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兄のディオンとリディアは血が繋がっていない。リディアの母はリディアが幼い頃にディオンの父と再婚した。と言っても母は初婚だったらしいが。


未婚の母だったのだ。本当の父親が誰なのかはリディアは知らない。母は最期まで何も言わなかった。


両親が結婚した当時リディアはまだ一才だった故、この屋敷に来た時の記憶はないし、気づいた時には母がいて父がいて兄がいて、この屋敷で暮らしていた。


だから兄と血が繋がっていないと言われても余りピンと来なかった。確かに兄とは似ていない。兄は誰もが認める程の美男子だし、頭もかなり良い。それに加えて武術も秀でている。まあそれはこのグリエット侯爵家が騎士の家系であり、その血を兄は色濃く継いでいるからという理由もあるだろう。


一方リディアは、周囲から容姿を褒められこそするが、自分では至って普通だと認識している。所謂社交辞令だ。侯爵令嬢という肩書きも手伝っていると思う。頭の方は……認めたくないが余り良くない。

手先も不器用だ。ただ武術だけは、それなりのものだと自負している。


幼い頃はよく兄に稽古をつけて貰った。だが成長するにつれて大人達はリディアから剣を取り上げ、その代わりに綺麗な扇子を持たせた。ヒラヒラのドレスや装飾品を身に付けさせ淑女になるようにと厳しく躾けられた。


が、リディアは淑女とは程遠い存在に成長してしまった。外ではそれなりに取り繕う事が出来ても、自邸に帰ると気が抜けだらけてしまう。だから婚約していた間、ザラールの屋敷ではかなり窮屈な日々を過ごした。




話は戻るが、母はリディアが六歳の時に病で亡くなっている。元々身体が弱い人だった。そして父もその四年後に事故で亡くなってしまった。

それからはリディアが婚約して屋敷を出るまでの間、ディオンと兄妹二人で暮らしてきた。


兄は才色兼備だが、欠点が一つある。性格の悪さだ。ついでに口も悪い。外では良く知らないが、リディアの知りえる限りでは、頗る悪い。まあ、随分とモテている事から外面はいいのかも知れないが。


昔は優しかったのに……随分と変わってしまったと思う。


だがリディアも人の事は言えないし、割合気が強い方なので、そんな兄とは合わなかった。顔を合わせれば喧嘩する事も少なくない。


二人きりの家族なのだから、本音では仲良くしたいとは思ってはいるのだが……中々素直になれない。





ディオンの部屋に着くと、彼をベッドに横にする。口を少し開けて寝息を立てる姿は普段からは想像がつかないくらいあどけない。口が達者で憎たらしい姿など微塵も感じさせない。


……昔の兄を思い出してしまう。


「寝てる時は、可愛げがあるのにね……」


リディアはディオンの頬を軽く指で突っついて笑う。

あんな風に軽口叩いて話したり、こうやって身体に触れるのも幼い頃以来だ。


「ん…………」


「ほら、ちゃんと掛けないと風邪引いちゃうからね」


「うん……。リディア?……どこ行くの」


リディアがディオンにシーツを掛けてやり、部屋を出ようと踵を返すと腕を掴まれた。


「どこって、私ももう寝るから部屋に戻るのよ」


そう説明するが、何故かディオンはリディアの腕を離さない。寧ろ掴む力が強くなった気がした。


「ダメ」


「は?」


兄の意外な返事に思わず素っ頓狂な声が洩れてしまう。


「ダメ、リディア、一緒に寝よう」


上目遣いでリディアを見て、甘えた声を出してくる。


「え、何、どうしたの?頭、大丈夫?酔ってるのは分かるけど、本当に。それともボケ始めた?」


「ボケてない…………昔はよく一緒に寝ただろう」


「いや、それ何時の話よ⁉︎」


「煩いな、大きな声ださないでよ。頭に響く……それよりさ、いいから」


押し問答している間にもリディアはディオンの強い力でベッドに引き摺り込まれる。


「ちょっ、ねぇ!……ディオン?ねぇってば!……嘘、寝ちゃったの⁉︎」


リディアを抱き枕の様に抱えたままディオンは寝息を立てていた。


「信じられない……と言うか、酒臭っ……最悪なんだけど……」


絶対に離すまいと言わんばかりに、確りと抱えらていて身動きが取れず、結局そのままリディアは諦めてディオンの抱き枕となり目を伏せた。




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