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「ご無沙汰しております、ディオン様」


誰……⁉︎


リディアが先に馬車を降りると直ぐ視界に入ってきたのは、恐ろしく堅いの良い大柄の男だった。顔も、かなり強面だ……。リディアは反射的に身体をビクつかせ後退りすると、後から降りて来た兄の背に隠れた。


「あぁ、オリヴァー。久しぶり」


ディオンは別段気にする素振りもなく彼と話し始める。リディアは二人の様子を伺い見る。


「いつも、任せっきりで悪いね」


「勿体無いお言葉でございます。ディオン様、今食事を用意させておりますので、暫しお待ち下さい。お疲れでしょうし、部屋でお寛ぎながらお待ち頂けますよう」


兄がオリヴァーと呼んだ彼は見た目に反して、かなり丁寧で穏やかだ。だが、やはり少し怖い。リディアはディオンに隠れながら、兄の袖をぎゅっと握りしめた。


「あぁ、忘れてた」


まるで思い出したかの様にワザとらしくそう言うと、ディオンはリディアの腕を掴み前へと引っ張り出す。


「紹介するよ、俺の妹のリディアだ。かなり未熟者だからさ、かなり迷惑掛けるかも知れないけど、頼むね」


満面の笑みで、嫌味ったらしく言われた。そして「挨拶しろよ」と軽く小突かれた……。分かっているが、怖いものは怖い。


だがこのままでは、かなり失礼だと思い直す。

戸惑いながらもリディアは、スカートの裾を上げ優雅なにお辞儀をする。


「初めまして、ディオン・グリエットの妹のリディア・グリエットでございます。何時も兄がお世話になっております。ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません」


「これは、ディオン様の妹君でしたか。お噂通りとても愛らしいお方ですね。私は、グリエット家領土の管理を任せて頂いておりますオリヴァーと申します。こんな(なり)をしておりますが、小心者の軟弱者ですのでご安心下さい」


そう言いながらオリヴァーは、豪快に笑った。















部屋に案内されたリディアは、夕食が出来るまでの間休んでいた。ようやく馬車から解放され、暫しひと息を吐く。まさか馬車に乗っている事が、こんな大変なのだと思わなかった……。何事も経験が大事だと身をもって実感する。


「リディア様、お茶をお淹れ致しました」


「ありがとう」


そう言ってカモミールのお茶をテーブルに置いたのは、滞在期間中リディアの世話をくれる事になったこの屋敷の侍女のエマだ。彼女は女性にしては大柄で恰幅がよく、豪快に笑う。何となく、先程会ったオリヴァーを思い出した。リディアはエマを凝視する。


……やっぱり、似てる。


「如何なさいましたか」


「え、あの。……エマとオリヴァーが、何となく似ているなぁと、思ったの」


おずおずと、遠慮がちにそう話すとエマはにんまりとする。


「然様ですか。それは私とオリヴァーが姉弟だからでございます」


「そうなのね。でも姉弟で、屋敷勤をしてるのね」


成る程……道理で似ている筈だ。リディアは納得する。



「それなんですが、実は私は現在はこちらのお屋敷の侍女でございません。私には夫も子もおりまして、普段は家族の世話をしております。住まいも街の外れにございまして……ただ今回リディア様がいらっしゃっいましたので、弟から急遽呼び戻されまして」


詳しく話を聞くと、エマは婚前まではこの屋敷で住み込みで働いていたが、結婚してからは辞めて街で家族と一緒に暮らしているそうだ。


「そうだったの、ごめんなさい。私の為に……」


予想外の話にリディアは、驚きつつ申し訳ない気持ちになった。


「エマ、私なら大丈夫だから、家族の待っている家へ帰ってあげて頂戴。きっと、お母様がいなくて寂しがっているわ……オリヴァーには私から話しておくから」


リディアの申し出に今度はエマが、目を見張る。だが直ぐに困った様な笑みを浮かべた。


「軽率でした。余計な事を口にしてしまい申し訳ございませんでした。リディア様の優しいお言葉、痛み入ります。ですが、リディア様の様な貴族の姫様が、私の様な卑しい者へお心を砕く必要はございません。リディア様は、そのお生まれを誇り堂々と振る舞い下さい」


こんな言い方をしているが、彼女は決して自分自身を卑下している様には見えなかった。エマがどの様な思いで話しているかは、リディアには分からないが……堂々と毅然とした姿の彼女は、強く美しく見えた。 


生まれを誇り堂々と、ね。内心苦笑した。


彼女の言った貴族の姫の自分は、一人では何も出来ないただの小娘だ。情けなく、恥ずかしい。


「……そうね、分かったわ。でもね、エマ。……家族は一緒にいるべきなのよ」



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