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ぱららいす  作者: 筆上一啓
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1膳目 新米(しんまい)

 この物語はフィクションです。実在する人物、地名、企業、商品等とは一切関係ありません。一部性的連想をさせる表現を用いていますので年齢制限を設けていますが読むに当たっては自己責任でお願いします。

 ボクの名前はたわら 裏無りむ。家庭の事情によりこの春から祖父母に連れられてこの南九州の片田舎に住むことになった。そして、来週からはここの新しい中学に通うことになる。

 小学校時代の友達も知り合いもいないところに通うのに何の不安もないと言えば嘘になるが、まだ大人の力を借りなければ生きていくこともできない非力な子供なら耐えるしかない。

 じいちゃんが運転する軽自動車が国道から外れて一回り小さい県道らしき道に入る。さらに細い市道らしき道に入り、しばらくすると一軒の敷地の広い民家に入った。とても小さい時に来たことはあるらしいがあまり記憶にはない。しかし、ここが祖父母の家なのだろう。

 じいちゃんは玄関前の適当な位置に車を停めるとエンジンを切った。

「ついたぞ。リム。」

とじいちゃん。

「小さい頃に来たけど憶えてる?」

「ううん、あんまり覚えてない・・・。」

 ばあちゃんの問いにボクは力なく答える。

「しょうがないねぇ。本当に小さい頃だったから。」

と言うとばあちゃんはニコリと笑った。

 車から出て周りを見回すと目の前には、如何にも昭和建築と言った感じの木造平屋建てで、ボクが東京で住んでいたマンションより無駄に広そうだった。

 玄関から敷石が敷地の外に向かっている。その先にはさっき自分たちが入ってきた入口があり、さも入口と言わんばかりに大きな岩が入口の両端に鎮座している。その岩の横から道沿いにだけ石垣と植え込みがある。隣家はなく周りは田んぼに囲まれている。玄関から入口に沿って左手にいくらかの木が植えられている。南天、楓、松、モクレン、しだれ梅、桜・・・。そして、玄関から見て右手には小さな花壇があってパンジーなどがきれいに植えられている。

 敷地の奥には車庫があってそこには耕耘機が顔を出している。その他、農作業に使うものであろうと思われる道具が雑然とは言えないが整然とも言えない状況で置いてあるのが見える。

 玄関からぐるっと時計回りに見回し、最後に目に入ったのが全てが真新しい小屋だった。その小屋は雨がようやく凌げそうな、申し訳程度の屋根のついた渡り廊下で繋がっていた。

「じいちゃん、あれって・・・。」

と言って僕はその建物を指さす。

「ああ、あれがリムの部屋や。自分の部屋が欲しいって言っちょったやろ。」

 じいちゃんがドヤ顔で言う。

「あんな立派な物じゃなくて、一部屋もらえるだけでよかったのに・・・。」

 戸惑うボクにじいちゃんは、

「もとは馬小屋や。目に見えんとこは馬小屋の基礎や柱を補強しちょっでやっけなことねえで気ぃすんことなか。」

 じいちゃんはなるべく標準語でしゃべろうとしているのだろうけど、けっこう訛ってる。ゆっくりしゃべってくれるのでなんとなくは分かるがそれでも「やっけ」の意味は分からない。

「リムの部屋だけぇ、見てみらんか。」

 命令口調に聞こえるけど両親の離婚以降、ここに来るまでじいちゃんと話していてじいちゃんの住む地方では疑問形の時に語尾が上がるのではなく下がる場合があるみたいだ。だから、それに気づくまでは『じいちゃんは優しいのに強引なところがあるなぁ』と話すのを少し苦手に思っていた。

「いいの?」

「遠慮すっことなか。」

 そう言ってじいちゃんはさっき鞄にしまい込んだ鍵の束から一つのカギを取りボクに渡した。

「じいちゃん、ありがと!」

 この時ボクはきっとだらしなく、子供っぽく表情を緩ませていただろう。ウキウキとした気持ちが抑えきれなかった。小走りともダッシュとも言えない踊るような足取りで自分の部屋に向かうとカギの向きを確認して鍵を開けようとする。

 割としっかりとした扉でサッシの鍵とは違う重量感がありながらヌルっとまわる鍵穴に東京のマンションの玄関の鍵くらいの上質感を感じた。その上質感に部屋への期待感がさらに高まる。

 扉を開けると天然木の杉の木目がきれいに出ている板を縦に並べた壁になっている。丁寧に鉋掛けされており、表面にニスとは違う鈍く広く反射する光沢が出ている。同じ材料で勉強机と椅子も置かれている。部屋の奥には広い面にそって大きなサッシが外のウッドデッキに出れるようになっている。その窓の横にはクローゼットがついている。

 部屋の中央には親元から送られてきたボクの荷物が重ねられ、存在感を主張していた。ひとしきり見回してベッドがないことに気づく。板床なのでここに布団を敷く訳ではないだろう。

