泥ママ死亡! 死んだんだからしょうがない!
ヘリコプターを盗もうとしたら死んだ。
何を言ってるかわからないと思うが、わたしもわからない。盗癖があるわたしはいわゆる「泥ママ」だ。泥棒ママ。
盗む、そして母親である。
ゆえに「泥ママ」。
わたしの人生は毎回、中年期ぐらいまではそこそこ順調に行くのだが、結婚して子供が産まれたあたりでなぜか盗癖を発揮し、死ぬ。
死ぬのだ。
まるでYouTubeのスカッと動画のように……。
そして死ぬたびにこの謎の真っ白い空間にやってくる。何もない。部屋? 部屋というには壁も天井もない。まるでアニメの背景担当が全部バックレたような空間……。
「またあなたですか……」
目の前に光り輝く霊的存在が現れて言う。
「今度は何を盗んで死んだんです?」
「ヘリコプター」
「ヘリコプター? は?! ヘリコプター?!」
「ヘリコプターよ。ヘリを盗もうとしたらヘリのプロペラで全身ズタボロになって死んだの! 何か問題が?」
「問題は大ありでしょうが」
「何よアンタ。何者? 名を名乗りなさい」
「名前ですか……多すぎて名乗り切れませんが」
「姿ぐらい見せたらどうなの」
「姿? それも名前と同じぐらい多すぎて」
そう言うと、光り輝く霊的存在はさまざまな姿をとった。光り輝く巨乳の女神、猫の頭の男性、無数の触手の群れ、ずんだもん……。
「まあ、この姿にしますか」
そう言うと、彼は腰に白衣をまとった巻毛の痩せマッチョ美青年の姿になった。その肉体は油でてかてかと光り輝きオリーブオイルの匂いがする。
「わあイケメン! チ○コ触っていい?」
「触れるな無礼者!」
イケメンは一喝する。
「我はヘルメス、ゼウスとマイアの子にして、商人と旅行者、そして『盗人』の守護者である」
「はあ!?」
「ギリシア神話ぐらい知らんのか」
「あたし高校中退だし」
「まあいい。なんであれ、我が盗人たちの守護者である以上、貴様ら『泥ママ』の一族も我が庇護下にある。とはいえお前みたいなやつ、正直マジ困るんよな」
「はあ」
ヘルメスは空中から杖を取りだした。サイババかな? そして杖で空中に映像を投影。プロジェクターかなあ。
「これがお前の前世的なものだ」
映像内では知らない、しかしなぜか親近感を感じる女性が、競走馬を盗もうとして馬に蹴られて内臓破裂死していた。
「競走馬を盗もうとして馬に蹴られ死亡」
さらに別の映像が映される。
「前前世、自然公園で天然記念物を盗もうとして有毒ガスで死亡」
さらに別の映像。
「前前前世、米軍基地から軍需品を盗もうとして射殺。前前前前世、動物園からオウムを盗もうとして落下死。前前前前前世、呪われた宝石を盗んで病死。前前前前前前世、寺社から即身仏を盗んで転落死……」
「はあ?」
「もうわかったか?」
「わかんないわ」
「お前は信じられない盗人だ。馬の糞でも王の冠でも懐に入れずにはおかない! そしてお前はまた死んだ。生まれ変わってもまた盗人と化し、子を成したのち初めの盗みで死ぬだろう。……さて、どうする?」
その問いはわたしに対してではない。ヘルメスは誰もいない空間に話しかけた。すると、その空間から金色の光があふれ出した!
「そうですねえ。どうしたものでしょう」
金色の光は言う。
「正直、この泥ママとかいうやつはわたしの手には余る。というか……飽きてきた。というわけで、貴様の『はあとふる異世界転生 〜救いようがなさすぎる魂を更生させて救済しちゃおうプログラム〜』の5期生としてこいつを送りこみたい」
「ほほう。はあとふる異世界転生の5期生……もうそんなになりますか」
「うむ。どうだ。観世音」
ヘルメスがそう呼ぶと、空中から黄金に光り輝く女性とも男性ともつかない人物が姿を表した!
「どうも。観世音菩薩です」