三十一・わたくしと、ワタクシ
三十一・わたくしと、ワタクシ
「「「 ごちそうさまでした 」」」
紅葉と優璃は、キッチンで食器を洗う。小紅は、再びソファーで横になっている。
「そういえば・・・・・・。ねぇ、紅葉?」
「ん?」
「あんた、今日、優璃と穂花ちゃんを、助けたんだって?」
「は? なに? ・・・・・・優璃。大したことじゃねーのに、なんでママに・・・・・・」
「ゆりじゃないよ! ゆり、ママに言うの忘れちゃったー」
「水穂だよ。穂花ちゃんのママが、あたしに電話で教えてくれたの。・・・・・・紅葉? あんたさぁ、やっぱりあたしに似たんだねー・・・・・・」
小紅は、タオルケットを腰に掛け、テレビを見ながら紅葉に語る。
「ママになんか、似てねーっての! 認めてたまっかよ、そんなこと・・・・・・」
「穂花ちゃんが、紅葉のことかっこいいって言ってたんだってよ? ねぇ、優璃? 紅葉が助けてくれたとき、どんなだった?」
「えー? お姉ちゃん、ゆりとほのかちゃんが怖い人に絡まれてたら、颯爽と現れてあっという間にやっつけて、すごかった! さすがお姉ちゃん。昔から、喧嘩強いもんね!」
泡まみれで皿を洗う優璃が、紅葉の顔をのぞき込むように、にこっと笑う。紅葉は優璃から目を背けて、茶碗を洗いながら「うるさい」と呟く。
「あたしもねー・・・・・・。昔、紅葉と似たようなことしたなー。よくパパを助けてたけどね」
「勘違いしないでってば! アタシは別に、優璃を助けたんじゃなく、気にくわないやつらが目の前にいたから、ぶっとばしただけだ! あいつらが悪いんだかんな!」
「はいはい。そーだね。・・・・・・それで、あたしも昔さぁ・・・・・・」
「人の話を聞いてんのかよーっ! ・・・・・・あー、もう! これだから、ママはイラつく!」
テレビでは、健康食品をPRする女性タレントと、それを試食している女優が、さっきからずっとトークを続けている。紅葉と優璃も、洗い物をしながらテレビへ目を向けた。
「あ! ねぇ、ママ! この女優さん、知り合いなんでしょ? ゆり、ファンだよ!」
「え! う、うそだろ? だってこれ、三島華蓮っていう、栃木出身のスター女優だぞ!」
「うそじゃないよねー、ママ? 高校生のときに友達になったんだっけ?」
優璃は、洗い物を終え、手を拭いてインコの側に行く。
「華蓮、こんなにメジャーになっちゃって。・・・・・・昔さ、あたしの実家に、泊まり来たこともあったし、宇河宮にラーメン食べに行ったりしたし、なーんか、懐かしいな・・・・・・」
小紅は笑いながら、テレビを見ている。「マジか」と言って、洗う手が止まったままの紅葉。
「こっちのタレントも、最近よく出てるわねー。健康食品がヒットしたら、会社化して成功したなんて、すごいね。あたしも、店の花で何か新製品作ろうかなー?」
紅葉も洗い物を終え、手を拭いて、小紅の横へそのまま、どかりと座る。
「タレントで、健康食品会社の社長か。・・・・・・金持ってんだろうなー」
「まったくもう。なんであんたは、すぐに金の話をー」
「あ、いや・・・・・・。だって、芸能界の人だろ? フツーに金あんじゃん!」
「まぁ、華蓮は今、有名女優だし。この人、昔ね、那須野町の観光PR大使やってたのよ」
それを聞いて、インコを指でかまっている優璃が、テレビへ目を向けた。
「へー。三島華蓮って、もともとすごかったんだー?」
「でもまさか、それがきっかけで、一気に芸能界に行っちゃうなんてねー。人生、どこでどう転機が訪れるかなんて、わかんないものよね? 何が良くて何が悪いかなんて、あたしたちには知る由もないね。運命って、どっちにも揺れ動く振り子のようなものね・・・・・・」
母子三人は、テレビ画面を見つめている。
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「ホーホホホ。ウフフゥ! どーぉ? カレン・ミシマさん! ワタクシの開発したラベンダーのフレグランスクッキーはぁ? ウフフフゥ! アハハハァ!」
「さすがね、ミランダ野沢シーナと言えば、ラベンダー印だね! わたくしも、このクッキー、気分転換の時に食べているんだけど。ほんと、いい香り!」
「アハハハァ! さすが大女優、カレン・ミシマ! いいモノが、きちんとわかってるじゃないの! もっと、ワタクシの製品、使ってねぇん? ウフフフゥ!」
「わたくしのタオル、これもミランダさんの会社で作ったものでしょう?」
「オーホホホ! よろしくてよぉん! いかにも! ラベンダー印のタオルねぇん!」
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「なんか・・・・・・濃すぎるやつらだな。アタシ、このミランダ野沢シーナって苦手だ・・・・・・。しっかし二人とも、わたくしわたくしって、うるせーよ・・・・・・」
紅葉は、ソファーから立ち上がり、カウンターに置いてある自分のバッグから十六夜の名刺をまた取り出し、見つめている。
「(でも、きっと、芸能関係の会社なら、いい仕事くれんだろ? 何をやるんかな?)」
「そういえば、ママ。・・・・・・ゆりさぁ、やっぱり進路、柏沼から変えない!」
優璃が今度は小紅の隣へ座り、進路の話を持ち出した。
「柏沼東のが、ママは良いと思うけど。・・・・・・じゃあ、もっと頑張らなきゃね?」
「うん! ゆり、頑張るから! ママやパパの出た学校も入りたいし・・・・・・」
「も? も、って何よ? 他にも、何か希望理由あるのねー? なぁにかなー?」
小紅は、にやっと笑って、優璃の目を見ている。優璃は、さっと目を逸らす。
「そういえば、紅葉。あんた、バイトもいいけど、そろそろ本当に、就職すんのか進学すんのか決めなよ? パパが帰ってきたら、きちんと三人で話の場、作るからね? いい?」
「・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・わかったよ。・・・・・・。・・・・・・アタシ、先に風呂入っかんな?」
紅葉は、小紅の目を黙って見つめ、数秒後に返事をした。そして、そのまま風呂場へ行ってしまった。
優璃と小紅は、そのまま他愛もない話をしながら、リビングで過ごしていた。