「じいちゃん、どこで寝ればいいの?」

 じいちゃんはドヤ顔で、

「それはなぁ・・・」

 と言ってウッドデッキに続く大窓の方に歩んでいくと近くの壁にあった畳1畳ほどの広さにいくつもの切り込みのある壁の前で止まった。

「ここをこうすると・・・。」

 と言って取っ手らしき窪みに手を入れると少し力を入れて引き出す。すると、たくさんの切込みが垂れてベッドの足になった。引き出されたベッドにはマットレスものっており、ベッドの隠れていた空間にはさらに奥があり、掛け布団と枕が収納されており、その他の空間は棚や本棚になっていた。

「すごい・・・。」

 思わず感動して固まってしまう。

「どげんね?」

 と再びドヤ顔を見せるじいちゃん。

「ホントすごいよ!『ビフォーアフター』みたいだよ!!!」

 素直に驚いて喜びを表現するとじいちゃんは、

「じゃっどが!」

 とじいちゃんも嬉しそうだ。

「ほら、あんたもいつまでも油売っとらんと家の事せんね!」

 ばあちゃんがじいちゃんに向かってそう言うと、

「よう!分かっちょ!」

 と言ってこちらに戻ってくる。

「リムちゃんも晩ご飯までにここを寝れるくらいには片付ちょくんよ。」

 ばあちゃんがそう言うと二人で部屋を出て行った。

「またあとでね。」

 ボクは二人が出ていくのをそう言って見送ると早速ウッドデッキの方へ向かい外に出ようと大窓を開ける。

 春らしい少し冷たく強めの風がタイミングを計ったかのように吹き込んできて、まるでボクが外に出るのを邪魔?と言うか、いたずらするかのようだった。

 心地よく風を感じながらウッドデッキを進み、手すりをつかむ。本物のウッドデッキで木目プリントのプラスチック製ではなかった。掴んだ手に重量感を感じる。木目の少しざらざらとした感触を撫でるととても心地良い。

 視線を上げ周りを見渡すと一面田んぼだらけだった。じいちゃん達の田んぼだけではないだろうけど見渡す限り田んぼが続いている。

 その田んぼはまだ田植えには全然早く稲も苗もない。雑草だらけと言う訳でもないが緑が大半を占めている。その中に自生しているのだろうか?赤みを強くした赤紫色のレンゲソウの花が、まるで手入れをされているかのように一面に咲き乱れている。

 再び強く少し肌寒い風が吹くとレンゲソウ達と一緒に周りの草花たちも揺れ、庭や視界の向こうにも見える桜が花びらを散らし、空を舞うとひらひらと舞い落ちる。薄紅の桜色の花びらがクルクルと舞うと細やかな光を優しく反射しきらきらと輝く。その一瞬の光景に心を奪われ時間のたつのを忘れてた。

 ここに来るまで正直あまり良い印象を持っていなかった。それは家庭の事情の責任を無責任にもここに擦り付けていたからだ。しかし、それを後悔し考え直すほどその光景は美しかった。

 少し体が冷えてきたので部屋に戻る。高揚感を抑えられないボクが次にとった行動は、ベッドの上のマットレスのスプリングの強さを確かめるかのようにベッドにダイブすることだった。誰もがホテルやホームセンターで分厚いマットレスを見ると試したくなるアレだ。

 少しきしむ音がしたけどグラグラすることなく意外にもしっかりとしたつくりになっていた。

 もう一度どのような仕組みになっているか確認したくてベッドから降りると何回もベッドを出し入れしてみた。木目の板に隠れて10㎝くらいの足が隠れている。それが引き出すときに自重で降りてくる。天板と足の間にできる隙間には、足が自重で降りてくるのを利用してワイヤーでその隙間を埋めるように横から桟が伸びてきて隙間を埋める。逆に天板を壁に収めようとすると今度は自重で足が折りたたまれ桟が引っ込んでいく。その仕組みに感心しながらさらに何度もベッドの出し入れをしていた。

 いい加減少し飽きたところで段ボールの山と戦うことにした。そうして、最初に手を付けた箱には『CD本など』と書いてある。漫画や小説など書籍類と音楽CDやDVDなどが入っている。早速開けて漫画などはベッドが収納されているさらに奥の棚に収めた。DVDなどのロムの類は今のところ部屋にテレビもパソコンもないので箱に入れたままにした。

「後ですぐに使わうない物はまとめてクローゼットの奥にでも置いておこう。」

 と思い、その段ボールをクローゼットの前に置く。

 次に開けた段ボールには衣類が入っていた。Tシャツやパンツなど薄手の物が中心の箱だった。それらを部屋に備え付けられたタンスに片付けていく。一人分にしては十分すぎるくらいのタンスには4割くらいの余裕を残してそれらの片づけを終えることができた。

