よーく見た方が・・・・・・」
「心配すんなって。どっちにしろ、ここで大金稼いで、玄桐んち助けてやんなきゃなんないんだから、いちいち細かいことは抜きだ!」
「い、いや、契約書だぜぇ? ちゃんと目を・・・・・・」
「やるしかないんだから、ここでビビってどうすんのさ! ・・・・・・はい、っと!」
紅葉は、サインをして二瓶に契約書を返した。
「・・・・・・ごくろうさま。これであなたは、これからは我が社が指示する業務を、しっかりとこなしていただくようになります。ま、頑張って下さいね? では社長、お先に・・・・・・」
二瓶は、紅葉の肩をぽんと叩いて、部屋から出て行った。
「・・・・・・いけ好かねー女だな。なんだよ、あいつ。アタシの嫌いなタイプだ・・・・・・」
「んぬっふっふっふ! さぁて、常盤紅葉。再来週から、よろしく頼むよぉ?」
独特な笑い声を部屋に響かせ、五所ヶ原も踵を返して部屋から出て行こうとする。
「あ、そうだ。・・・・・・一之瀬君、その三人は、もう我が社にはいらない。よろしくね?」
「かしこまりました、社長。・・・・・・処分しておきますので、あとは、お任せを・・・・・・」
悠然と歩み、部屋から出る五所ヶ原。その背中を、紅葉は眉をひそめて睨みつけていた。




