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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第十一幕  静かに始まる、三十五億の争奪戦
101/211

百一・とんでもない隠し金だ

百一・とんでもない隠し金だ



 ―――。


「さっ、さんじゅう・・・・・・ごおくっ? マジかよ・・・・・・っ!」

「ふんふーん。そうだ。その百分の一、つまりは一パーセントをあげてもいいんだよ?」

「(あ、ありえねーっ! 三十五億の一パーセントって、三千五百万だぞ! 嘘だろ!)」

「信じてないね? まぁ、やらないんだから、どーでもいい話だよね。ふんふふーん」

「信じるわけねーじゃん。だいたい、ガブーンバイパー社っちゃ、そうやって怪しいことばっかり裏でやってるんだろ! 麻薬とかで得た、裏金とかかよ?」

「ふんふふーん。まぁ、裏金というより、五所ヶ原社長の隠し金、かなぁ? 今はね?」

「今は?」

「もとは、違ったのさ。・・・・・・キミとも、全く無関係とは言えない金だよ?」

「は? 言ってる意味がわかんねーよ。アタシ、三十五万円はバカ狩りで得たことはあっても、三十五億円なんかには、まったく関わりは無いよ!」

「ふんふーん。・・・・・・まぁ、キミは直接は知らないだろうけど、あれは、ある集団の親玉が持っていたものだ」

「集団の親玉? なんだよ、他人様の金をぶんどって隠してんのかよ!」

「違うね。ガブーンバイパー社が、発掘したんだ。大矢採石場跡地からねー。オレが、五所ヶ原社長へ、こっそり匿名で報せてね。それで見つかった金だよ」

「大矢採石場? なんでそんなところに、そんな超大金があったんだよ?」

「ふんふふーん。キミは、母親から、あの場所の昔話を聞いてないのかな?」

「え? ・・・・・・待てよ? 大矢採石場の話・・・・・・。ママが言ってた・・・・・・?」

「キミの母親は、あの場所に金があったことは知らないにしても、忘れられない場所だろうからねー。・・・・・・今日、二十数年ぶりに、あの目を見たよ・・・・・・」

「まさか! 三十五億円って、デスアダーってやつらの金かよ! 何でそんなものを!」

「ふふふーん! ご名答! 厳密には、毒島仁英の持ってた金だがね。それを今、ガブーンバイパー社の地下庫に保管してるんだ。そいつを運び出す仕事ってことだよ、さっきの話はね。・・・・・・早乙女小紅がかつて潰したデスアダーの金。無関係じゃないだろ?」

「バ、バカ言ってんじゃねぇよ! デスアダーって、ママたちをひでぇ目に遭わせたやつらだ! しかも、アタシや優璃のじーちゃんやばーちゃんも、殺したってやつらだ! そんなやつらの金に、アタシが関わるわけねーだろうが! ふっざけんなよ!」

「ふんふふーん。良い返事を期待したんだけどね。仕方ない。トチベリー25のメンバーにでも、やらせてみるかな? 『海外公演』直前の、大きな荷物運びだ。ふふふーん」

「は? なんでトチベリー25のメンバーを、それに巻き込むんだよ?」

「ふふんふふーん。・・・・・・あの子たちは、捨て駒だからね?」

「す、捨て駒? 何言ってんだお前! てか、やっぱり変なこと企んでやがったな!」

「あんなの、適当に探せばいくらでもいるしね。大麻で判断力も弛み、良い頃合いさ」

「・・・・・・お、お前。野上アンは気にくわねーけど、そりゃ、いくら何でもひでぇよ!」

「ふふーん。怒るのかい、常盤紅葉? あんなに、野上に嫌がらせを受けたのに?」

「それとこれとは、話が別だ! あいつら、お前や一之瀬暁とかを、信じ切ってんぞ! なのに、実際は捨て駒なんて・・・・・・」

「知ったこっちゃないね。・・・・・・副社長がその金を社長から奪うためには、捨て駒じゃなきゃダメだからね? それが終われば、東南アジアに売り飛ばすかもしれないねー?」

「う、売り飛ばす? その副社長ってのも、とんでもねー野郎だな!」

「実際、指示するのは副社長ではないけどね? ただ、運ぶだけ。簡単な仕事だろ?」

「アタシは、そんな裏仕事やらないから! 十六夜岳! 社長の五所ヶ原に言っとけ! ガブーンバイパー社の正体、アタシが曝してやるからってな! 覚悟しとけよな!」

「ふんふふふーん。いいぜ? でも、社長はおっかないよー? それでもいいのかな?」

「うるっせぇよ! こんな会社がのさばってたら、ヤバいことだらけになっちまうよ! じゃあな! もう、ガブーンバイパー社でなんか、働かねーよ!」

「ふふーん。そうかい。・・・・・・お気をつけて、常盤紅葉。くれぐれも、ねー・・・・・・」


 ―――。


「・・・・・・ってわけ! ・・・・・・そうだ! この話を、華蓮さんにも教えねーと・・・・・・って、なんだ? 玄桐から着信とメッセージ? ・・・・・・いいや! そんなのあとだ!」


 紅葉が話し終えると、優太と小紅は表情が険しくなり、奥歯をぎゅっと噛み締めていた。


「あれから二十年以上経ってるのに・・・・・・。今更デスアダー絡みのことに、娘が・・・・・・」

「と、とりあえずさ、紅葉のバイトがこの二日間だけで終わって良かったね!」

「・・・・・・そうね。・・・・・・ガブーンバイパー社の、十六夜岳? いったい誰よ。あたしの目を二十三年ぶりに見た? ・・・・・・そんなやつ知らない。裏で何が動いてるっていうのよ!?」


 紅葉は、後部座席で親指を高速で動かし、華蓮にメッセージを打っている。


「頼むーっ! 華蓮さん・・・・・・見てくれるといいんだけどな・・・・・・」


   ――― くれは  《 華蓮さん、ガブーンバイパー社の裏面、ほんとヤバい! 》


 タップしてメッセージを送り終えると、しばらくして、華蓮から返事が来た。


   ・・・・・・ピロンッ♪


「あ! き、来た!」


   ――― 華蓮さん 《 何か、危ないことや、怪しいことがあったのね? 》

   ――― くれは  《 トチベリー25は、大麻やってます!》

   ――― 華蓮さん 《 やっぱり! そんな噂があったのよ! ありがと! 》

   ――― くれは  《 あと、トチベリー25を東南アジアに売り飛ばすって 》

   ――― 華蓮さん 《 え! 何それ! 人身売買ってこと? 》

   ――― くれは  《 よくわかりませんが、三十五億円を運び出すのを・・・・・・ 》


 華蓮とメッセージを続ける紅葉。必死に、スマートフォンを見ながら、文字を打ち込む。


「・・・・・・あたしの娘を、ひどいことに巻き込もうとして! まったくもう、許せないね!」

「ママ、落ち着いて? とりあえず今日は、家でゆっくり休もうよ」


 優太は、ピリピリと緊張感を漂わせた小紅と紅葉を乗せ、家に向かってアクセルを踏んだ。


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