 その次に開けた段ボールには冬物のコートなどかさばる衣類がいくつか入っていた。当然タンスには余裕があるので入りきるとは思ったが、しわになるのも嫌なのでクローゼットにしまうことにした。そのついでに春から行くことになる中学校の制服も試しに着てから同じくクローゼットに片付けようと段ボールと別に置いてあった白い長方形の紙製の箱に手を伸ばした。

 この制服を着るはずではなかったはずなのに、新しいものというだけで心が浮かれてしまう。そんな気持ちを抑えることもなく箱を開け、真新しい制服を自分に合わせる。

「やっぱり大きいなぁ。」

 自分には夢があって5年生の時から中学受験に励んでいた。合格が決まり制服の寸法を図りに行ったときに仕立屋?さんにも、

「男の子はすぐに大きくなるから1サイズは大きいものをご注文された方がいいですよ。」

 と言われた。本当はそこの中学に通い、そこの制服に袖を通して自分の夢をかなえるための勉強をしたかったが、未熟な子どもの力では大人の都合に合わせるしかなかった。

 ここに来る前にこっちの中学校の制服を注文する為こっちに来るように言われたがいろいろあった時期なので直接採寸はできず自分で測って連絡をしてじいちゃん達に注文してもらったのがこの制服なんだ。

 袖を通して鏡を探すも見当たらないのでスマートフォンのカメラ機能で自分を映す。

 真っ黒な昔ながらの制服。軍服のような襟、裾ボタン、絞りもないズボン。だけど、何かが変わったような高揚感がある。スマートフォンの画面越しに何度も角度を変えて自分を映し出す。

 上着を脱いで長袖シャツになると胸ポケットの上に刺繍してある校章が白いシャツに青くクッキリと目立つ。制服の上着にも黄色い校章の刺繍があったが真っ黒な生地に埋もれていて意識していなかった。

 スマートフォンから目を離し、直接シャツの校章を見る。稲が二束、下の方でリボンのように結ばれ、上に向かって稲穂が縦に楕円形を描いている。その中に『飯中』と書いてある。

 普通なら行くつもりもなかった学校に家庭の事情で急遽変更されたのだから八つ当たり的に制服や校章も『ダサい』とか『古臭い』とか『田舎臭い』とか批判するものだろうけど不思議と『カッコいいなぁ』と思った。何故だか分からないけど自分の琴線に触れている何かがあるんだろうと思う。

「さてと、いい加減片付けないと・・・。」

 自分を戒めるように独り言を言うと制服と冬物の服を片付ける為クローゼットに身体を向ける。

 制服を脱いで冬物の衣類をまとめた段ボールの上にポンと置くとクローゼットを開ける。当然のようにガランとしたクローゼット内に目線の高さでよくある金属製の物干しざおの様なものがある。後から気づいたがこの物干しざおは取り外せて広く押入れのような使い方もできるようになっていたようだ。

 そして、祖父母が用意してくれたであろう10個ほどの木製のハンガーがかかっている。その他には何もない。

 ・・・はずだった。ガランとした空間にまるで息をひそめるように気配を消して、クローゼットの隅に異様な格好をした子供が鎮座していた。

 歳は10歳くらいか?巫女衣装のような和装だけど、袴と頭にかぶっている帽子のようなものが祭りなどで見るような縦の紅白のストライプ柄だった。帽子は還暦の時に被るような、てっぺんが広く平らになっている。だから、見下ろすボクにはそこにいる子の顔が見えないので男の子か女の子かは分からない。

 その子はこちらに気づく様子はなく黙々と白飯を食べている。クローゼットの中でその子が座っているところだけ不自然に内側に出っ張っている。たてよこ70センチ、奥行き50センチくらいだろうか?その出っ張りの上にちょこんと正座して食事を続けている。

 茶碗のごはんが無くなるとその子は右手を裾に引っ込める。今まで持っていたお箸の代わりにしゃもじを取り出すとごはんをよそう仕草をする。すると空だった茶碗に何故だかごはんが何もないところから盛られる。

「えぇっーーーー!」

 思わず驚いて声が出てしまう。正直言うとこの子供を初めて見た時から人間ではないと薄々感じていた。だって、大窓も入口も閉まっていて鍵を開けたのはボク自身だったからだ。『近所の子供が偶然もぐり込んだ』などとはそうそう考えられない。そうなると初めて見ることになるが幽霊か何かと思った。だから、気付かないふりをして、とっとと衣類を片付けてクローゼットを閉めようと思っていた。不思議と恐怖感はなかったのでやり過ごせると思っていた。

 だけど、その手品のようなごはんのおかわりに思わずツッコミを入れるかのように声を出してしまった。

 声を上げるとその子はごはんをよそう手を止めてこちらを見る。目が合っているような合っていないようなボクの存在を声だけで認識したような素振りで無言で僕のいるあたりの空を見つめる。

