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母ロミルダの葬儀から、半年程経った頃。


あの男の考えそうな事だ。



あの日から、父への感情が変わった。これまでは、どんなに母を蔑ろにしようとも、強く毅然とした父への憧れや尊敬の念はあった。いつか認められたい、いつか父の様になりたいと、そう思っていた。


だが、今は違う。


俺はあの男の様にはならない。


認めて貰わなくて、結構だ。


この頃から、暗く冷たい感情に支配されていった。








「ディオン、お前の新しい母だ」


まだ、母が死んでから半年しか経っていないと言うのに、あの男は再婚すると言い新しい女を屋敷に連れてきた。


「初めまして」


瞬間、ディオンは目を見張った。似ていると、思った。優しく微笑む女の姿からは、一見すると母とはまるで違う印象を受けるが、纏う雰囲気や何より顔立ちが似ていた。


様々な感情が溢れ出し、ディオンは奥歯を噛んだ。母は、この女の代わりに……いや、もしかしたらこの女も代わりなのかも知れない……。


「貴方がディオンね。今日から、宜しくね」


母の面影がある女は、手を差し出してくるがディオンは女を睨みつけながら、微動だにしなかった。マルセルは、そんなディオンへ叱責をする。だが、それを無視した。


その場に不穏な空気が漂う。


女は眉根を寄せ困ったように、微笑んでいた。


「あぅ」


そんな空気を変えたのは、女の足にしがみ付いていた小さな存在だった。


意識を父や女に集中していたディオンは全く気付かなかった……。小さな存在に目を見張り、それを凝視した。


すると、それはヨタヨタと危うい足取りでこちらへと迷いなく向かってきた。その間、何故だか目が離せなかった。


「だあぁ‼︎」


そう嬉しそうに言葉になっていない声を上げながら、それはディオンに倒れ込む様にして抱きついてきた。


何処までも澄んでいる大きな瞳が見上げてくる。抱きついている、それは酷く温かくて、柔らかくて、どうしたらいいのか分からず困惑した。


「あぅ?」



だが……気付けばしゃがみ込み、その温かな存在をディオンは抱き締めていた。何故そうしたのか自分でも分からない。


でも、無意識に抱き締めたかったんだ……。


誰かに抱き締められた事も、誰かを抱き締めた事もなかった。こんなに温かいものなんだと、それを抱き締めた瞬間身体が心が震えた。


涙なんて、流すつもりじゃなかった……。


「男子たるもの、涙を流すなどと情けない」


父の怒りの様な呆れた様な声が頭上から降ってくる。だが、止める事が出来ない。物心付いてから、ディオンが涙を流したのはこれが初めてだった。


「マルセル様、怒らないで下さい」


まだ何かを言いたげな父を優しい声が制した。女はディオンへとゆっくりと近寄って来て微笑むと、小さなそれと一緒に抱き締めてくれた。


「ディオン、この子はリディア。私の娘よ。そして私はフィリーネ。……ねぇ、ディオン。私の事は無理して母と思わなくていいわ。でもね、この子の事は貴方の妹にしてあげてくれないかしら」


その日、俺には家族が出来た。優しい母と、無邪気で無垢で愛らしい妹という家族が。


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