人権は使いすぎると……減る!
わたしに向かって放たれた矢は、空中で静止した。
「ギエッ!!」
ゴブリンは突然けいれんを始め、胸を押さえて苦しみ出した!
「伝説の通りだ……」
「な、何が起こったわけ……?」
「人権のひとつ『生存権』じゃ……人間のもつチートスキルのひとつじゃ……これは不死身になり、絶対に致命傷を受けず、殺されることがない……」
「は? 不死身ってこと?!」
「バトルでは実質そうじゃ……人権の持ち主を倒せるのは、同じ人権の持ち主のみじゃ」
「じゃ、じゃあゴブリンが倒れたのは?!」
「おそらく心臓発作じゃろうな……」
じいさんは倒れたゴブリンを見やる。
「正当防衛という現象じゃ……。人権の持ち主に人権のない存在が危害を加えようとすると……死ぬ!」
「げえっ」
ヒノは恐る恐るという感じでゴブリンの死体をつつく。
名前:ゴブ山ゴブ蔵
種族:ゴブリン
好きな色:あおみどり
ステータス;死亡(享年5歳)
死因:心筋梗塞
本当に死んでる…
「つよっ……。不死身に物理反射ってこと?」
「そうじゃな」
「人権やばい……なんで、こんなに強い種族が滅亡してしまったの?!」
「セックスレスじゃ」
「は?!」
「人類文明はセックスレスで高齢化して滅んだ。生き残りはごく僅かじゃ」
とんがり耳たちがなんか話してるあいだ、わたしはヒノの手から流れ、はいはいを試みていた。なるべく臭くないエリアに移動しようと思ったのだ。動いてみると案外移動できた。
はいはいをがんばっているわたしの赤ちゃん視界に、ブーツが入り込む。
「おい新入り、気をつけな」
見上げると、赤い衣に身を包んだ女がわたしを見下ろしていた。こいつは耳がとがっていない。
「あ、あなたは……あなたも人間?!」
驚くヒノに女は答える。
「エルフ。少し黙ってくれ、私はこの『新入り』に言ってるんだ。いいか、新入り……」
女はわたしに言う。
「人権は使いすぎると……減る!」