 男の子とも女の子とも判別できない中性的な子供に不思議そうな顔で見つめられているだけなのにボクはなんとなく怖気づいて後ずさってしまう。

 その子の視線が僕を追った。「あっちからも見えてる!」と確信した。しかし多少怖気づいたものの恐怖感はそれほどない。この子の愛くるしい装いのせいかもしれないし、この子も警戒している様子がないからかもしれない。だけど、今現在ボクは理解を超えた出来事に直面し大いに混乱している。

「おはんはわいぐゎみうちょっとけぇ?」

「???」

 ちょこんと首をかしげて見た目より幼い印象を与える。子供らしい高いトーンだった。のほほんとしたその風貌に似合ったゆっくりとした口調で何かを聞いているのは理解できる。しかし・・・、

「えっ?なんて言ったの?」

 その子は今度はしゃもじを持った手をそのまま頬に充てて何かを考え込む素振りを見せると再び口を開く。

「おはんはぁ、わいぐゎぁ、みうぅちょぉとけぇ?」

 さっきよりもさらにのんびりとした口調で同じ言葉を発した。まるで呪文のような言葉に混乱するもあちらも一生懸命ボクの言葉の意味を考えて話してくれたのだからボクもちゃんと考えてあげて返してあげないといけないと思った。

「えぇっと、『見えてるか?』ってこと?」

 そう答えるとその子はボクの言葉を理解しようとするかのように少し考える素振りを見せるとコクンっと首を縦に振る。

「見えてるよ。」

 この返事にその子は表情を明るくし、左手に持つごはん茶碗を差し出す。

「ちゃわん?」

「よ!」

 差し出された物の意図を理解できずに名称を口にしただけだったがどうやら正解のようだ。見えているかの確認を更に行うために試しに差し出したようだ。そしてじいちゃんがよく使う『よ』はどうやら『そう、そうか』など納得するときに使う返事のようなものだと理解した。

「こいは?」

 とその子は次に右手に持つしゃもじを突き出した。

「しゃもじ?」

 と答えると今度は少し表情を暗くして、

「ちごか!めしげ!!!」

 と言った。

「めしげって言うの?」

 と尋ねるとコクンとうなずいた。そして、その『めしげ』を裾にしまうと先ほど手にしていたお箸を取り出して再びそれを突き出す。

「お箸?」

 と答えると再び表情を明るくしてコクンとうなずいた。そうしてソワソワとしながら何か考える様子を見せると、正座を崩してクローゼットの謎の出っ張りの上から足を放り出す。

「わいぐゎこっ、さわるっとけ?」

 と言うとその子は期待のまなざしを向けながら両手をボクに向けてきた。その所作を見て何を言っているのか意味は分からなかったが手を取ってほしいというのは分かった。

「試してみるね。」

 そう言うと一歩踏み出してその子に近づく。すでになんとなく人以外の何者かとは思ってはいたが、この状況に来ても不思議と恐怖感のようなものはなかった。

 いや、正確にははじめに目にした瞬間には正直驚いたし、少しは恐怖を感じていた。それは自分がこの部屋に入るまで密室だったのにも関わらず室内に、しかもクローゼットの中にいたからだ。押し入れやクローゼットの中から幽霊などが出てくるのは鉄板の怪談だ。恐怖しない方がどうかしている。

 だから、その恐怖感がその子と話すうちに薄れてきて危険な存在ではないと思い始めていたのだと思う。

 そうしてその子の手を取る。子供らしい柔らかくてボクよりほんの少し暖かく感じる手のひら、ボクより一回り小さい手のひらが愛着を感じさせる。

 その手をグッと握るとその子を立たせるように引き上げる。立たせようと思ったのはその子が足を崩し、足を放り出すと床に足をつけたからだ。小さい子が甘えてくるかのような所作にそうしようと直感で思った。

 その子自体は背格好に似合った重さをこの引く手から感じる。だけど、何かそれとは違う重さがそこにはあった。まるで水の中から引き上げるかのような抵抗感があった。まるでクローゼットの扉が結界のようなものになっているのか、そこを境に踏み込んだ左足も上半身も水中にいるかのような空気の重さを感じる。別に呼吸ができない訳ではないだろうけどその感覚に思わず息を止めてしまう。

