一・紅色毛先のポニーテール
一・紅色毛先のポニーテール
タタタタタタッ・・・・・・
ドダダダダダダッ・・・・・・
「ふぅ・・・・・・はぁ・・・・・・。なんで、あんなにいっぱい・・・・・・」
「おい、どこだあいつ! お前、あっち探せ! どっちいきやがった!」
「オラァーッ! 隠れてんじゃねぇ! どこだコラァ! どこ行ったぁ!」
タタタタタタッ・・・・・・
タタタタタタッ・・・・・・
夜の繁華街に響き渡る怒声。
闇に紛れるようにして、ひとつの影が駆け抜ける。
「ふぅ・・・・・・ふぅ・・・・・・。へへっ!」
濃いグレーのブレザーに、つんと尖って逆立った髪を碧色に染めた一人の少年。
黒いエナメル製のバッグを抱え、ビルの間の路地に駆け込んで、少年はこっそり身を屈めた。
「やったぜ・・・・・・。チンピラごときが、おいらに追いつけるわけねーよ! へへっ!」
少年はバッグを開けるとその中には、一万円札が二十枚以上。そして高級そうな貴金属や、煌びやかに光るクレジットカードのようなものもたくさん入っている。
「いやったぁ! これで、新しいスマホ買えんじゃん! ははははーっ!」
少年は、札束を見つめながら、夢中になって笑っている。
・・・・・・ざざざっ
・・・・・・ざざざっ
・・・・・・ざざあっ
「はははは・・・・・・は?」
路地の左右から、少年をぎらりと睨みつける男たちが三人ずつ、歩み寄ってきた。
「あ、あわわ・・・・・・。や、やっべぇー・・・・・・」
その中でも際立って目つきの鋭い、二の腕まで極彩色の刺青を入れた短髪の男が、少年に向かって力強い足音を立てながら、一歩、また一歩と近づく。
「おぅ、見つけたぞクソガキ! てめぇ、ふざけたマネしやがって!」
「う、うわー。こえぇー・・・・・・。ひ、人違いっすよ」
「じゃあ、そのバッグ、てめぇのか?」
「あ、いや、まぁ。・・・・・・そうっすね」
・・・・・・しゅっ ぼごおっ
男は少年に詰め寄り、胸ぐらを掴んで腹へ強烈なパンチを叩き込んだ。
少年は、胃液を吐いて悶絶。その場にどさりと倒れ、そして亀のように丸まった。
「「「「「 オラアァ! クルァァァッッ! オラァ! 」」」」」
他の男たちも、一斉に少年を踏みつけたり蹴ったりの集中砲火。
「ぐあ・・・・・・。や、やべぇー。・・・・・・おいら、死んじまうーっ! 金がーっ!」
・・・・・・かつっ かつっ かつっ
少年が痛めつけられている横で、足音が響いてくる。
・・・・・・ちょんちょん!
刺青の男の背中を、誰かがつつく。
それは、ふさっとした黒髪を束ね、先端を紅色に染めたポニーテールを靡かせた少女。
「・・・・・・ん? なんだぁ、おめー?」
「おい、どうした? なんだ、そいつ?」
その少女は、細い眉に一重瞼でぱっちりした目。黒い服に、濃紺のミニスカートと黒ブーツの姿。
「いや、知らねぇ女だ。・・・・・・なんでもねぇよ。とっととそのガキ、やっちまえや!」
他の男たち五人は、再び少年をいたぶる。少女はそれを気にせず、にっこり微笑む。
「ねーぇ、おにいさぁん? アタシのアレと、遊んでーぇ? ねぇ、あーそーぼぉー?」
少女は、色仕掛けをするかのような甘い声で、刺青の男の首を、ゆっくり指でなぞる。
「なんだ? アレ、って・・・・・・おめー、欲求不満かよ? なら、ホテルにでも・・・・・・」
・・・・・・ゴギャッ! グシャッ!
「が! ふんぐ! あ、あうぅおぉぉ・・・・・・。ぬぅぉぉぉぉ・・・・・・」
突然、ジャガイモを石で潰したような鈍い音が響き、刺青の男は身体をくの字に曲げ、うずくまった。両手で股間を押さえながら、男は内股気味に腰を下げていく。
「なっさけねぇのー。アタシの膝が遊びたがってたんだよ。スケベ野郎の股間とね!」
少女は、先程とはまるで違う刃物のような目で、男の髪を引っ張り上げ、その顔に強烈な頭突きを一発。続けて、股間に膝蹴りをもう一発。さらに、顎へ拳を一発。
・・・・・・グシャッ ゴツンッ!
グイッ ドガアッ! ベキッ!
刺青の男は、泡を吹いて失神。それを見た他の男が、一斉に少女へ飛びかかっていった。
「「「「 な、なんだてめぇ! なめんじゃねーぞっ! オラアァ! 」」」」
「あーらぁ? アタシとそんなに遊びたいんだ? じゃ、遠慮なく来な!」
少女は微笑んで、次々と男たちを迎え撃つ。胸ぐらを掴んで顎を殴りつけ、股を蹴り、鼻へ頭突きし、最後は全員の腹へ膝蹴りを一発ずつ見舞った。
その鬼のような容赦ない攻撃を浴びせられ、あっという間に男五人は倒れてしまった。
「話になんなーい。つまんねぇの。アタシを殴りたいなら、もうちっと腕磨けっての!」
少女は、呆れた顔で両手を上げる。その後ろで、よろよろと立ち上がろうとした一人の男を、顔色一つ変えず突き飛ばして壁に叩きつけ、再びダウンさせる。
「あ! こいつら、いい財布もってんじゃん! ラッキー。小遣いゲーット!」
少女はケラケラ笑って、男たちのポケットから財布を抜き、紙幣だけ取って残りは放り投げた。
少年は、その少女に、持っているバッグを預ける。
「ははは! ・・・・・・く、紅葉ぁ。こっちも、数えてくれー・・・・・・」
「いち、にー、さん・・・・・・。計、三十五枚! 玄桐、三十五万だよーっ! きゃっほーっ」
少年に紅葉と呼ばれた少女。そのポニーテールの根元には、紅色の髪留めが一つ光っている。
紅葉は、にんまりと笑いながら、玄桐という少年の腕を引き、ぐいっと起こした。
「へへへ・・・・・・。紅葉、その金で、今から超高級なメシでも、いっちゃおーぜっ!」
「賛成ーっ! アタシ、超高級寿司がいい! ショボい寿司は、嫌だかんねっ?」
紅葉と玄桐は、肩を組んで、夜の街明かりの中へ繰り出していった。