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やはり来なければ良かった……リディアは壁の花になりながらそう思った。


ドレスが地味過ぎて逆に悪目立ちしている。そもそも婚約破棄されてから社交の場に出るが初めてで、現れたと思ったらこんな格好をしている。自暴自棄にでもなっている様にしか見えない。


故に誰も近寄って来ない。視線は痛い程感じているのに、誰も視線を合わせようとしない。関わりたくないのだろう……。


因みに始めはシルヴィが一緒だった。だが今宵の主役の一人であるシルヴィは挨拶回りで兎に角忙しい。

リディアは遠く離れた広間の奥へ視線を遣る。


シルヴィは沢山の年頃の男性達に取り囲まれていた。男性達の目は真剣そのものだ。どうにかしてシルヴィの心を射止めようかと躍起になっている様に見える。


自分とは違い相変わらず人気がある。

シルヴィは家柄は無論の事、容姿も抜群に良い。兄であるリュシアンも美男子で、妹も美女。

性格も良いし、人気がない訳がない。これまでシルヴィもそうだが、兄のリュシアン共に婚約者がいなかったのが不思議でならない。


もしかして、裏の顔でもあるとか……変に勘繰ってしまう。思わず息を呑む。


「……」


いや、まさかあの兄妹に限ってそんな事ないか、と思い直し邪念を打ち消けした。





「やあ、一人かい」


不意に掛けられた聞き覚えのある声に、リディアは振り返る。すると、そこには元婚約者であるラザールが満面の笑みを浮かべて立っていた。


「……」


なんか、見てはいけないものを見た気がする……疲れてるかも知れない……。きっとコレは幻覚?幻聴?的なやつね。そうよね、そうに違いない。じゃないと、浮気して居直って婚約破棄した癖に、何の悪びれもなく堂々と話しかけてこれる神経の人間なんて……いや、先日屋敷を訪ねて来ていたな……と思い直す。

やはり、紛れもなくラザール(これ)は現実だ。


だが、リディアは見なかった事にしようと決めた。どうせ碌な事にならないのは目に見えている。関わりたくないので直様踵を返そうとしたが、ラザールに腕を掴まれた。


「っ⁉︎」


「リディア、君に会いたかったよ!先日私が、わざわざ屋敷まで行ったら不在だったから会えず終いで、寂しかったよ」


気味の悪い笑みを浮かべながら、ジリジリと距離を縮めてくるラザール。リディアは後退るが腕が掴まれたままで、逃げられない。


と言うか、寂しかったって何事⁉︎身体を後に逸らしながらリディアは訝しげな顔をする。


「ラザール様……私に、何か御用ですか……」


「冷たいね。婚約者にそんな態度はないんじゃないかい」


「はい⁉︎」


聞き間違えだろうか、今婚約者と言われた様な……リディアは唖然とする。


「君と会えなくなってから、私は寂しくて死んでしまいそうだったよ」


「浮気されて婚約破棄なさいましたよね、そちらから」


「毎日毎日、朝昼晩と君の事ばかり考えていた」


「私はつい先日まで貴方の存在自体を忘れていましたが」


「君を想うと、食事も喉を通らず……」


「私は寧ろ、食欲が戻りました」


「だが、こうして君と巡り会う事が出来た。やはり君と私は運命だったんだ!そう、運命と言う名の赤い糸で結ばれていた!」


「……」


全くリディアの話を聞いてくれない。延々と一人話し続けている。一体何だと言うのか。ラザールの豹変した態度にリディアは困惑していた。


「相手の女性は如何なさったんですか……確かフェオドラ様とか仰っいましたよね」


リディアが面倒臭そうに尋ねた瞬間、ラザールは固まった。

余程嫌な事でも思い出したか……目や口を大きく開いた状態で動かない。


変な顔……余り人の容姿を云々言わないリディアだが、率直に出た感想はそれ以外無かった。


「……‼︎」


リディアは暫しラザールの変顔を黙って眺めていたが、突如ラザールは我に返った。いきなり動いたと思ったら、今度は嘲笑しながら鼻を鳴らし声を荒げる。忙しい人だ……。


「あの女は最低だ‼︎下品で常識の欠片もない。私の様な素晴らしい夫がいるにも関わらず、他の男と浮気をしていたんだ!しかもそれを指摘すると居直りやがって、終いには私ではなく浮気相手の男が良いと宣いやがったから、捨ててやったんだ!」


「はぁ、そうですか」


夫という言い回しに……あ、あの後直ぐに結婚したんですね。でも、捨てられたんですね。随分と色々早いですね。と冷静に思った。


ある意味で凄い人だ。リディアと婚約して一カ月で浮気して半年で婚約破棄。その直後浮気相手と婚約、結婚。浮気相手が浮気して、離縁。これを一年しない間にやって退けた。


「私は目が覚めたんだ!やはり、私には君しかいない‼︎さあ、リディア、恥ずかしがらずに私の胸に戻っておいで‼︎」



「え、ちょっとっ胸って、気持ち悪っ……やめて下さいっ‼︎」


余りの事に思わず本音がだだ漏れだ。だがそんな事を気にしている余裕などない!兎に角逃げなくては……。



ラザールは鼻息荒くリディアに顔を近付けてくる。生温い鼻息が顔に掛かり全身鳥肌が立つ。

リディアは必死に身を背後に引くが、力が強く敵わない。ラザールの唇が段々と近付いて来て……。


気持ちが悪っ過ぎるっ‼︎助けて、誰かっ…………ディオンっ……‼︎



唇がラザールのそれと触れる、とリディアは諦めキツく目を瞑った。が、次の瞬間気づいた時には身体は解放されていた。


リディアはゆっくり目を開けると、そこには頭から水を被り呆然と立ち尽くすラザールがいた。そして背後には、水を掛けたであろう犯人の姿があった。



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