 そのまま手を引きながらその重苦しい空間から抜け出そうと数歩下がってクローゼットからその子を連れ出す。

「おぉ、おぉ。」

 とその子は握った手を繋いだまま辺りを見回す。そしてそのまま袖の下やら足の裏やら全身を確認するかのようにキョロキョロとしている。

 ボクはそんな様子をほほえましく見つめながら、

「きみ、名前は?」

 と尋ねてみる。その子はキョロキョロとしているうちに自然と開いていた口を一度結ぶとゆっくりと深呼吸をして、そのリズムで名乗りだした。

「えびねやのひのひかりのみこと。」

「えっ?えびねの・・・?」

 あまりにも長い名前に、そして名乗るというよりは和歌でも詠むような抑揚に驚いて頭に入ってこなかった。

「みこと君?」

 何とか聞き取れた最後の方が当然名前だろうと聞き返すと、

「うぅんにゃ!!!」

 と少し怒ったような表情でかわいらしくほほを膨らませる。

「え?じゃあ、もう一度。」

 そう言うと再び、すぅっと息を吸うと一旦口を閉じ、ゆっくりとさっきと同じリズム、抑揚で再び名乗りをあげた。

「えびねやのひのひかりのみこと、ち申す。」

「えっ、どこからどこまでが名前なの?」

 もう一度聞いても名前のように感じないので思わず問い返す。

「ヒカリじゃ。その子の名は毘之斐伽璃ひのひかりじゃ。」

 その子の後ろから別の大人の女性の声がして、ボクの疑問を晴らしてくれる。だけど急な第三者の登場に驚いて「えっ!」と声を出してその子から目を離し、頭を上げて声のした方をみる。するとそこには形容しがたいくらいの美しい女性が立っていた。

 その女性もその子と同じような巫女のような和装で紅白の袴に還暦の時の帽子のようなものを被っている。帽子から出ている髪はとても長く床にまで垂れている。そしてその髪もまっすぐで艶やかで黒々としている。それがまるで小川のせせらぎが聞こえてきそうなほどに緩やかにしなやかに川の流れのように弧を床に描きながら垂れている。

 背丈は160㎝くらいだろうか?ボクより少し高く見下ろされている。その目は二重でぱっちりとしている感じだけど顔は正面を向いたまま僕を見下ろしているので半眼になっていて畏怖感を醸し出している。

 鼻筋は通っているけど日本人らしい高すぎない柔らかみと丸みのある鼻、小顔で小さな唇に紅を指していて、眉は自然な感じだけど恐ろしく整っている。美人とも言えるし可愛い系とも言える顔立ちでこれ以上は形容しがたいし説明できない。とにかくきれいな人だ。

 そして霊感のないボクにも分かる。『この人は神様だ』と思わせるほど後光と言うかオーラと言うか、目に見えない威圧感のようなものを感じる。

 威圧感と言っても重苦しいものではなく、女神らしい母性と言うか暖かで穏やかでどこか懐かしいようなとても落ち着いた気持ちになれる空間、優しさに包まれるような感覚だ。ただ、その密度が、質量が重さを感じさせているだけだ。

 そして、なんと言うかとても良い匂いがする。何かは分からないけど沢山の花々のような色とりどりの果物のような香りがする。

「かかさぁ~!」

 とその子は喜びの表情を浮かべるとその女性の方に振り向き、ゆっくりと土下座をするように袴を整えながら正座をし、両手を揃えて床につけると深々と頭を下げる。

「お母さん?お母さんにそんな挨拶ってするものなの?」

 と思わず思っていたことがそのまま声に出てしまう。その子は深々と頭を下げたままボクの言葉を気にする様子はなく女性の方が優しく微笑み、今度は顔をボクに向けて教えてくれる。

「母と言っても血の繋がりはないのじゃ。この子はおぬしらで言うところの付喪神のようなものじゃ。米の神の一人じゃからのう、豊穣の神として面倒を見てるまでじゃ。」

 やはり女性は神様らしい。そしてこの子も神様のようなものらしい。

「あなた様はどちら様でしょうか。」

 気が付けば空気に飲まれて敬語で質問してしまう。しかし、返ってきたのは返事ではなくどこからか一瞬で取り出した稲穂の束で頭をペシッと叩かれた。

「こちらから現れたとは言え神の御前じゃ。申立てがあるなら礼儀がある。まずは「申し上げます。申し上げます。』と申してこうべを二度下げ、こうべを下げたまま住まうところを申して、おぬしの名を申し上げてから申立てするものじゃ。」

