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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第四幕  ガブーンバイパー社、紅葉を試す
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三十二・社長の名は、五所ヶ原旭

三十二・社長の名は、五所ヶ原旭



「社長、例の件に関連し、独自に私の方で、常盤紅葉の周辺も、調査してみました」

「・・・・・・。・・・・・・。ほぅ。それで?」


 高級な黒い牛革製の椅子に座り、銀色のモデルガンらしきものを布で拭いている男。

 それは、ガブーンバイパー社の社長、五所ヶ原旭(ごしょがわらあさひ)

 その前にある大きな黒檀のテーブルに、秘書の二瓶(にへい)音羽(おとわ)が数枚の資料とファイルを置く。


   ・・・・・・ぎしり  ぎしり  ぎしっ


 椅子を揺らし、五所ヶ原はその資料に目を通す。


「・・・・・・んぬっふっふっふ! これは、これはぁ! 一之瀬君から話は聞いていたが、なかなかの美形な子だねぇ。・・・・・・我が社の『仕事』を、しっかりやってくれそうかね?」


 五所ヶ原は、資料にある紅葉の写真を眺めながら、指で眼鏡を上げ、笑みを浮かべる。


「明日、十六夜が一之瀬専務とともに、その常盤紅葉に詳細説明をするため、こちらの第一応接室で会うとのことです」

「ぬっふっふ。・・・・・・そうかそうか。・・・・・・ルックスが良く、そして、なかなか腕が立つそうではないか。楽しみだぁね? んぬっふっふっふ!」

「常盤紅葉。・・・・・・彼女の母親は、今から二十三年前、県内で暗躍していた暴力組織の頭だった男との因縁が深く、その組織も潰したようです。・・・・・・間違いございません」


 二瓶は、さらっと前髪を手で払い、五所ヶ原に対し、不敵な笑みを見せる。

 社長室内にある大きな振り子時計が、ゆっくりと時を刻んでいる。


「ぬふっふふ! ・・・・・・忘れもせんよぉ。その、暴力組織で頭を張っていたという小僧を。このガブーンバイパー社が創設四年目の当時、ワシのこと知り、愚かな取引話を持ちかけてきた奴だ。・・・・・・その時ワシの金を奪い、それを元手に『デスアダー』という組織を作り上げたらしい。噂では、事故で死んだと聞いたが。・・・・・・二瓶君は、よく知らないかな?」


 五所ヶ原は、モデルガンを指でくるりと回し、銃口を二瓶に向けウインクする。


「私もその頃は、小学生でしたので、何とも・・・・・・。しかし、社長。たしか、当時、その者を撃ったとか言っておられましたよね? 警察、入りませんでした?」

「警察はごめんだ。うまくやったさ。・・・・・・んぬっふっふ! まぁー、ワシもまだ、四十代で若かった。ベトナムから仕入れたモデルガンで、バン、とね!」

「社長・・・・・・。モデルガンって、弾は飛ばないはず・・・・・・ですよね? うふふっ!」


 二瓶は、にやっと笑って直立のまま、五所ヶ原が向けた銃口を見つめる。


「二瓶君、ワシの趣味が、モデルガンの改造と知ってるくせに。んぬぅっふっふっふ!」

「うふふふっ。・・・・・・しかし、その者は、撃たれたのに生きてたんですか?」

「ワシの改造が甘く、威力が低くてね。小僧の頭を撃ったが、ゴキブリのようにしぶとく生きておったわ。金品を五千万円分ほど奪って、逃げおった。・・・・・・奴はその後、かなりの力を付けたようだが、ワシの前に姿を現さなかった。・・・・・・愚かな小僧だったよ」


 五所ヶ原は、モデルガンを再び布で拭きながら、資料にある紅葉の写真を眺めている。


「んぬっふっふ! 面白いではないか。常盤紅葉、非常に興味深い人材だ!」

「それで、社長。・・・・・・この常盤紅葉の腕を、我々もきちんと見た方が良いかと思います」

「そうだなぁ。・・・・・・面白い。二瓶君、腕の立つ者を、三人ほど、連れてきてくれ。その三人に、常盤紅葉をテストさせる。・・・・・・んぬっふっふっふ! どんな逸材かねぇ・・・・・・」


 機嫌良さそうに笑う五所ヶ原。二瓶は、タブレット端末をタッチし、人材照会をすぐに行った。


「・・・・・・見つかりました。我が社の人材バンクに登録している、この三人がよいかと」

「ぬっはははは! 面白い! 面白いぞぉ! よし、ワシがステージは用意してあげよう」


 二瓶は、タブレットを五所ヶ原に見せる。すると、両手をパンと叩き、五所ヶ原は髭を撫でながら笑う。そして、両耳から下がる、星型のイヤリングがきらりと光る。


「・・・・・・常盤紅葉か。・・・・・・ワシが、いい仕事を与えてやろうではないか。んぬふふふ!」


 社長室には、五所ヶ原の笑い声が、しばらく響き渡っていた。


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