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ディオンは服に付いた砂埃を払う。レフと戯れていた所為で、服は大分汚れてしまっている。


あの後も、懲りずに立ち向かってくるレフを相手にしていたら、いつの間にか日は落ち辺りはすっかり暗くなってしまった。


そんな莫迦な上司等を尻目に隊員等は、一日の鍛錬を終え苦笑しつつ、早々に帰って行った。



「全く、しつこいよ。何度やっても変わらないんだから、諦めなよ」


未だ地べたに寝転んでいるレフに声を掛ける。するとレフは身体を起こし、子供の様に頬を膨らませた。


「嫌だ。絶対ディオンを負かしてやるんだから」


その言葉にディオンも、呆れ顔でずっと二人を座りながら眺めていたルベルトも疲れた顔をする。頭が痛くなってくる……。


「ああそう。なら一人でやってなよ。俺はもう帰るからさ」


「レフ。取り敢えず今日はもう諦めろ。今のままじゃ、何回やっても結果は同じだ」



やだやだやだ、と駄々を捏ねるレフを尻目に、ディオンとルベルトは踵を出すが、直ぐに立ち止まる事になった。それは行手を阻む人影が現れたからだ。


「……これは、白騎士団長殿。何か俺に用でも?」


黙り込みどこか虚な表情を浮かべているリュシアンに、ディオンは眉根を寄せる。


何時もと様子が違う。


「リディアの事で話がしたい」


リディア、その名前にディオンの纏う空気は変わった。鋭い視線をリュシアンに向けるが、彼は意に返す事なく話を続ける。



「私は彼女を愛している」


「突然何を言い出すかと思えば……」


一瞬呆気に取られるも、直ぐに我に返りディオンは鼻で笑った。


「私は本気だ。今し方、彼女に結婚を申し込んできたばかりだ」


リュシアンの言葉に、ディオンから笑みは消えた。顔から感情が抜け落ちる。


「それはまた、面白くない冗談だ」


「冗談などではない。それに、リディアは私からの申し出を快く受けてくれた。そう遠くない先、私と彼女は夫婦となる」


落ち着いた口調で淡々と話すリュシアンの意図を探る。嘘か真か……半々だ。リュシアンが元々リディアを慕っていた事は知っている。故にどちらの可能性も考えられる。


何処までが嘘で本当か……はたまた、始めから終わりまで偽りか、若くは真実か。


ディオンは表面上は平然を装いながらも、激しく心臓が脈打っていた。背に汗が伝うのを感じる。


リディアは本当に、リュシアンからの結婚の申し出を受けたのだろうか……。


「そこで、兄でありグリエット家当主である貴方にご挨拶と承認を頂きたい」



「……本人に確認を取るまでは何も言えない。……この話は又後日に」


嘘か本当かも分からない。だが無性に苛々していた。はらわたが煮え繰り返っている。リュシアンの顔を見ていたくない。これ以上この場にとどまっていれば、間違いなく剣を抜くだろう。



ディオンは話を切り上げその場を後にする。だかリュシアンの横を通り過ぎた瞬間、腕を掴まれた。


「何のつもりですか」


「妹を溺愛する気持ちは分かる。私にも可愛い妹がいる故。だが行き過ぎは感心出来ない」


腕を持ち上げられ、顔を近付けられる。リュシアンは、まるで秘密の話でもするかの様に囁く。



「血が繋がっていないとはいえ、妹に恋慕するなど莫迦げているとは思わないか?彼女の幸せを願うなら、リディアを私に渡せ。お前では彼女を幸せにする事は出来ない。大切な妹を不幸にするつもりか。私ならリディアを幸せに出来る」



カチャりと音を立てる。ディオンは剣に手をかけた。リュシアンも剣に手を掛けるが、互いが抜く前にルベルトに制しされた。


「ディオンよせ。こんな所で剣を交える気か。白騎士団長殿も余りうちの団長を煽る様な発言は謹んで下さいますようお願いします。どうしてもやり合いたいなら、剣術大会の時にでもなさって下さい。どうせ決勝に残るのは貴方達二人なんですから」



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