 まるで小さな子を諭すような優しさだけどなんだか慣れないことを要求してくる。

「申し訳ありません。本日、ここに来たばかりで住所が分かりません。」

 少し抵抗はあったが要求に応えきれない部分があったのでそこをどうしたらいいか分からずその部分をどうするべきかを伺う。

「ならば仕方あるまい。二礼ののちに名を名乗るのじゃ。」

 少しあきれたような表情を見せたがすぐに優しい表情に戻して応えてくれた。

「申し上げます。申し上げます。」

 そう言いながら二度頭を下げて、

たわら 裏無りむと申します。」

 そう言うとこちらが再度質問するために一度頭を上げようと思ったけどその前に、

「申立てもそのままこうべを垂れたままじゃ。」

 と注意を受けてしまう。なんとなく礼儀知らずの自分が恥ずかしくなり顔が熱を帯びる。

「申し訳ございませんでした。改めてあなた様の事をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

「よろしい。えびねやのたわらのりむ、もう面てを上げてもよいぞ。」

 そう言われて頭を上げて再び女性と目を合わせる。途中、視界にあの子が入る。その子はすでに顔を上げてボクの方を見て様子を伺っているようだった。

「我は春の木花、豊穣、良縁、安産を司る神じゃ。人の付けた名は多々あるが、ここらでは『田の神』と呼ばれておる。」

 神様は優しい口調で、ボクに目線を合わせるように腰を折ると正体を明かしてくれた。

「リム兄さぁも、木花咲弥毘売コノハナノサクヤビメっばこっ、聞いたコツあっどがな?」

 ヒカリと呼ばれる子どもは自慢げに語るが訛りが酷すぎて半分以上意味が分からない。そして、いつの間にか『リムぁにさぁ』と親しげに呼ばれているのに更に困惑する。

「うふふ、さっそく懇ろ(ねんごろ)なるも良きかな。良きかな。」

 そう言って神様は神々しく微笑みを浮かべてボクらを眺める。

「かかさぁのこっは、『たのかんさぁ』っち呼んぐぁ良かが!」

 ヒカリと呼ばれる子どもはそう言うと嬉しそうにもじもじしている。小動物のような可愛さに弟か妹でもできた気分になって頬の筋肉がゆるむのを感じる。

 しかし、それどころではないことを気持ちが緩むギリギリのところで思い出す。再び神様の方に向き直って頭を下げて気になっていることを尋ねる。

「恐縮ではございますが、お二人は何故ここにいらっしゃるのですか?」

「おもてをあげるがよい。」

 神様は仰々しいオーラを放ちながらも優しい声で身体の自由を許してくれた。

「ヒカリは生まれて間もない米の品種の精霊でな、未だ充分な実を実らせられんのじゃ。そこで、ヒカリと波長の合うリム殿にひかりと夜伽よとぎを行ってもらいヒカリの成長を促してほしいのじゃ。ただ、ヒカリはまだ幼い。人と関わるのも初めてだからのう、わらわが代わりに願いに参ったのじゃ。」

 神様は語りながらヒカリに近寄り目線を合わせるように座り込み、頭を撫でてからボクの方を向く。

「夜伽とは何ですか?」

「夜伽とはとこを共にする...1つの床に二人で寝ると言うことじゃ。」

 神様たちの話す言葉は古い言葉が多いので所々で知らない言葉が出てくる。

「一緒に寝るだけ...?」

「その辺りの所作は好みもあろうし、リム殿に一任するところじゃ。」

 神様は戸惑うボクの質問に含みを持たせた笑みを浮かべて応える。「ほほほ」と口を手で押さえ笑いながら顔を隠すように後ろを向くと、ふと思い出したように顔だけを向けて訊ねてくる。

「ところでリム殿はよわい...歳はいくつじゃ?」

「12です。今年で13になります。」

「数えの13かぁ。元服前では経験はなくとも知識くらいはあるじゃろう。ヒカリも未熟なうえ、ここはわらわが一つ手ほどきを施そうかのう。」

 と神様が明らかに悪いことを考えている顔をする。再びどこからか取り出した稲穂の束を一振りするとボクは金縛りにあったように体の自由を奪われ、軽く宙に浮く。少しずつ衣類が脱がされながらベッドへと移動させられる。抵抗しようとしても声も出せず、全く動かず視線を動かすくらいしかできなかった。

 視線を泳がせる中でヒカリも同じような状況にあるのが見えた。ヒカリも予想外で驚いたような表情をしているが同じように声を出すことも動くこともできないようだ。

 その子もボクと同じように服が少しずつはだけていく。僕と違って和装だから肌が露出していくのが早い。あっという間に袴の帯がほどけるとスッと脱げて上着だけになる。重なっていた前身頃が広がってくる。

『女の子?!』

 ボクは声にならない声を出して驚く。ほぼ裸になったヒカリを見て驚きを隠せなかった。確かに顔は幼過ぎて男の子とも女の子ともとれたし、髪もほとんどが頭巾に隠れて見えていなかった。脱がされてショートボブくらいの長さと分かってもそれで性別を疑うほど余裕のある状況ではなかった。

 そんな慌ててるボクとは裏腹にヒカリは然程恥ずかしがる様子はない。目が合っても平然としていて、ちょっとだけ「困ったね?」と言わんばかりに作り笑いをする。そんな顔を見てボクは余計に恥ずかしくなって目を背ける。

「はぁ、男子のくせに度胸がないのぅ。」

 と神様はため息交じりにつぶやくと再び稲穂の束を振る。

 ボクの体は神様の方に引き寄せられ、抱き寄せられる。わざと胸の当たるように腕を組むと神様は妖艶な笑みを浮かべて、

「恐れるな。すぐに気持ちよくしてやる。」

 と甘い口調で言うと首筋にキスをした。

『ヒィッ!!!』

 再び声にならない叫びをあげると同時にボクは気を失った。

 

 

 

 ボクが女性恐怖症になったのは、ボクが女性アレルギーになったのは、忘れもしないあの女のせいだ。あの女が!あの女さえいなければ・・・。あれ以来、あの女とは最低限の会話しかない。ほんとのことを言えばあの女の事だけは『女』とも言いたくない。ほかの女性に失礼な気がするほどだ。ボクはあの女を母だとも女だとも思わない。汚らしいなにか。汚物のようにしか思えない。

