十一・紅珊瑚の髪留め
十一・紅珊瑚の髪留め
トントントントン・・・・・・ サクサクッ
ぱさり じゅー じゅわぁぁぁ
キッチンのコンロから、鼻をくすぐるスパイシーな香りが漂う。
リビングでは、優璃が教科書とノートを開き、受験用の課題をしている。
「・・・・・・ママー。今日、カレー? ん? なんだこりゃ? カレーじゃないのかな?」
優璃は、ペンを動かしながら、鼻をぴくんとさせる。
「なんか、よくわかんないものになっちゃった。インド風の肉じゃが、かな?」
「へー。いいんじゃない? ゆり、ママの料理大好きだよぉー。ママ、料理上手だもん」
「そう言ってくれると、嬉しいな。あたし、高校生までは、ぜーんぜん料理なんかできなかったのよー? ほとんど作れなかったなー」
「えー? それは本当に、意外ーっ! 今、こんなに上手なのにー?」
「いつも、じーちゃんがメインは作ってたの。あたしは、ごはんを炊くのと、味噌汁だけ」
「へー。ママにも、そんな頃が。ゆりは、卵焼きしか作れないなー。ゲンじーちゃん、お料理上手だったんでしょ?」
「そうね。あたしが優璃の歳の頃や、紅葉の歳の頃、部屋に閉じこもったことがあってさ。じーちゃんが、部屋の前にご飯作って置いといてくれたりもしたんだよー?」
小紅は、何かを思い出したようにふっと微笑みながら、菜箸で鍋の中をかき混ぜている。
「あたし、じーちゃんの得意料理も二十歳の時に受け継いだのよー? それはね・・・・・・」
「え? ゲンじーちゃんの得意料理だからー・・・・・・それって・・・・・・」
優璃はキッチンにいる小紅と目を合わせ、にっこりと微笑み、母娘で一緒に口を開く。
「「 茶碗蒸し! 」」
「当たり! じーちゃん直伝の茶碗蒸し、あとで、優璃にも教えるから!」
「やったぁ! ママ、ゆりもね、お料理いろいろ覚えたいんだ! たくさんいろんな種類作れるようになって、美味しいって言ってもらいたいんだー」
優璃は、にこにこしながら、再び課題へ取りかかる。
小紅は、にやっと笑って「誰に?」と優璃に問う。すると優璃は、慌てて「みんなだよ」と答えた。
じゅー じゅーわわわわ・・・・・・ ごとん
「よし、オッケー。これで、夕飯はバッチリ、と!」
「ゆりも、終わったぁ。あー、疲れた。お腹も空いたー」
優璃は、紅色の丸い髪留めで結った髪を、ちょこんと揺らし、ソファーに寝転んだ。
小紅は、寝転んだ優璃の頭に光る髪留めを見つめながら、大皿に料理を盛りつける。
「(紅葉も優璃も、いつの間にかこんな年齢になったんだね。紅珊瑚の髪留め、か・・・・・・)」
物思いにふけったような目で、小紅は天の川が描かれたカレンダーを見つめている。
優璃はそのまま、ソファーに横たわり、あっという間に寝てしまった。




