三十八・うるとらふぁいやー
三十八・うるとらふぁいやー
「ふへひ。ふひへ・・・・・・。ミ、ミーは、鳥嶋やっちゃんだよぉ。・・・・・・ぴょんぴょこぷー」
「(気持ち悪ぃな。・・・・・・なに、こいつ・・・・・・。さっさと片付けちまおうっと)」
左右の目をカメレオンのようにくるくると回転させながら、不気味な笑みを浮かべてふらりふらりと横に動く鳥嶋。
紅葉は、牛原や鹿山とは違った奇妙な雰囲気の鳥嶋に対し、警戒して拳を向ける。
「おい! お前! アタシはモタモタしてらんないんだよ! さっさと、片付けさせてもらうからね!」
「ふひひ。ふひひひ。・・・・・・ミーは、鳥嶋やっちゃん。ミーは、鳥嶋やっちゃん。ミーは、鳥嶋やっちゃん。鳥嶋やっちゃん。鳥嶋やっちゃん。・・・・・・うにゃうにゃぷー」
鳥嶋は、くるくると回転させた両目を、ぴたりと紅葉に向けた。すると、ズボンのポケットから、制汗スプレーの缶と、小さなライターを取り出した。
一之瀬と十六夜は、それを見て慌てる。「それはいかん」と椅子から立ち上がろうとする一之瀬。
「え! スプレー缶に、ライター? アタシに向けて、何を・・・・・・」
「紅葉ぁ! やべぇ! 横に跳べぇ!」
「えぇ! 玄桐!?」
玄桐が部屋の隅で、紅葉に向かって叫んだ。鳥嶋は、ライターの火を点けると、スプレー缶のトリガーに指をかけた。
「ふはひひ。ふはへ。・・・・・・ミー、鳥嶋やっちゃん。うるとらふぁいやーっ!」
・・・・・・カチリ
ズボオオオオオォワァァッ! ボオオオワアアァァッ!
「うあああーっ! な、なんっだこいつは! 火炎放射じゃん!」
鳥嶋の手元から、炎が一直線に紅葉に向かって放たれた。スプレー缶のガス圧で噴射された気体が、そのままライターの火に引火し、太い火炎となって襲いかかってくる。
紅葉は横にごろりと転がって回避。鳥嶋は、狂喜乱舞してあちこちに炎を吹き付ける。
「ふううはははひひ! ミ、ミーは、つよぉい、鳥嶋やっちゃん。・・・・・・もっと、おかね、くださいなぁー? にゃんにゃかにゃん! うるとらふぁいやーっ!」
ズボオオワアアァ! ボオオワアアアァァ! ゴバアアァァ!
「い、十六夜! このままではここが、燃えてしまう。スプリンクラーを作動だ!」
「まったく。二瓶秘書も、とんでもねー奴を入れやがったんですね。了解です」
十六夜は、スプリンクラーの作動レバーへ手をかけた。
・・・・・・ビュウンッ! バカアンッ!
「むぅ! な、何をするんだ、常盤紅葉!」
紅葉は、十六夜の手元へ、足下にあった角材を投げつけた。
「手出しすんじゃねーっての。いま、アタシのテストなんだろ? 邪魔すんな」
「じょ、状況を見ろ! このせいで、火事でも起きたら・・・・・・」
「このファイヤー野郎を呼んだのは、そっちじゃんか! まぁ、黙って見てろ!」
紅葉は、奥歯をぎりっと噛み、鳥嶋に向かって一気にダッシュ。鳥嶋も、再びスプレー缶に指をかける。
・・・・・・さっ! ごろんごろん!
ボオオオワアアアァァッ!
炎が放たれる瞬間、紅葉は斜め下に前転し、鳥嶋の足下へ転がった。
「この眼鏡ファイヤー野郎! どうだ? 自分の足ごと、アタシをバーベキューにでもしてみますかぁ?」
「あぐぐ。ふひはひへ。・・・・・・と、鳥嶋やっちゃんは、天下無敵! ぴっぴらぴぃ・・・・・・」
「うるせぇーっ! このやろぉーっ!」
・・・・・・ドギャアッ! メキョオッ!
寝転がったまま、紅葉は鳥嶋の股間を下から蹴り上げた。
「うんにゃらぱっぱぁー・・・・・・。ぽわぽわぽっぽーぉ!」
ライターとスプレー缶をその場に落とし、鳥嶋は奇声を上げて床に転がり、もがいている。
・・・・・・ドグシャアッ! ドガアンッ!
「・・・・・・薄っ気味悪い野郎め! 寝てろ!」
鳥嶋の頭を思いっきり踏みつけ、蹴っ飛ばす紅葉。鳥嶋は、痙攣をして沈黙。
踏みつけた足を浮かせ、鳥嶋をひょいっと飛び越える紅葉。白いセーラー服の裾がひらりと舞い、紺色のスカートがふわりと花開く。
「どーぉ? 三人、ぶっ倒したよぉ? ・・・・・・ちょっと、面白かったかもー」
時間にして、五分四十五秒。紅葉は、男たち三人を倒し、一之瀬と十六夜の目の前に立つ。
「いやはや。お見事。道具を使ってはいけない、とは私も言わなかったからね・・・・・・」
一之瀬が「やれやれ」といった顔で、紅葉に向けて拍手をする。十六夜も、苦笑い。
「・・・・・・んぬっふっふっふぅ。実に素晴らしい。元気なべっぴんさんだぁねぇー」
その時、部屋のドアが開き、ゆっくりと革靴の音を響かせて、男と女が入ってきた。




