二十四・有限会社ミズサキ
二十四・有限会社ミズサキ
バルルルルンーッ・・・・・・
バルルン ・・・・・・キイッ
「・・・・・・ここが、玄桐んち? ・・・・・・ふぅん? 初めて来たな、こっちの方は・・・・・・」
県南の下野町との市町境である、南宇河宮地区。そこの町外れにある小さな家の前に、玄桐はスクーターを止めた。紅葉はシートから降り、その家を下から上までゆっくりと見渡す。
錆びた波板トタンの壁に、銅葺きの屋根。小さな町工場が隣接した、バラックのような家。工場の入口には、赤茶色に錆び付いた看板が傾き、「有限会社ミズサキ」と書かれている。
「(なんだ? だいじかよ、玄桐んち・・・・・・。ぼろっぼろじゃんか・・・・・・)」
顔が引きつる、紅葉。玄桐はスクーターを工場の中へ入れ、灰色のカバーを掛けている。
・・・・・・ガタンガタタッ ガララララー
「(ん? 誰? ・・・・・・玄桐の、親かな?)」
屋根を見上げていた紅葉の前で、歪んだ引き戸が横に開いた。
その奥から、丸眼鏡をかけた髪の薄い中年男性が、スパナとマイナスドライバーを持って出てきた。作業服は油で汚れ、顔には黒い煤がついている。
それは、玄桐の父親である、水崎信治だった。
「誰だや? 可愛い女っ子だなー? うちに、用け?」
「あ・・・・・・。いや、その、初めまして。アタシ、常盤紅葉って言います・・・・・・」
「ときわぁー? ・・・・・・あー。玄桐がよく話してる、美人な彼女か。よぉく来てくれた!」
「え! はぁ!? 彼女ぉ!!? ・・・・・・いや、ちょっと、待って下さいよ! アタシはね・・・・・・」
わけがわからないといった表情の紅葉。しどろもどろで、混乱している。
「あ! おやじぃ! いーから仕事してろって! 紅葉。 さぁ、手当てを・・・・・・」
・・・・・・ぐういっ
玄桐の胸ぐらを掴んで引き寄せる、紅葉。目尻をぴくぴくさせ、小声で玄桐を問いただす。
「(おい、玄桐ぉ・・・・・・。アタシがいつ、お前の彼女になったんだよぉ! お前ー・・・・・・)」
「(い、いたた! 紅葉ぁ。調子に乗ってすいません! 悪気はないんだ、本当に!)」
「(お前なぁ! 『調子に乗ってすいません 悪気はないんだ、本当に』だと? そんな、防犯コンクールの標語みてーなこと言って、何をふざけて・・・・・・)」
「(ふ、ふざけてないっす! ごめんごめん! マジでごめんっ、紅葉ー)」
紅葉は、じたばたと取り繕う玄桐を、掴んだままじっと睨んでいる。
「ははは。仲がいいんだなや、お前らー。・・・・・・中へ入れー? ま、お茶でも飲むべや?」
「お、おやじぃ・・・・・・。どう見たらこれが、仲良さそうに・・・・・・」
信治は、にこにこと笑って、中で紅葉へ向かって手招きをしている。
「ちょっと、話があんだ。・・・・・・うち、終わりかもしんね・・・・・・。ふぅー・・・・・・」
「「 え? な、何っ? 」」
紅葉と玄桐は、顔を見合わせ、目をぱちくりさせる。信治は、深い溜め息を同時についた。




