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「嫌がってるじゃないか。しつこい男は嫌われるよ。それに彼女とは、もう婚約破棄したんだろう?見苦しい」


ラザールは振り返り水を掛けた青年を見遣ると、慌てて立ち去ろうとするが、水に滑り尻餅をつく。余りに情けない姿にリディアは思わず笑ってしまった。


「わ、私は何も悪くないっ!私を受け入れない彼女が悪いんだっ」


ラザールは蹌踉めきながら立ち上がると、捨て台詞を残して今度こそ走り去った。


結局、私が悪くなるのね……最早呆れてため息すら出ない。




「大丈夫かい、リディア嬢」


優しく微笑み、ハンカチを差し出してくれた。


「ありがとうございました、マリウス殿下」


条件反射でハンカチを受け取るが、リディアは不思議そうにそれを見遣る。何故ハンカチ?ラザールは豪快に濡れていたが、リディアは別段濡れている訳ではない。


「顔拭いたほうがいいよ。気持ちが悪いだろう?」


悪戯っぽくそう言って笑う。成る程……その言葉にリディアは吹き出してしまった。


「久しいね。何時振りかな」


「私が婚約する暫く前から、マリウス殿下の姿はお見かけしておりませんでしたが」


「あぁ、そうだっけ。実は暫く地下の書庫で引き篭もってたんだ」


青年の名はマリウス。この国第二王子だ。見た目は爽やかな美男子だが、かなりの変わり者で有名だ。頭脳明晰で天才肌な彼だが、それ故か凡人のリディアにはたまに彼が何を言っているのか理解出来ない事がままある。


マリウスと知り合ったの数年前。リディアが王妃付きの侍女として城に通う様になった頃だ。ただ彼は王妃とは余り仲が良くないらしく、王妃の元へは滅多に姿を現さない。


「暫くですか」


「うん、九ヶ月くらいかなぁ」


さらりと、凄い発言をするマリウスに、リディアは目を見張る。


「そんなに、篭ってたんですか⁉︎」


成る程……道理で姿を見なかった筈だ。


「でもさ、久しぶりに外に出たら具合悪くなっちゃってね。その後、今度は二ヶ月くらい療養の為に自室に篭ってたんだ」


「それはまた、大変でしたね」


何時も思う。マリウスは何時会っても愉しそうだ。どんな時も、にこにこしながら、飄々としている。一見すると何も考えていない様に見えるのに、何を考えているか読めない。


「リディア嬢はその間、婚約して婚約破棄されたんだね。さっきの、傲慢ちきな彼に。君も大変だったね」


さらりと悪態を吐くマリウス。相変わらずだ。


「あー……ご存知なんですね」



どうやらリディアの事情は把握済みの様だ。説明する手間は省けたが、複雑でもある。乾いた笑いが出る。婚約破棄されるなんて恥ずべき事だ。きっと彼も女性側であるリディアに問題があると思っているに違いない。だが……。


「君は悪くないよ」


「え」


マリウスの意外な台詞に、俯き加減だった顔を上げた。


「君は、悪くない。だから君がそんな顔をする必要はないんだよ。悪いのは彼だ。彼から望んだ婚約にも関わらず、彼が浮気した挙句、彼から婚約破棄をした。しかもそれだけでなく、浮気相手に逃げられたからと君に復縁を迫るなんて、人としておかしい。間違っているのは彼であり、君じゃない」


急に声量を上げ話すマリウスに、どうしたかとリディアは目を見開く。広間に彼の声が響いていた。まるで周囲に聞こえる様に、一言一言ハッキリと話す。瞬間、彼の意図が伝わりリディアは目尻が熱くなる。


「マリウス、殿下……」


「そうそう、リディア嬢の今日の格好素敵だね!良く似合ってるよ。それ何色って言うんだっけ?黄土色?僕の好きな色だ。良いよね、その澱み具合が」


「……」


ただ女心は皆無だ。まるで理解していない。涙は引っ込んだ。褒められているのに、全く嬉しくない。マリウスの性質上、建前ではなく本音だろう。それが余計に複雑な気持ちにさせた。




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