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滞在六日目の朝。


「オリヴァー、エマ、ありがとう」


「道中お気を付けて」


門の前まで見送りに来ていたオリヴァーとエマに、リディアは礼を述べた。


「リディア様、宜しければこちらをお持ち下さい」


エマは少し大きめの籠を手渡す。中を覗くとパンに野菜やベーコン、卵を挟んだ物が沢山詰められていた。


「美味しそう~、ってちょっと」


感嘆の声を上げる。見ていたらお腹が空いてきた。が、ひょいと籠をディオンに取り上げられてしまう。


「皆で頂くよ。エマ、妹が世話になったね。またこれまで同様頼むよ、オリヴァー」


簡潔に挨拶を済ませたディオンから、馬車に乗る様に促された。


「リディア様、またお会い出来ます事を心待ちにしております」


オリヴァーは丁寧に頭を下げ、やはり豪快に笑った。
















「疲れた……」


「大丈夫ですか、リディア様」


「取り敢えずは、平気~」


リディアは久々の自室で寛いでいた。ベッドに寝転び、ゴロゴロする。心地がいいし、やはり落ち着く。


また5日程掛かった帰りの道中。行きよりはマシではあったが、疲労感は凄い。故に帰りの馬車は終始寝て過ごした。ディオンには呆れられたが、限界だった。そんな兄はというと、余裕そうに見えた。やっぱり体力が違う……と思ったが疲労で倒れた事を思い出して、思い直す。


兄は、例えどんなに疲れていようが顔や態度には出さないのだ。それは体調に限らず、精神的にも……きっと悲しくても辛くても同じだろう。ふとディオンの顔が脳裏に浮かび、目を伏せた。


ずっと……我慢してきたのだろうか……。


鈍い私はそんな事、気付かなかった……。


ディオンの為に、何か出来る事があればいいのに……彼の役に立ちたい。




「それでね、街の人達から、こんなに沢山貰ってね」


その日の夕食の時間、リディアは嬉しそうに滞在期間中の話を、ハンナやシモンにした。如何にディオンが領民達から慕われていたかや、孤児院の子供達と遊んだ事、ディオンが体調を崩した事も話した。


「ディオン様、もうお加減は宜しいのですか」


シモンは心配そうに、リディアの隣りで黙って食事をしているディオンを見遣る。


「大丈夫だよ。大袈裟なんだよ、コイツは。俺はそんな柔じゃない」


「え、だってあんなに具合悪そうに」


「黙れ」


有無も言わせず話を終わらせる。ディオンはしれっとしながら食事を再開した。これ以上言うと絶対不機嫌になるので、リディアは話題を変える事にする。


「あ、そうそう!ブノワにお礼言わないとね。子供達にマカロン渡したら、凄~く喜んでくれたのよ!向こうでジャム調達して、挟んで食べたらもう頬っぺたが落ちそう……」


痛いくらい視線を感じ、リディアは途中で口を噤む。


「何それ、聞いてないんだけど。何時の間に俺に隠れて食べた訳?」


急激に部屋の温度が冷え切った。不穏な空気が流れる……。


つい口が滑ってしまった。リディアはバツの悪い顔をしてそっぽを向く。


「あー……ほんの一口だけ、よ……食味よ、食味!」


「俺が許可してないのに勝手に食べるなって、言っただろう⁉︎」


苛々した様子でテーブルを強く叩く。予想以上に怒っているディオンに、リディアは身を縮こませた。


「何でお前は、俺の言う事が聞けないんだ。だから、莫迦だって言ってるんだよ!」


「な、何よ!そこまで言わなくても良いじゃない⁉︎莫迦って何よっ!ディオンの莫迦‼︎」


リディアは顔を真っ赤にして、怒りながら食事が途中にも関わらず食堂を後にした。




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