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リディアは、街中(まちなか)を歩き出して暫くしてある事に気が付いた。


物凄い視線を感じる……。


以前ディオンと城下の街へと出掛けた時も視線は感じたが、比にならない。大袈裟かも知れないが、街中(まちじゅう)の人々の視線を集めていると言っても過言では無い。


「私……どこか、変かしら……」


前回の教訓を生かし、エマに頼んで地味なドレスを用意して貰った。これなら目立たない筈だと思ったのだが……。今日はディオンはいない。あの時は、兄がいたから一瞬で怖さも不安も無くなった。だが、今日はいない……少し、足がすくんだ。


「如何なさいましたか。やはり、店まで馬車を使われた方が宜しかったのでは」


萎縮して、小さくなりながら歩くリディアを不信に思ったオリヴァーが話し掛けてくる。店まで馬車で行く事は出来たが、敢えて歩く事にした。折角此処まで来たのだ。グリエット家の領土内を自分の目で見て確かめたいと思ったのだが……やっぱり少し自分には荷が重いと言うか早いと言うか重いと言うか……頭の中でうじうじと考える。


「う、ううん、大丈夫よ!」


不意に、何時も飄々として何事にも動じる事のない兄の後ろ姿が頭を過った。


……そうよ。私だって……確りしなくちゃ。もう、幼い子供ではないのだから。どんな時でも、毅然と堂々たる振る舞いの出来る人間になりたい。







「オリヴァー様」


暫くリディアがぎこちなく歩いていると、直ぐ後ろを歩いていたオリヴァーに少し歳のとった男が声を掛けて来た。



「そのお嬢さんは、どちらのお嬢さんですか」


オリヴァーは「私の遠縁の娘です。可愛らしいでしょう」と、やはり豪快に笑った。


リディアは目を丸くする。何故そんな嘘を吐くのだろうか。


「オリヴァー様の遠縁のお嬢さんなんですね」


少し腰の曲がった身綺麗な歳のとった男は、目を細めリディアを見ながら優しく微笑む。それにリディアも微笑み返した。


「いえ私は、グリエット侯爵の妹です」


キョトンとしながら条件反射で返す。


すると瞬間オリヴァーの顔色が変わった。笑顔は変わらないが、緊張しているのがリディアにも伝わってきた。


「領主様の妹君ですか⁉︎」


これまで遠巻きにリディア達に視線を向けていた人々が、一斉に歓喜の声を上げた。


「領主様には、本当に感謝しております!」


「領主様は、お元気ですか?」


「領主様のお陰で……」


「領主様が……」


気が付けば周りを民衆に取り囲まれ、口々にディオンへの感謝の念を告げられる。始めは戸惑い、恐怖すら感じたが、次第に彼等が本当にディオンへ感謝する想いが伝わってきて怖さは薄れた。寧ろ、逆に嬉しくなる。


「これ、宜しければ‼︎」


「こっちも、持って行って頂戴」


「そんなら、うちのも」


そして、何故か次々と食べ物などを押し付けられ、呆然としながらリディアはそれらを受け取るが、持ちきれなくなり落としそうになる。オリヴァーと従者二人が手分けして持ってくれたので、安堵した。


でも何か、お供え物みたい……と思った。


「皆様、余り騒がれますと妹君も驚かれています故、そろそろ私共はこれで……。参りましょう」


半ば強引に話を切り上げたオリヴァーは、リディアを促し足早にその場を後にした。


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