表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振り子  作者: 糸東 甚九郎
第二幕  紅葉と優璃。紅色の髪留め姉妹
14/211

十四・母の高校時代は・・・・・・

十四・母の高校時代は・・・・・・



   ぱく  もぐもぐ

   ぱくぱく  もぐもぐもぐ・・・・・・


「んーっ! 美味しいよ、ママ! このインド風肉じゃが、うちの新メニューにしてよー」

「ほんと。偶然の産物だけど、美味しくできてよかった! お魚もいっぱい食べなよ?」

「うん! じゃあ、次はお魚を! こりゃ・・・・・・ニシンだね? ・・・・・・んー。美味しいー」

「ほんと優璃は、よく食べるのね? あたしが中三の頃より、健康的だねー」


 小紅は優璃と二人でキッチンテーブルを挟み、食事中。

 にこにこと満面の笑みで、母の手料理を食べる優璃。その笑顔を見ながら、小紅は頬に手を当てながら、ふふっと笑う。

 リビングの奥にある鳥かごの中では、インコがプチプチと音を立て、エサを啄んでいる。


「・・・・・・ごちそうさまでしたぁーっ! あー、美味しかった! ママ、ゆりも手伝うよ」

「ありがと! じゃあ、お皿重ねて、シンクにひやしといて((浸しといて))くれる?」

「はぁーい。・・・・・・ふんふんふふーん。ふんふふふーん・・・・・・」


 優璃の結い髪が、ぴょこぴょこと揺れる。鼻歌を歌いながら、食器を重ねる優璃。


   ・・・・・・ぱつんっ  ころころんっ


「あ! えぇー? ママ、髪留めが壊れちゃったっぽいー。やだー」


 突如、優璃の髪留めが壊れてしまった。紅色の丸い球が、ころころとテーブルに転がる。


「あら! 優璃、ちょっと貸して? ・・・・・・ああ、ピンのところが弱ってたのねー」

「なおる? ゆり、その髪留め昔から気に入ってるの。すごく大事にしてるのにー」

「直るよ。だいじ! 夕飯の後、直してあげるから。・・・・・・そっか。気に入ってるのね!」

「気づいた時には、もう、それ使ってたし。お姉ちゃんのも、同じやつだよね?」

「そうよー。・・・・・・これはね、もう、二十五年くらい前のものなんだよ?」


 小紅は、優璃の髪留めを掌に乗せ、じっと見つめている。優璃は、指で梳くようにして、髪を直している。


「そんなに古いの! 丸い球、ぴかぴかしてるから、そこまでだと思わなかったぁー」

「ピンの部分は、何度も直してるんだけどねー。紅珊瑚の髪留め。これはね、ずっと昔、あたしが使ってたやつなのよ? 紅葉と優璃が生まれたあと、二人にそれぞれ譲ったの」


 紅色の球を指でつまんで、小紅は天井のライトにかざした。

 磨かれた紅珊瑚の艶やかな表面が、ライトの明かりをきらりと反射させ、煌めく。


「ママのやつだったんだぁ! ゆり、普通に知らなかったぁー。しかも、紅珊瑚!」

「そっ! 紅珊瑚。きれいでしょー? あたし、昔はこの髪留めを二つつけて、優璃みたいな結い方をしてたのよ。ちょこんと頭の上で、二つに結ってねー」

「へー。・・・・・・あ! そうだぁ!」


 優璃は席を立ち、リビングにある小さな書架から何かを取り出し、テーブルに持ってきた。


「なに? ・・・・・・あー・・・・・・」

「えへへ! ママの、卒業アルバムっ! これでわかるかなぁー」

「ひっさびさに開くなぁ、これ。・・・・・・しばらく見てなかったわ」


 クリムゾンレッドの厚表紙でできた、卒業アルバム。「栃木県立柏沼高等学校」と表紙に金色の行書体で表記されたそれを、優璃と小紅は、キッチンテーブルでゆっくりと開いてゆく。


「えーと。・・・・・・ママのクラスはー・・・・・・。常盤・・・・・・常盤、と・・・・・・」

「三組だよ。・・・・・・ほら、いるじゃん。あー、なんか、いま見ると恥ずかしいかもー」

「ほんとだ! いたー。・・・・・・そっか。結婚前の名字だもんね。常盤じゃなかったねぇ」

「旧姓は早乙女・・・・・・。もう、常盤の姓になってから、再来年で二十年だもんなぁー」

「そういえばゲンじーちゃんも、名字は早乙女だねー。へー、早乙女小紅・・・・・・。なんか、ゆり、しっくりこなーい。ママは、常盤小紅だもーん。・・・・・・あ、この髪留めかぁ!」

「ね? これと同じのを使って、二つ結ってるでしょ? 懐かしい髪形だな、これ・・・・・・」


 優璃は、小紅の掌にある髪留めとアルバムの写真を何度も見比べている。


「本当だね! こっちがゆりのかな? それとも、お姉ちゃんのかな? へー。歴史を感じますなぁ。ふむふむ。この高校生の頃のママから、今はお姉ちゃんとゆりにねー・・・・・・」

「これはねー、あんたたちのじーちゃんとばーちゃんにあたる、あたしの両親が亡くなる直前にくれたんだよ。だから、あたしもずっと大切にしてきたの。親の形見なんだもの」

「そうだったんだ。いろんな歴史が詰まった髪留めなんだね。・・・・・・パパは何組にいる?」

「一組。見てごらん?」

「えっとぉ? ・・・・・・あ、いた! えー。若っ! でも、よーく見るとパパもママも、今と高校時代とでそれほど変わらないね? 二人とも、若々しい顔立ちなんだよ。きっとね」

「あら、そーぉ? 優璃、嬉しいこと言ってくれるねー」

「あ! このページは、運動会? わぁお。ママが運動着姿で写ってる! リレーじゃん! 高校生のママはゆりと違って、目がキリッとしててかっこいいなー。お姉ちゃんみたい」

「あんたはパパに似たのよねー。・・・・・・高校生のあたしと紅葉、確かに似てるわね」

「でしょーっ? お姉ちゃんの方がやや、目が細いかな? でも、ママとよく似てるよー」


 小紅はアルバムに顔を寄せ、昔の自分の姿をまじまじと見つめる。

 優璃は自分のスマートフォンをタップし、姉とのツーショット画像を開き、アルバムの横に並べた。昔の自分と今の紅葉の顔を見比べ、間を置いてから、小紅はくすっと笑った。


「あ! そう言えばママやパパの部活写真は? どこどこ? 見よう!」

「パパは英語部。ほら。外国人の先生と写ってるでしょ? 英語、よく勉強してたのよー」

「ほんとだ。昔からパパ、英語得意だったんだ! ・・・・・・あ! ママは、空手だぁ!」

「道着姿のあたしか。今は変な感じね。いろいろな意味で気合い入ってて元気だったなー」

「ママ、かっこいいし強そうっ! だからお姉ちゃんも喧嘩強いのかな? ゆりは無理ー」

「そうねぇ。紅葉はやっぱり、あたし似か。優璃は、優しさが持ち味だからいいのよ?」

「へー。ママたちの卒アル、こんなにじっくり見たのは初めてかもー。おもしろーい!」


 小紅と優璃は、二人で笑う。母娘は時が経つのも忘れ、アルバムを見ながら歓談し続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『清掃人』の時に小紅がつけてた髪留めは、娘二人に受け継がれていたのですね! 長女の紅葉は、気の強さや格闘センスをそのまま小紅から受け継いでる感じがしますが、次女はなんだか、ほのぼのとした普…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