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リディアは一人城内の廊下を歩いていた。国王の側近へ王妃から頼まれた書簡を届けた帰りだ。今日は珍しくシルヴィは家の用事があるらしく休みだった。 


すると正面から女性達数人が歩いて来た。リディアは邪魔にならないように道を譲る為、一端立ち止まり廊下の端に避けた。普段シルヴィがいる時は、殆どこの様な事はしない。公爵令嬢である彼女が道を譲る事など稀だからだ。ただ今日はシルヴィはいない。


リディア自身も侯爵家故、相手にはよるが殆どの場合譲る必要はないのだが……余り波風を立てるのは好きではない。貴族社会において序列ある事は当たり前であるが、中には不満を抱えている者もいるからだ。自ら譲る事で済むなら、それで構わない。



彼女達がリディアの前を通り過ぎるかと思ったが、違った。何故か立ち止まったのだ。そして意外にも話しかけて来た。


「これはリディア様。ご機嫌よう。侯爵令嬢の貴女様から道を譲られるなんて、申し訳ありませんわ」


その言葉に背後にいた数人の女性達が、クスクスと笑う。耳に障る声だ。リディアに対して好感がある訳ではなさそうだ。


「でも、ほら。リディア様も身の程を弁えてらっしゃるのよ」


「まあ、そう言う事ですの?確かに」


「だって、本当は侯爵令嬢などではなく子爵令嬢なのだから」


甲高い品位の欠片もない笑い声が廊下に響いていた。リディアは直ぐには何を言われたか、飲み込めなかった。どうしたら良いのか分からず、暫し彼女達を呆然と見つめ立ち尽くしていた。


「あれ、リディア嬢。どうしたの」


そんな時現れたのは、マリウスだった。彼はリディアに気が付くと、何時もの様にニコニコとしながら近寄って来た。


「マリウス殿下……」


「そうだ。今時間ある?実は美味しいお菓子手に入れたんだ。一緒に食べない?」


不穏な空気を物ともせず、マリウスはリディアと女性達の間に割って入った。当然彼女達は驚いた様子で、黙り込む。嫌な笑みは引っ込み、気まずそうにしていた。


「あの、マリウス殿下……今はちょっと」


どう見ても取り込み中です、と続けようとするがマリウスに遮られた。


「あのさ、僕苦手なんだよね」


「え」


マリウスの脈絡のない言葉に、一人の女性が声を上げた。


「下品な笑い声って。女性の笑い声って可愛くて鈴が転がる様だけど、君達の笑い声って下品で聞いていて気分が悪くなるよ。それに人を莫迦にして相手を笑うなんて、侯爵令嬢とか子爵令嬢とかそんな事の前に、君達は人として最悪だよ」


彼女達が息を呑むのが分かった。


「し、失礼致します」


軽く会釈をすると、直様踵を返し立ち去った。かなり慌てているのか、一人躓いていたが、彼女を助ける人は誰もおらず、我先に逃げて行った。











「マリウス殿下、先程はありがとうございました」


リディアはその日の昼休憩に、マリウスと約束した裏庭へと来ていた。そこには簡易的な椅子、テーブル、その上には茶器やお菓子が並んでいる。


「構わないよ。さあ、座って」


マリウスに促されリディアは、彼の正面に腰掛けた。


「綺麗……」


「僕から君に、お土産だよ。沢山手に入ったから早く君に食べてもらいたくてね」


リディアの目の前には、宝石の様に美しい様々な果物の砂糖漬けが並べられている。


「アプリコット、君好きだろう?」


そう言いながらマリウスは自らリディアへ取り分けてくれた。


「ありがとうございます。覚えてて下さったんですね」


「君との出会いだからね、覚えてるよ」



リディアがマリウスと出会った時、リディアがまだ王妃付きの侍女になりたての頃だ。不器用なリディアは中々仕事が覚えられず、失敗ばかりだった。


やっぱり自分には、侍女など出来ないと自暴自棄になりながら中庭の隅で落ち込んでいた。そんな時声を掛けてくれたのがマリウスだった。


『何してるの』


『え、あの、私……』


ニコニコと笑いながら、地べたに座るリディアに手を差し出してくれた。


『大丈夫だよ。皆、初めは上手く出来ないものだよ』


『でも、一緒に働いてるシルヴィちゃんは、侍女になった時期もそんなに変わらなくて、私と一歳しか違わないのに、何でも出来て……。それに比べて私は何をやってもダメで』


噴水の縁に座り俯くリディアの前に、マリウスは膝をつきハンカチを差し出した。リディアは、不思議そうに目を見開く。


『お菓子……』


『乾燥させた果物だよ。食べる?』


何種類かある中からリディアは、橙色の欠片を掴み口に入れた。リディアの好物のアプリコットだ。


『美味しい~!』


『これ余りないけど、残り君にあげるよ』


目を輝かせリディアはハンカチごとマリウスからそれを受け取った。


『元気、でたみたいだね』


『は、はい』


現金な自分に恥ずかしくなりリディアは頬を染めた。


『頑張れそうかな』


『はい、頑張ります!』


マリウスは、優しく頭を撫でてくれた。





「あの時の君、本当に幸せそうに頬張っていたよね」


目を細めリディアをマリウスは見遣る。リディアは思い出し、恥ずかしくなり頬を染めた。


「お恥ずかしい限りです……」


あれから事あるごとに、マリウスとお菓子を一緒に食べる様になった。ただマリウスは、突然姿を見せなくなる事がままある。前回の地下室の時も、今回もだ。


「そう言えば、マリウス殿下。お土産と言う事は何方かにお出掛けに?」


「あぁ、ちょっと知人を訪ねて遠方にね。あれ、君の兄のディオンも一緒だったけど、聞いてないかい?」


「い、いえ、特には……」


まさかここでディオンの名前が出て来るとは思わず、リディアは戸惑った。


「そうなんだ。まあ、いいや。それでさっきの話なんだけど」


「?」


相変わらず、話に脈絡がない。リディアは首を傾げた。さっきとは一体……。


「あの令嬢達だよ」


珍しく真剣な顔付きになるマリウスに、固唾を呑む。


「今巷では君達兄妹の話題で持ちきりらしくてね」



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