 やっと、心の傷が少し癒えてクラスの女の子と話すことくらいはできるようになったけど、それでも触られるのは耐えられなかった。自分でも大丈夫だと思っていたけどクラスの女の子がボクに触れた瞬間、あの悪夢のようなシーンが甦り発疹と共に気が遠くなるのを感じてボクは倒れた。ボクに女性というトラウマを植え付けたのはあの女だ。よりにもよってボクを育ててきた実の母親と呼ばれる存在だった人だ。

 

 

 

「やれやれ、難儀な病を抱えておるのぉ。」

 気が付くとボクはベッドに横にされていた。神様はボクの椅子に座り不機嫌そうに腕と足を組んで座っている。

 ボクの顔を覗き込んで様子を見ながらおでこに生卵を擦り付けるように転がしてるヒカリが目に入る。何をしているのだろうとおでこを見ようと視線を上げようとすると『ズキッ』と痛みが走る。その痛みはちょうどヒカリが生卵を擦り付けている場所だ。生卵がそこに当たるとひんやりとして少し痛みが和らぐ。どうやら僕は気を失った際に倒れて頭をどこかにぶつけてたんこぶを作ったようだ。ヒカリはそれを癒そうとしてくれているらしい。

「だいじょっけぇ?」

「だいじょ...イタッ!」

 安心させようと思ったのに思わず走った痛みに声をあげて、逆に不安にさせてしまう。不安そうなヒカリの顔がボクを覗き込んでいる。

 さっきまでは何とも無かったのに女の子と分かったことからヒカリが顔を近づけると緊張が走る。不思議とクラスの女の子の様に不快感までは湧かないが苦手意識が思考と体を支配する。

()がらしかせんで、大人(おとな)しせんね!」

 そう言ってヒカリがボクを押さえつけるように肩を押さえつけてきた。ボクは抵抗したかったけど金縛りにあったように身体の自由がきかない。ヒカリはそっと優しく肩を押して寝かしつけると、思い出したように慌ててその手を引っ込める。きっとボクがまた失神すると思ったのだろう。


 ドンドンドンッ!

 

 荒々しくドアをノックする音が聞こえる。

「おっきか音がしたごたあるが、いけんしたっかっ?!」

 とじいちゃんの声が聞こえる。

「おじい...ちゃ、ん...、だい、じょ、ぶ...。」

 じいちゃんを安心させようと声を出すけど情けない声しかでない。

「だいじょっかっ?あくっどっ?!」

 案の定、ボクの情けない声に心配したじいちゃんは合鍵をドアにさしてガチャガチャと解錠を行う。ドアを開けるのと同時に「どげんしたっかっ?!」と言って部屋を見回すもボクより先に視界に入った人物を見て一瞬硬直する。

「よう、畔次郎はんじろう。ひさしいのぉ。」

「た、田の神さぁ!ご無沙汰しちょいもす。」

 神様がじいちゃんに話しかけると慌ててじいちゃんは土下座して挨拶を返す。

「た、田の神さぁ、申し上げにくかとですがぁ...畔次郎はおやじさぁん名でうっが名は畦太朗けいたろうじゃっですが。」

 じいちゃんは深々と頭を下げたまま本当に申し訳なさそうに間違いを指摘した。

「おおぉ、畦太朗じゃったか。誠にお主の一族とは縁があるものよのう?」

 二人の会話を聞いて「?」と思った。じいちゃんもひいじいちゃんも神様と会った事があると思わせるようなやりとりだった。二人にどういう関係か聞こうと思ったけど頭の痛みがジンジンと痛んで思うように声が出せない。

「田の神さぁ、そこんむぜかおごじょさぁは新しか田の神さぁであっとですか?」

「そうじゃ、その子は蝦根野比之日迦璃命えびねやのひのひかりのみことじゃ。お主がおれば勝手も判るし妾は安心して今年の新嘗祭を迎えられそうじゃ。」

「ひのひかり・・・。じゃっとやぁ、じゃっとやぁ。こげんむぜか田の神さぁがぁお越し下さっとどじゃあなぁ。」

 じいちゃんはしみじみとヒカリを見つめると懐かしそうな遠い目をして再び神様に尋ねる。

「田の神さぁ、みなみさぁは元気しちょいますか?近頃ちかごっはミナミヒカリをつくっちょとこもなかでどげんしちょっか気になっですがよ。」

 それを聞くと神様の表情は少し曇った。

「そう思うのであれば契りを交わしたお主だけでもあやつと続けるのが義理と言うものであろう・・・。」

 神様の悲しそうな表情を見てじいちゃんは、

「そんなら・・・、ミナミさぁは・・・。」

 と明らかに狼狽える。罪悪感に襲われ顔を覆い今にも泣きそうなじいちゃんをみて神様は急にケタケタと笑い始める。

「ほほほほほ、たばこうてすまぬな。妾とて人の親と変わらぬ。我が子同然のミナミと契りを交わしたお主が違う娘を娶り、今、違う米を育てておるのは面白くはないと言うものぞ。一度くらい謀ろうとバチは当たるまいて。・・・まあ、神にバチが当たる事もないがな。おほほほほ。」

