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「そう言えば、エクトル様はいらっしゃらないのね」


何時もリュシアンと行動を共にしているエクトルの姿が今夜はなかった。珍しい……。


「エクトル様は、用事があるみたいで今夜は出席なさらなかったの……エクトル様もお忙しい方だから」


頗る残念そうにして、そう話すシルヴィは、寂しげに見えた。仲が良いのは知っているが、そんなに落ち込む事なのだろうかと違和感を覚える。毎日とはいかないが、かなり頻繁にエクトルとは顔を合わせている。リディアでそうなのだから、シルヴィならきっと毎日と言っても過言ではないと思われる。


それなのにも関わらず、何故……?


「次は出席して下さるかしら……」


小さくそう呟くシルヴィにリディアは、もしかして……と思った。

シルヴィはエクトルに会いたいと言うより、夜会に来て貰いたいのだ。その事実から分かる事は一つだけ。シルヴィはエクトルの事が好きなのだ……。少し意外ではあったが、大切な友人であるシルヴィの恋路を応援したいと密かに思った。







夜も更け夜会はお開きとなり、出席者達は次々と帰って行く。リディア達は暫く雑談を愉しんでいたが、リュシアンとシルヴィは挨拶の為、また行ってしまった。

リディアは手持ち無沙汰となり、窓辺で外を眺めていた。月が綺麗だなぁなんて意味もなく考える。だが直ぐに月は雲間に隠れてしまった。何となく気分も沈む。


「……」



今日はもう帰った方が良いかも知れない。多分シルヴィ達は当分戻らないだろう。シルヴィの事だ、リディアの事を待たせてしまったと、また気に病むかも知れない……誰かに言伝を頼み帰ろう。


リディアは、屋敷の侍従に声を掛けてシルヴィに言伝を頼んだ。



「こんばんは~」


「レフ、よせ。また怒られるぞ」



さて帰ろうかと思った時だ。不意に間の抜けた声が聞こえてきてリディアが振り返ると、どこか見覚えのある青年二人が立っていた。


「大丈夫だよー。今いないもん」


「いや、だからそう言う短絡的な考えだから何時も失敗するんだろうが」



この人達って、確か……。


「妹ちゃん一人?もしかして帰る所?」


妹ちゃんって……。


微妙な呼び名に、リディアは訝しげな顔をするが

、あぁ兄の部下の……と思い出した。そして失礼な態度を取る訳にはいかないと慌てて愛想笑いを浮かべた。


「えぇ、まあそうですが……。あの、ディオ……兄が何時もお世話になっております」


そう言いながら丁寧に頭を下げた。


「あ、いや、こちらこそ、君の兄上には世話になっている。俺は黒騎士団の一番隊隊長を務めているルベルトだ」


「僕は同じく黒騎士団三番隊隊長のレフだよー。もし帰るなら送ってあげる」


リディアはレフに対して、隊長なんだ……見えないな……と失礼な事を思ってしまう。


「レフ、だからそう言うのはやめておけ。後でバレても知らないからな」


ルベルトと言う青年は割とまともそうだが、このレフと言う青年……直感的に危ない気がした。距離がやたらと近いし、何より馴れ馴れしい。


「い、いえ。一人で平気ですから……お構いなく。では私はこれで」


早くこの場を去りたい、そんな思いから口調が少し早くなる。話を切り上げ去ろうとしたが……レフは予想以上にしつこかった。


「えー。遠慮しなくて良いよ?僕こう見えて結構強いから、頼りになるし。心配しなくても大丈夫だよ」


元婚約者の次は、ディオンの部下達に絡まれた。今日は厄日か何かか……。


「あの、本当に、大丈夫なので……」


「妹ちゃんは、ディオンと違って謙虚だね~。……可愛い」


童顔なのに妖艶に笑みを浮かべるレフに、リディアは息を呑み後退る。悪寒を感じる。


この人やっぱり、絶対、危ない人だわ……。


「はい、じゃあ帰ろう~」


「えっ、あ、あの‼︎」


人の話を完全に無視しながら、レフはリディアの腰を引き寄せ歩き出す。見た目に反して力強く、抗えない。半ば強引に連れて行かれてしまい焦るがどうする事も出来ない。




「ねぇちょっと、何でルベルトまで付いてくるの⁉︎」


不満気に口を尖らせるレフに、ルベルトは鋭い視線を向けた。


「お前一人に送らせたらどうなるかなんて目に見えてる。……俺はまだ死にたくないからな。理不尽な彼奴は、お前だけじゃなく絶対俺まで責めるに決まってるんだよ。彼女を屋敷まで確り送り届けるまでは見張ってるからな」


リディアはルベルトを見遣る。どうなるかは知りたくないが、兄が理不尽な事には酷く同意した。兄の事を良く分かっている人だな、なんて感心してしまう。


次の瞬間、頭上から小さく舌打ちが聞こえた。驚いて見上げると顔を歪ませたレフと目が合った。だがそれも一瞬の事で、彼は直ぐにあどけなさの残る笑みに作り替えた。


一瞬だった。だがリディアには分かった。きっとあれが彼の本性なのだと。



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