十四・母の高校時代は・・・・・・
十四・母の高校時代は・・・・・・
ぱく もぐもぐ
ぱくぱく もぐもぐもぐ・・・・・・
「んーっ! 美味しいよ、ママ! このインド風肉じゃが、うちの新メニューにしてよー」
「ほんと。偶然の産物だけど、美味しくできてよかった! お魚もいっぱい食べなよ?」
「うん! じゃあ、次はお魚を! こりゃ・・・・・・ニシンだね? ・・・・・・んー。美味しいー」
「ほんと優璃は、よく食べるのね? あたしが中三の頃より、健康的だねー」
小紅は優璃と二人でキッチンテーブルを挟み、食事中。
にこにこと満面の笑みで、母の手料理を食べる優璃。その笑顔を見ながら、小紅は頬に手を当てながら、ふふっと笑う。
リビングの奥にある鳥かごの中では、インコがプチプチと音を立て、エサを啄んでいる。
「・・・・・・ごちそうさまでしたぁーっ! あー、美味しかった! ママ、ゆりも手伝うよ」
「ありがと! じゃあ、お皿重ねて、シンクにひやしといて((浸しといて))くれる?」
「はぁーい。・・・・・・ふんふんふふーん。ふんふふふーん・・・・・・」
優璃の結い髪が、ぴょこぴょこと揺れる。鼻歌を歌いながら、食器を重ねる優璃。
・・・・・・ぱつんっ ころころんっ
「あ! えぇー? ママ、髪留めが壊れちゃったっぽいー。やだー」
突如、優璃の髪留めが壊れてしまった。紅色の丸い球が、ころころとテーブルに転がる。
「あら! 優璃、ちょっと貸して? ・・・・・・ああ、ピンのところが弱ってたのねー」
「なおる? ゆり、その髪留め昔から気に入ってるの。すごく大事にしてるのにー」
「直るよ。だいじ! 夕飯の後、直してあげるから。・・・・・・そっか。気に入ってるのね!」
「気づいた時には、もう、それ使ってたし。お姉ちゃんのも、同じやつだよね?」
「そうよー。・・・・・・これはね、もう、二十五年くらい前のものなんだよ?」
小紅は、優璃の髪留めを掌に乗せ、じっと見つめている。優璃は、指で梳くようにして、髪を直している。
「そんなに古いの! 丸い球、ぴかぴかしてるから、そこまでだと思わなかったぁー」
「ピンの部分は、何度も直してるんだけどねー。紅珊瑚の髪留め。これはね、ずっと昔、あたしが使ってたやつなのよ? 紅葉と優璃が生まれたあと、二人にそれぞれ譲ったの」
紅色の球を指でつまんで、小紅は天井のライトにかざした。
磨かれた紅珊瑚の艶やかな表面が、ライトの明かりをきらりと反射させ、煌めく。
「ママのやつだったんだぁ! ゆり、普通に知らなかったぁー。しかも、紅珊瑚!」
「そっ! 紅珊瑚。きれいでしょー? あたし、昔はこの髪留めを二つつけて、優璃みたいな結い方をしてたのよ。ちょこんと頭の上で、二つに結ってねー」
「へー。・・・・・・あ! そうだぁ!」
優璃は席を立ち、リビングにある小さな書架から何かを取り出し、テーブルに持ってきた。
「なに? ・・・・・・あー・・・・・・」
「えへへ! ママの、卒業アルバムっ! これでわかるかなぁー」
「ひっさびさに開くなぁ、これ。・・・・・・しばらく見てなかったわ」
クリムゾンレッドの厚表紙でできた、卒業アルバム。「栃木県立柏沼高等学校」と表紙に金色の行書体で表記されたそれを、優璃と小紅は、キッチンテーブルでゆっくりと開いてゆく。
「えーと。・・・・・・ママのクラスはー・・・・・・。常盤・・・・・・常盤、と・・・・・・」
「三組だよ。・・・・・・ほら、いるじゃん。あー、なんか、いま見ると恥ずかしいかもー」
「ほんとだ! いたー。・・・・・・そっか。結婚前の名字だもんね。常盤じゃなかったねぇ」
「旧姓は早乙女・・・・・・。もう、常盤の姓になってから、再来年で二十年だもんなぁー」
「そういえばゲンじーちゃんも、名字は早乙女だねー。へー、早乙女小紅・・・・・・。なんか、ゆり、しっくりこなーい。ママは、常盤小紅だもーん。・・・・・・あ、この髪留めかぁ!」
「ね? これと同じのを使って、二つ結ってるでしょ? 懐かしい髪形だな、これ・・・・・・」
優璃は、小紅の掌にある髪留めとアルバムの写真を何度も見比べている。
「本当だね! こっちがゆりのかな? それとも、お姉ちゃんのかな? へー。歴史を感じますなぁ。ふむふむ。この高校生の頃のママから、今はお姉ちゃんとゆりにねー・・・・・・」
「これはねー、あんたたちのじーちゃんとばーちゃんにあたる、あたしの両親が亡くなる直前にくれたんだよ。だから、あたしもずっと大切にしてきたの。親の形見なんだもの」
「そうだったんだ。いろんな歴史が詰まった髪留めなんだね。・・・・・・パパは何組にいる?」
「一組。見てごらん?」
「えっとぉ? ・・・・・・あ、いた! えー。若っ! でも、よーく見るとパパもママも、今と高校時代とでそれほど変わらないね? 二人とも、若々しい顔立ちなんだよ。きっとね」
「あら、そーぉ? 優璃、嬉しいこと言ってくれるねー」
「あ! このページは、運動会? わぁお。ママが運動着姿で写ってる! リレーじゃん! 高校生のママはゆりと違って、目がキリッとしててかっこいいなー。お姉ちゃんみたい」
「あんたはパパに似たのよねー。・・・・・・高校生のあたしと紅葉、確かに似てるわね」
「でしょーっ? お姉ちゃんの方がやや、目が細いかな? でも、ママとよく似てるよー」
小紅はアルバムに顔を寄せ、昔の自分の姿をまじまじと見つめる。
優璃は自分のスマートフォンをタップし、姉とのツーショット画像を開き、アルバムの横に並べた。昔の自分と今の紅葉の顔を見比べ、間を置いてから、小紅はくすっと笑った。
「あ! そう言えばママやパパの部活写真は? どこどこ? 見よう!」
「パパは英語部。ほら。外国人の先生と写ってるでしょ? 英語、よく勉強してたのよー」
「ほんとだ。昔からパパ、英語得意だったんだ! ・・・・・・あ! ママは、空手だぁ!」
「道着姿のあたしか。今は変な感じね。いろいろな意味で気合い入ってて元気だったなー」
「ママ、かっこいいし強そうっ! だからお姉ちゃんも喧嘩強いのかな? ゆりは無理ー」
「そうねぇ。紅葉はやっぱり、あたし似か。優璃は、優しさが持ち味だからいいのよ?」
「へー。ママたちの卒アル、こんなにじっくり見たのは初めてかもー。おもしろーい!」
小紅と優璃は、二人で笑う。母娘は時が経つのも忘れ、アルバムを見ながら歓談し続けた。