 方言も古い言葉も分からないけどどうやらおじいちゃんは神様にからかわれたみたいだ。じいちゃんはバツが悪そうにしている。

「猛き者もいつかは滅びる、盛者必衰の理。しかし、そう案ずるな。ミナミはかつてほどの盛りは無いが細々とやっておる。見かけることがあればよろしくしてくれるか。」

 神様がそう言うとじいちゃんは深々と頭を下げて感謝の言葉を何度も繰り返していた。

 この後、神様がボクが倒れた経緯を説明して、それに答えるようにじいちゃんはボクの過去について説明する。

「此奴に触れた時に大体のことは分かっておる」

 と言う神様の言葉も聞いてか聞かないでか、じいちゃんはボクの過去をかいつまんで説明する。ボクにとってはできるだけ思い出したくない過去だ。ただ、これから行うヒカリとの「ヨトギ」と言うものを行う上で必要な事なんだろう。じいちゃんは困惑しながらも必死に神様に伝えている。

 ボクはなるべく思い出したくないから重い体を引きずって外に出ようとする。

「そげんだれっせぇ、どこいっとなぁ?!」

 ヒカリがボクの袖を掴んで引き留める。

「そうじゃ、お主はここで安生あんじょうせい。聞きたくないなら妾たちが外に行こうぞ。」

 神様はそう言うとじいちゃんを連れて外にでる。部屋にはヒカリと僕だけを残していった。ヒカリはボクの裾を引っ張りベッドに誘導し、再びボクを押さえつけるように寝かしつけるとまた生卵を頭にこすりつける。

 頭はまだ少し痛いがさっき立ち上がろうとした時も最初の時のように眩暈はなかった。少しなら声に出して話せそうな気がした。

「ヒカリ?もう大丈夫だよ。」

 ボクは今初めて女の子の名前を口にしたのに気付き、尻すぼみに蚊の鳴くような声になりながらその名を呼ぶと額の上で生卵を転がすその手をボクはそっと抑えた。ボクの女性恐怖症もなぜか自分より年下には現れない。だから、ヒカリには触れることができる。しかし、ヒカリは最初に手を掴んだ時とは違い、怖い物を見るかのように自分の手を引いてボクから距離を取る。

「大丈夫だよ。と・・・ヒカリには触れることができるから。」

 『年下には』と言おうとして辞めた。女の子でも年齢を気にするものだろうし、それに神様の類は見た目以上の年齢ってことは創作物でも神話でもよく聞く話だ。年齢のことで余計なトラブルを生みたくなかった。

「だいじょっけぇ?」

 不安そうな表情を浮かべながらヒカリはボクの顔を覗き込み恐る恐るボクの髪をなでる。ボクの顔を覗き込み様子を伺っている。卒倒も顔色も変わらないのを見て明らかな安堵の表情を見せる。

かごたぁねぇ。」

 と言うと先ほどの腫れ物を触るような手つきから猫でも愛でるような手つきでボクの髪を撫で続けた。

「大丈夫だからそろそろ身体を起こしてもイイかな?」

 とヒカリはプルプルと顔を横に振る。駄目だという意思表示みたいだ。

「身体を起こすだけだよ。どこにも行かないから・・・。」

 そう言うと少し不安そうにはしているけど納得たらしくボクから離れてくれた。

 これからどうしたものかと思案しているところにじいちゃんと神様が戻ってきた。

「リム、これから11月23日の新嘗祭までこちらん田の神さぁと一緒ん過ごすこっなっとで礼儀良っすっとど。」

 そう言うじいちゃんはヒカリの方に手を指している。

「この子と一緒に住むの?」

「そげんこっちゃ。」

 とじいちゃん。

「妾からもよろしく頼む。リム殿よ。詳しくはお主の祖父から説明を聞いてくれ。」

 神様はそう言うとまたもどこからか取り出した稲穂の束を玉ぐしを振るようにサッサッとボクとヒカリの頭の上で振ると、

「娘をよろしく頼んだぞ。」

 と言ってふっと消えていった。

 ヒカリは神様が稲穂の束をボク達の頭の上で振るあたりからボクの腕にしがみついていた。とても嬉しそうな顔をしていたから神様が帰った後に聞いてみた。

「随分と嬉しそうだけど、どうかしたの?」

 すると少し恥ずかしそうに顔を赤らめて、

「リム兄さぁがうっが旦那さぁになりおわすで、うれしがこっあっとです。」

 と・・・。

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 今日であったばかりの女の子が女性恐怖症のボクのお嫁さんになると言うことに卒倒しないまでも気が遠くなるのを感じたのであった。




                                            つづく。

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