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『埃は凄いけど、まあ外よりはマシだな』


ディオンは窓の外へと目を向ける。中へ入ると同じくらいに予想通り、雨が降って来た。かなり土砂降りだ。間一髪だ。風も強い。今夜は荒れるかもしれない。


城の中を暫し歩き、目についた部屋を簡単に検分する。どれもかなり古いが、使えなくはないだろう。


『此処にしようか』





取り敢えず、寝れるくらいには奇麗にした。ベッドや棚、床の埃を簡単に落とした。リディアも手伝うと言ったが、ディオンは一人でやった。何故なら自分の妹の不器用さを熟知しているからだ。


余計に部屋が大変な事になり、今夜は寝れないかも知れない……。



『ベッドで寝るなんて久しぶりだわ』


リディアの言葉に苦笑するしかなかった。全ての元凶である自分に何も言う権利はない。


『まだ、埃っぽいけどね』


『なら、自分で掃除しろ』


『意地悪』


拗ねながらベッドに横になるリディアを、背後から抱き締めた。柔らかくて温かい。香水などは一切付けていないのに、リディアからは何時も甘い香りがする。久々に屋根のある場所で、しかもベッドで共に眠る事になり、こんな時に不謹慎だが胸が高鳴るのを感じた。


暫く身動いでいた妹からは程なくして寝息が聞こえてくる。ディオンは身体を起こし、顔を覗き込んだ。頭に髪に首筋に頬にと触れて行く。

ぷくりとした赤い唇を親指で何度となくなぞった。


無意識に呼吸が乱れて行くのが、自分で分かった。所謂欲情だ。喉を鳴らす。


吸い込まれる様にしてリディアの唇に自身のそれを合わせた。久々だった。


触れるだけの口付けを何度も繰り返す。その内にリディアの唇が僅かに開かれ、直様自身の舌を捻じ込んだ。舌を絡めながら口の中を堪能する。頭の中が甘く痺れた。


貪っても貪っても、酷く喉が渇く。これ以上はダメだと頭の中で警鐘を鳴らし、名残惜しいがディオンは唇を離した。


リディアには、まだ自分の気持ちを伝えていない。


『お前は鈍いからな。どうして俺がお前を連れて逃げたかなんて、想像すらつかないだろうな……』


それでも妹は自分に理由も聞かずについて来てくれた。それが何故なのかディオンには、分からない。だがもしかしたら、パンを齧って食べれないとか、王太子とは結婚したくないとか強ち冗談ではなかったりするかも知れない……何しろ、この妹の事だ。


『俺がお前を愛しているから……誰にも渡したくなかったから、そう告げたら……リディア、お前は何て言うかな』


悲しむだろうか、怒るだろうか、それとも軽蔑するだろうか……。今はまだ怖くて、この気持ちを伝える事は出来そうにない。















三ヶ月。ディオンとリディアはこの城を寝床にし、二人だけの時間を過ごした。


追手どころか、人の気配などは皆無だった。まるで世界には二人しか存在しないのではないかとすら感じた。


近隣には街などはなかった故、食料はディオンが森へ行き獣や果物などをとりに出た。


『リディア』


『お帰りなさい』


馬と留守番をしていたリディアが、こちらに気付き手を振り、笑顔で駆け寄って来る。ディオンは荷を下ろし、リディアを抱き上げた。


瞬間、幼い頃に戻った感覚に囚われるが、それとはまた違うものも感じる。リディアと屋敷を出てから相変わらず喧嘩はするがそれ以上にこうやって触れ合う事が増えた。まるで恋人か夫婦の様だとディオンは密かにこの時を噛み締めていた。



就寝前の事。


『何処へ行くの』


この古城は確かに安全ではある。だが何時迄もいる訳にはいかない。そうリディアに告げると不安そうにしがみついて来た。


『分からない。ただやはり、人里に近い場所に落ち着くべきだ。此処ではずっと暮らして行くには限界がある』


何時迄も、野営の様な状態をリディアに強いる訳にはいかない。人がいない方が都合はいいが、逆に都合が悪いとも言える。食料もだが、もしリディアが病などにかかってしまったら医師に診せる事すらままならない。


『何処か小さな町の近くを探す。そこで二人で暮らそう。俺は町で仕事を探すから、お前は家事……は無理だな。馬と留守番でもしててよ』


『何その言い方!私だって家事くらい出来るわよ!これでも、王妃様付きの侍女だったんだからね』


『あのさ、お前のしていた侍女は一般のそれとは違うんだよ。お前には分からないかも知れないけど』


王妃はリディアを自らの侍女に据えたのは、今思えば将来的に王太子妃にする為だったのだろう。妹から聞いた話と照らし合わせれば良く分かる。


侍女としての仕事を多少やらせる事で欺いてはいた様だが、仕事内容の大半は所謂妃教育だ。もっと早くに気付けば……いや、気付いた所で兄である自分には結局はどうする事も出来なかった。


王太子妃にさせない方法はただ一つ。先に嫁がせる事だ。だが、それも自分には出来そうにない。ならばどの道、同じ道を辿る運命だったのか……。



ディオンはリディアを強く抱き締める。


『ディオン?』


『もう寝ようか。お休み、リディア』


額に触れるだけの口付けを落とす。すると、恥ずかしそうに身動ぎ笑った。


『お休みなさい』


ディオンの胸元に顔を埋めてリディアは眠りに就いた。ディオンも次第に瞼が重くなるのを感じ、そのまま目を閉じるのだった。


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