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母の葬儀の日、今にも雨が降り出しそうな程澱んだ涅色の空だった。


棺に横たわる母は、冷たく固く、まるで物の様だった。父は参列しなかった。妻の死すら興味がないのだろう。


ディオンは涙を流さなかった。不思議だった。あんなに、母の笑顔が見たくて、構って貰いたくて仕方が無かったのに……涙が出ない。


悲しい筈なのに……自分は感情が欠落しているのだろうか。


ディオンは茫然と立ち尽くしながら、ただただ母の棺を眺めていた。



まだ若いのに…………御子息も小さいのにね、お気の毒ね……。


耳に入ってくる大人達の会話が何処かぼんやりと聞こえてくる。終始哀れむ言葉ばかりだった。だが、それら雑音に混ざりある会話だけが鮮明に聞こえてきた。



「本当酷いわ……。昔からロミルダはずっと彼を想い続けていたのよ。それが念願かなって結婚出来たと思ったら……まさか別の女性の代わりだったなんて」


母の知人の様な口振りだった。

ディオンは、聞こえていないフリをしながら会話に意識を集中する。


「それって、ロミルダの……の」


「そうよ。でも、その……には恋人がいて」


「だけど、あの侯爵なら奪っちゃいそうじゃない?……何で、……」


「それは、……の相手が…………」


少し距離があった事に加えて、風が強く、言葉が途切れ途切れで聞こえ辛い。


「成る程ね。それは侯爵でも手は出せないわね」



「そう。でも諦めきれなかった侯爵は、……に良く似ていたロミルダを妻に選んだのよ。ロミルダはそうとは知らずに、始めは望まれた結婚だと喜んでいたけど……息子が生まれからは全く会いに来てくれないと嘆く様になってね……それで理由を侯爵に尋ねたそうよ。そうしたら、代わりだった事、跡取りがが出来れば用はないと言われたらしくて……それからロミルダは塞ぎ込んでしまって……いくら政略結婚だって酷い話よね……」


誰の代わりだったのか、諦めた原因は分からなかった。だが、何故父があんなにも母に興味がなかったのかだけは、ようやく分かった。



その瞬間、無だった感情は悲しみではなく怒りへと変わり、身体が震える。





母の棺に土が被せられていく。澱んだ涅色の空から、冷たい雨が降ってきて……次第に雨足は強くなっていった。


大人達は、足早にその場を後にしたが、どうしても立ち去る事が出来ず暫く動けなかった。


頭の中に浮かぶのは、ディオンに背を向け、ただ窓の外を眺める母の姿。最期に一度だけ見た笑顔はもう、忘れてしまった……。


此処を離れたら、母とは本当の意味で永遠にお別れだと思った。どの道、もう死んでいるのに可笑しな事だとは思う。


俯き雨に濡れながら、母親の墓の前から動かないディオンに、使用人のシモンは傘をさし続けた。








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